結果的にはその強さをいっそう際立たせるゲームになった。今シーズン初めてリードを許して試合を折り返し、遂に連勝も12でストップか――。一時はそうした空気も感じられたほどの前半から一転、後半の勝負どころを逃さずきっちり仕留めて3得点を挙げた湘南が逆転で熊本をくだし、開幕から13連勝と記録を更新した。
試合後の選手達の言葉は対照的だ。
「(前半終了時点で)90分終わった後みたいな感じ」(原田拓)、「後半の早い時間帯に追いつかれてしまって、失点してからの気持ちを起こせなかったところもある」(園田拓也)と、熊本側の選手からは相当な消耗と、失点によって受けた精神的なダメージがうかがえる。一方の湘南はと言えば、「自分たちを信じてやり続けた」(秋元陽太)、「逆転できると信じてやっていた」(永木亮太)、「自分たちのスタイルをいつも通りに出せれば問題ない」(菊池大介)と、追う立場に置かれても全く動じることなく、「先に食らって割り切ってできた」と曹貴裁監督も振り返ったとおり、立ち返るべき自らのスタイルをよりどころに流れを引き戻してみせた。
とは言え、それも熊本が「真っ向勝負」を挑んだからこそ。前半、風上のエンドになった条件も生かし、熊本は立ち上がりから湘南DFラインの背後へ積極的に長いボールを供給。一発で収まる場面は少ない中でも、最終ラインを押し下げながら中盤との間を伸ばし、そのスペースでセカンドボールを拾ってサイドへ展開する形から徐々にペースを掴む。2ラインのブロックを作りつつ、スライドしながら縦に入れるコースを消し、ボールに対する早いアプローチから湘南の組み立てを寸断するなど、守備においても狙い通りの展開に持ち込み、16分、澤田崇の今季3点目で先制する。
園田からのフィードに抜け出した澤田を背負う形で、ボールを処理しようとした湘南DF丸山裕市がつまずき転倒したのはラッキーだったとも言えるが、序盤から執拗に背後を狙ってDFを後ろ向きにさせたこと、そしてそれに対してしっかりプレッシャーをかけ続けたことがもたらした先制ゴール。これ以降も熊本は20分に齊藤和樹が右からドリブル突破を見せる等、完全にペースを握る。しかし湘南は、「相手の出方を感じて、自分たちの形を変えながらボールを動かせるように」(曹貴裁監督)、自分たちで修正を施した。26分に三竿雄斗のクロスからウェリントンがボレー、28分には大きな展開から宇佐美宏和がワンタッチで折り返し遠藤航の右足シュートが左ポストをかすめ、38分にも武富孝介のドリブルを起点に中から右、さらに左へと動かす形から最後は永木、さらに45分にも三竿のクロスから遠藤がヘッドと、ゴールこそ割れなかったが中と外、縦と横を組み合わせる展開から決定機を量産。実際、熊本の4本に対して5本と、公式記録のシュート数は前半の数字だけで上回っている。
こうして30分前後から引き戻した流れを後半も持続させることができた要因が、右サイドに投入された藤田征也の前への勢いであり、「ボックス内ではパスじゃなく、シュート、突破だ」という曹監督の言葉をそのまま、チーム全体で表現した姿勢だ。まずは後半開始早々の47分、エリア外ほぼ正面で浮き球を収めたウェリントンから武富孝介、永木とつなぎ、菊池が左足で決めて同点に。その後も、運動量が落ちてプレッシャーとセカンドボールへの反応が緩くなった熊本を圧倒すると、67分に右サイドをえぐった永木のクロスを大槻周平が決め逆転、直後の68分には再び永木が持ち込んで左へ開き、三竿のクロスをウェリントンが合わせる。叩き付けたヘディングシュートはクロスバーに当たったが、跳ね返りを自ら左足で押し込み3点目。あっという間に熊本を突き放した。
曹監督が「タフになったと思うが、その頂上はまだまだ先にある」と言えば、「これからも慢心せず、続けることが大事」(秋元陽太)、「ここで気を緩めると勝ちから遠ざかることもあるので、しっかり締めていきたい」(永木)、「連勝していても悪い面もたくさんある。しっかり自分たちと向き合って、J1での戦いを見据えた練習や試合をやっていきたい」(菊池)と、13連勝という結果にも選手達から出てくる言葉が示す矢印は常に先を向く。何より圧巻だったのは、2点差として以降も攻撃の手を全く緩めず、カウンターのチャンスと見れば一気に4、5人が駆け上がり、かたやピンチとなれば前線のウェリントンや大槻までもが自陣深い位置まで戻って身体を張った守備を見せたこと。おそらく、思うように運べなかった前半の戦いぶりも、さらなる成長のための血肉としてしっかりと吸収されることだろう。
一方、敗れた熊本は前半30分ごろまでの戦い方が素晴らしかったからこそ、湘南に学ぶ点が多い試合だった。終盤まで落ちることのない運動量、ゴール前へ入って行く迫力と決定機をモノにする精度、試合の流れを感じ取って対応するピッチ内での判断と修正力など、小野剛監督が試合後に話した通り、「全ての石を取り出してしっかり磨いていく」ことが、自分たちのスタイルをさらに強固なものにする術だ。湘南との再戦は第2クール1発目の22節(7月20日@BMW)。「自分たちもああいう風になっていきたい」と原田が話したように、それまでの約2ヶ月で重ねる前期の残り9試合、1歩ずつでも成長し、差を詰めたい。
以上
2014.05.12 Reported by 井芹貴志
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