長かった・・・
13節目で迎えた今季ホーム初勝利。7度目のトライで、ようやく味の素スタジアムで、勝利のラインダンスを見ることができた。

森勇介の出場停止、平本一樹の負傷欠場により、田中貴大が右サイドバックで今季初出場・初先発、FWには菅嶋弘希が開幕戦以来のスタメン出場となった。先制点が取れれば勝率がグッと上がる東京Ｖは、立ち上がりから積極的にリズムをつかみに行った。
これまでは、平本、常盤聡で1トップ、トップ下の縦配置にしていた2トップだが、この試合は常盤、菅嶋との横並びに2トップを置く。そして、前半早い時間は、うしろから長めのボールをFWに入れ、打開していく展開が目立った。両翼も効果を発揮し、左にはパスの鈴木惇、右にはスピード突破の安西幸輝と、タイプの違う2人が安在和樹、田中のサイドバックのオーバーラップを生かしながら、常盤、菅嶋も絡めて、小気味よい攻撃をしかけられていた。

そんな中、北九州が徐々にギアを上げつつあった前半14分だった。相手のミドルシュートを姜成浩ブロックしてからのカウンター。菅嶋がボールを拾い常盤に渡すと、収めた常盤がドリブルで仕掛け、相手GKがペナルティーエリアぎりぎりの位置まで前に出ているのを確認すると、センターラインを少し越えたあたりからゴールめがけて左足でロングシュートを放った。頭上を越す見事なループが無人のゴールに吸い込まれた。「相手のGKが前に出ているのは見えていたし、実はその前から、試合が始まってすぐに、前向きにチャンスを狙ってくるGKで、DFとボールをゆっくり回しながら、ポゼッションしたがるタイプだと思っていました。どこかでその隙をつければと、常に狙ってはいました」“たまたま”生まれたのではなく、狙いの１つとしていつでも準備できていた、必然のスーパーゴールだった。
これで常盤は、第8節vs水戸戦に続き、古巣での連続得点となった。自身は「本当にたまたま。もしかしたら、気づかないところで意識は違うのかもしれないけれど、自分の中では特別“古巣だから”というのは全くなくて、どの試合も大事な一戦です。まず、勝利のために貢献できるかしか考えてない」と、淡々と語ったが、相手チームのサポーターにとっては、しっかりと成長が見られた、憎くも嬉しい活躍だったと言えるのではないだろうか。

この1点が決勝点となったことは、収穫と課題の両面を物語っているようだ。守備面で、無失点で終われたことが、何よりの収穫だろう。特に、前節vs讃岐戦で1人退場者を出しながらも、最後まで無失点でしのぎ切ったことが自信となり、この試合も最後まで集中力を切らすことなく、2試合連続の完封は１つの成果とも言えよう。また、無失点とはいえ、バーに当たって失点を免れるなど、ピンチも迎えたが、「運も味方してくれていると思う」（井林章）。これまでは、逆にポスト直撃でゴールを阻まれるなど、紙一重のところで運なく苦杯を舐めた試合が何度かあっただけに、ツキを味方にできるようになった時点で、チームの流れがプラスに働き出したと捉えていいのではないだろうか。
一方で、「最近、複数得点できていない。もっと攻撃でも貢献したい」（DF安在）、「DFが頑張っている分、複数ゴールできるように前の選手がもっと頑張らないと」（常盤）と、ポジションに関わらず、追加点が取れなかったことを「課題」としている。特に、何度か決定的なチャンスを逃した菅嶋は、「もっと落ち着いてシュートを打てるようにならないと」と、猛省していた。

それでも、得点こそなかったが、「平本（一樹）さんも出られなかったので、責任感の方が強くありました」という菅嶋の出場89分間通した攻守に渡る、精力的で体を張ったパフォーマンスは、見ていて非常に爽快だった。「得点以上の働きをしてくれた」と、三浦泰年監督も最大の賛辞を贈っている。華奢な印象だが、相手とのボディーコンタクトにも負けず、振り切って突破する強さ、何度倒されても決して屈しない勇ましさ。そして、何よりもGKが足で操っているボールや、ペナルティエリア内でのGKとDFのボール回しにガンガン詰め寄り、プレッシャーをかけたり、そのわずかな隙を狙ってでも得点チャンスを伺う姿勢は、簡単にできそうで、やれる選手はそう多くはない。まさに点取り屋の本能を見た思いで、実に頼もしかった。初めてコンビを組んだ常盤も「FWらしいFW」だと、絶賛した。平本を加えた、3人のFWのそれぞれの組み合わせが、今後実に楽しみだ。
菅嶋は、自身の19歳の誕生日となったこの日（5月11日）のメモリアルゴールは、残念ながら果たせなかった。だが、「自分の得点よりも、チームがホームで初勝利できたことが一番のプレゼント」と、あどけない笑顔を浮かべたのだった。

ホーム初勝利で、「ようやくスタートが切れる」（三浦監督）東京Ｖ。「正直、勝ちに慣れていないチームなので、今は連勝するのが大事」だという田村直也主将の言葉通り、初の連勝で勢いにのり、次節vs熊本戦へ万全な準備をして立ち向かう。

北九州は、初の4連勝を目指したが、叶わなかった。前半、少しずつ自分たちのリズムになりかけていたところで常盤の技ありゴールで先に失点したことで、自分たちのサッカーを思い通りにすることが難しくなってしまった。「良い時は、GKからの素早い攻撃ができるのに、今日はその形も作ることができませんでした」と、風間宏希は振り返る。前線にボールを入れよとするところでのパスを、東京Ｖの守備陣にことごとく狙われ、奪われたことで、原一樹、池元友樹ら得点源になかなか良い形でボールを送ることができなかった。
それでも、一瞬の隙をついて何度か好連携から決定機を作ったほか、後半途中からは、渡大生を投入したことによって右サイドからの仕掛けが非常に効果を発揮し、相手ゴールを脅かすシーンも見られた。「引いてる相手に対して引っ張り出して、そこでアタッキングサードのところで崩しきって取るような得点の形が、彼らなら作れるんじゃないかなと思います」と、柱谷幸一監督は、選手たちの能力に全幅の信頼を口にいている。「今日みたいにブロックを引いてきた相手を、同崩していくか。この敗戦をきっかけに、またみんなで突き詰めていきたい」（風間）今後、何度も対戦するであろう、引いた相手に対してどう崩していくのかの克服が、今後上位に君臨し続けるためのテーマとなりそうだ。

以上

2014.05.12 Reported by 上岡真里江