試合後のペトロヴィッチ監督は上機嫌だった。それも当然であろう。守りを固めてきた大宮を崩して2点を奪い、逆に大宮にはシュート6本で決定機もほとんど作らせなかったのだから。特に守備に関して、「昨年は失点が多いと指摘されていたが、おそらく今の我々は最少失点に近いはずだ」と、4試合連続の完封に胸を張った。ピッチには強風が吹き荒れたが、さいたまダービーに波乱はなく、順位通りの実力差、チームの完成度がそのまま表れる結果となった。
この試合の4日前、国立競技場で行われた甲府vs浦和(0−0)の試合後、甲府のボランチ新井涼平から聞いた言葉が印象に残っている。
「浦和の一番の脅威は、攻撃というよりも、僕らが奪ったあとにすぐ守備に切り替えて奪い返しに来る速さでした」
そのとき傍らにいた浦和のボランチ青木拓矢も「それ、すごく要求されてるんですよ」と証言したが、実際に甲府はボールを奪ってもすぐに浦和に寄せられ、ミスを連発し、蹴り出すボールも正確さを欠き、浦和にボールを渡しては2次攻撃、3次攻撃を受けていた。それは新井だけの感想ではなく、甲府の城福浩監督が浦和の最も警戒すべき点として認識していたことは、ポゼッションについて語る次の言葉からも明らかだ。
「押し込めば押し込むほど全部が成功するわけではなく、相手に奪われることも増えるが、奪った相手が余裕のないプレーをすると、そこで奪い返すことがビッグチャンスになる。奪われても奪い返してパス2〜3本で決着をつけるのが今のサッカーシーンで本来のポゼッションの姿だと思う」
要するに今年の浦和の強さはそこにある。人数をかけて攻め、押し込み、奪われたらすぐに切り替えて激しく奪い返しに行き、相手のミスを誘ってショートカウンターで仕留める。このさいたまダービーでも、大宮の失点はいずれも最終ラインでボールを奪った後に、余裕のなさから生じたパスミスを奪われ、先制点はそこからパス1本、追加点はそのままドリブルで持ち込まれてのものだった。
その2ゴールに絡んだ柏木陽介は、「大宮の守備は、(同じ引いて守る5−4−1でも)甲府とは全然違った」という。「甲府の守備はしっかり限定されて崩すのが難しかったけど、大宮はスペースがあって、余裕を持って自分のプレーができた」(柏木)。浦和は大宮の守備ブロックの間のスペースを有効に使って攻撃して大宮を押し込んだ。そのためにボールを奪った大宮の選手には、正確につなぐ余裕がほとんどなかったし、そこをかいくぐれたとしても時間がかかって、チーム全体が前向きになるころには浦和の守備の人数はそろっている。後ろに人数をかけて守る分、攻撃ではなかなか前に出て行けない大宮は「前線で起点と厚み、時間が作れず」(大熊清監督)、浦和の守備は楽だったはずだ。9分にロングボールを長谷川悠が頭で落とし、走り込んだ富山貴光がミドルシュートを放った場面では浦和を多少慌てさせたが、その後はきっちり対応され、前線に良いボールを付けられなかった。
ただ後半は、「浦和が前の3枚を残して、後ろは守ってカウンターという形」(渡邉大剛)になっていたことと、大宮も「守備でもう少し前から行こうということでマンツーマン気味で」(今井智基)プレスをかけに行ったことで、マイボールの時間も多少増え、撃ち合いのようになる場面も出てきたが、その良い流れになりかけた中から喫した2失点目が致命的だった。
その後、家長昭博を前線に上げて4−4−2の形で攻めに出るが、浦和ゴールを脅かしたのは後半24分の渡邉の縦パスをスイッチに左サイドを突破し、中村北斗のミドルシュートが枠を襲った場面くらい。終盤には菊地光将や福田俊介ら空中戦に強いDFを前線に送ってパワープレーに出たが、パスをつないで崩そうとしてロングボールやクロスがなかなか入らないところを見ても、大宮はチームとして意思統一ができていないようだった。
試合後の大宮ゴール裏にはブーイングさえ起きなかった。選手の個の能力はひとまず置いても、どういうサッカーをやるのか、チームとしての意思統一、成熟度に、同じ市のライバルチームとは明確な差があることを見せつけられた。切り替えの部分で浦和が大宮を上回り続けられたのは、浦和はチームとしてやることが明確だからだ。ケガ人などの事情もあるが、大宮は指揮官も認めるように、「チームとしてのベーシックな部分が揺らいでいるところがある」。即効薬はなく、中断期間に立て直しを図るにしても、それでも中断前の最終戦となる次節の鳥栖戦(5/17@ベアスタ)で、首位の相手に何かしら徹底したものを見せることが、一番の良薬になるはずだ。
鳥栖が勝利したため首位奪還はならなかったが、それでも勝点1差で2位をキープした浦和と、仙台が勝利したことで17位に後退した大宮、順位の上でも残酷なコントラストが描かれた。大宮にとって、あまりに苦いさいたまダービーだった。
以上
2014.05.11 Reported by 芥川和久
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