ターンオーバーという言葉を使うことを、森保一監督は好まない。「その時点でのベストメンバーを使う」という言い方に徹するのは、若き指揮官の哲学だ。
「どんな過酷な連戦にも全く動じず、ずっとハイクオリティの選手がいればいいんだけど、僕たちは人間ですからね」。
以前、こんなことを言いながら苦笑いを浮かべていたこともあるが、それはまぎれもない本音だろう。優勝するチームはメンバーが固定されるものだが、それは精密なコンビネーションや阿吽の呼吸を合わせるための必然。だが4週間で11試合+長距離移動の連続という過激な連戦を戦いぬくためには、ロボットだってそれなりのメンテナンスが必要になる。まして、選手たちは人間。コンディションと実力発揮確率は比例する。
森保監督は今回の連戦において、コンディションとクオリティのバランスを考えて選手たちを配置した。その結果、ほぼ毎試合スタメンは変化中。第7節、対F東京戦を起点とする連戦中、全試合で先発を果たしたのはGK林卓人だけ。佐藤寿人・森崎和幸のベテラン二人はほぼ1週間に1度のペースでの起用が続き、疲労が目立った石原直樹・青山敏弘・塩谷司の3人も神戸戦ではスタメンから外れた。攻守にハードさが要求されるアウトサイドは今や3セットが準備され、野津田岳人や浅野拓磨、川辺駿らの若手も積極的に起用されている。
「総力戦で戦うしか、ないんです」と森保監督は語るが、これほど選手を入れ替えて試合に臨みながら、JリーグでもACLでも結果を出せているのは、広島の選手層が厚みを増した証明。そしてその下支えは、ケガでの離脱が一人もいないというコンディション戦略の成功にある。いくら選手を入れ替えて闘いたくても、ケガ人が続出している状況(昨年の今頃がそうだった)では、それは絵に描いた餅。選手たち個々が自らの肉体に対して興味を持ち、研究して、常に闘える身体をつくる努力を怠らないというプロ意識。そのベースの上に松本フィジカルコーチを中心とする戦略的なコンディショニングが加わった結果、「ケガ人ゼロ」という奇跡のような状態ができあがった。
明日も、森保監督は「その時点でのベストメンバー」を起用する。7日(水)のACL、ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ戦に先発した選手の何人かは、ベンチからも外れる可能性すらある。それはもちろん、来週のACLラウンド16第2戦への準備という意味合いもあるだろうが、何よりもコンディションとクオリティのバランスを考えて、「連戦で起用するよりもフレッシュな選手をここは投入しよう」という判断ができるだけの人材がそろっているということだろう。
3連敗を喫し、苦境を乗り越えようともがく清水に対して、指揮官は「連勝・連敗が続いているけれど、直近の新潟戦を見てもアグレッシブなサッカーを表現できている」と見ている。前線のノヴァコヴィッチや大前元紀の才能は誰もが脅威を感じているし、「中盤には経験のない選手たちが何人もいるけれど、たとえば竹内涼や六平光成ら優れた若者たちが中盤で能力を見せている」と森保監督は警戒する。広島のポゼッションに対してアグレッシブなアプローチを続け、高い位置でのボール奪取から勢いを持って速攻を仕掛けてくる清水に対し、安易なプレーは絶対に許されない。
ただ、体調不良から復帰以降、有効性の高いプレーを続けている森崎浩司は「相手のことをどうこう考えるより、自分たちがしっかりと準備して、広島のサッカーをやりぬくことだけを考えればいい」と言い切る。「もしかしたら、いろんな形で広島への対策を講じてくるのかもしれないけれど、そういう相手とは何度もやってきた。激しい守備を仕掛けられれば、裏があいてくるし、セットプレーのチャンスも増えれば自分たちのストロングポイントも活かせる。いずれにしても、前線の選手たちといい関係をつくって、崩していきたいですね」。
4連勝の後、3連敗。前節・新潟戦は後半アディショナルタイムで同点ゴールをもぎとりながら、不運としかいいようのないオウンゴールで敗戦を喫した。ただ、粘り強い戦いぶりは「選手たちを誇りに思う」というアフシン ゴトビ監督の言葉そのものの情熱を感じる。オウンゴールの当事者となったカルフィン ヨン ア ピンも、屈辱を晴らすためにも絶対に広島を抑えこもうと闘志を燃やして闘ってくるだろう。
個々のレベルが高く、連敗脱出に燃える清水との戦いで、中2日の広島にとって厳しい状況に陥ることは容易に想像がつく。だが、ワールドカップ中断前としては最後のホームゲームとなる広島もまた、絶対に譲ることのできない戦い。意地のぶつかりあいがスパークする激突は、明日14時にキックオフだ。
以上
2014.05.09 Reported by 中野和也
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