「『やられた』という試合内容じゃなかった。負けたけどチームの雰囲気は悪くない」（工藤壮人）。
前節の鳥栖戦は開始早々の失点を鳥栖に守りきられての敗戦となった。しかしその他は崩されたシーンもなく、ミス絡みの１失点が重く圧し掛かる結果だった。柏の連勝は３で止まったが、ここから仕切り直しである。
それよりも、懸念は多発する怪我人である。レアンドロ、大谷秀和、栗澤僚一、増嶋竜也、ハン グギョン、輪湖直樹、昨年から負傷離脱中の藤田優人、そして鳥栖戦翌日の練習ではプロ入り初スタメンを飾ったばかりの秋野央樹も練習に参加していなかった。前節の『登録メンバー１７名』というのは、まさに切迫した台所事情の表れ。この非常事態をどう乗り切るのか。柏の総合力が問われる。

今節対戦する新潟は、失点数はリーグ３位タイの１０失点。堅い守備を持ち味とするだけに、先に点を奪われるようでは鳥栖戦の二の舞になることは避けられない。
新潟は、現在リーグ戦では１０戦無敗の５位、その順位が示す通りチーム状態は良好で、前節の清水戦は後半アディショナルタイムに追い付かれた後、すぐにオウンゴールで勝ち越し。この劇的な試合は、新潟の勢いをさらに加速させると思われる。また、昨季は堅守とサイドからの鋭いカウンターというイメージが強かったが、今季はその持ち味を維持した上で自分たちから仕掛けて中央攻撃を展開できるなど、チームとしての上積みも感じさせている。運動量豊富で球際の競り合いに強く、レオ シルバを中心に中盤でのセカンドボール争いで優位に立てるなど、正直隙は少ない。

自分たちから仕掛ける戦い方もできるが、先制すれば堅い守備をベースに守り切ってしまうという点は、ゲームをコントロールしながら試合を運べる柏にも共通した部分だ。したがって、どちらにとっても先制点が大きくモノを言う試合になるであろうし、お互い前線に工藤、田中順也、川又堅碁と、日本を代表するゴールゲッターを置くため、少ないチャンスでも決め切る力はある。どちらが勝つにせよ、ロースコアで決着がついても不思議はない。
そして、FIFAワールドカップに挑む日本代表選考の直前の試合と考えれば、鈴木大輔を含めた彼ら代表候補には自ずと注目は集まる。古巣対決となる鈴木は「去年は（川又に）決められて悔しい想いをした。今年はしっかり抑える」と親友封じに並々ならぬ闘志を燃え上がらせ、さらに鳥栖戦で失点に絡む痛恨のミスをしたとあって汚名返上を懸けた一戦でもある。川又とのマッチアップでは気持ちのこもったプレーを見せてくれそうだ。

柏は怪我人の多さは痛手だが、前節に秋野がプロ入り初スタメンを飾ったように、小林祐介、木村裕、中村航輔、中谷進之介ら若手にとっては絶好のチャンスである。数年前に工藤、酒井宏樹、茨田陽生、アカデミー出身の若者が台頭してチーム力の底上げを促した時と同じく、彼らが成長して実力を伸ばせば柏のチーム力は一気に跳ね上がる。
彼らはジュニア時代からアカデミーの一貫したコンセプトの中で育ってきたとあって、グループで連動しながら攻撃を仕掛けていく能力は抜群に高い。そこに工藤、茨田、太田徹郎、同じコンセプトの下で育った先輩たちと融合を果たせば、柏は間違いなくここまでとは異なるテイストを発揮する。すなわち、アカデミーが実践する「攻撃的なボールポゼッション」を、トップチームで垣間見ることになるだろう。

アカデミーからトップまでが一貫したサッカーを標榜するという育成力に長けた欧州クラブのようなスタイルは、十数年前から柏が育成面で地道に種を蒔いてきた結果である。怪我人多発という切迫した状況でも、才能ある若手が次々と育ってくる環境は、紛れもなく柏の強みだ。柏の未来を担う若手たちの躍動を、絶対に見逃してはならない。

以上

2014.05.09 Reported by 鈴木潤