タイムアップの笛が鳴ると、両チームのほとんどの選手がその場に倒れ込んだ。11日間で4試合を戦う過密日程のその最終戦。2−2という最終スコアもその中身もタフなもので、選手たちが持てる力を振り絞り走りきったことが容易に想像できる光景だった。「互いに死力を尽くした試合」、「相手も拍手に値する」と熊本の小野剛監督は双方の選手を讃えた。
試合内容としても運動量がベースとなるものだった。先発したフィールドプレーヤーのなかで最も長身なのが熊本の巻誠一郎で184センチ。この試合は両チームともに、比較的小柄な選手がスタメンに多く名を連ねていた印象である。そしてそうした選手たちが総じて特徴として持つ俊敏性が発揮され、スピード感のある試合が展開されていった。長身選手が少ないこともあってか、どちらもFKなどのリスタートを素早くプレーしようとする場面が目立ち、休む間が少なく、より体力の消耗しやすいゲームスタイルになっていたと言っていいだろう。
そうしたなかで、より効果的なハードワークを見せたのはアウェイの熊本のほうだった。体力が消耗しきったタイムアップ寸前のプレーでさえそうだったように、マイボールになると猛然と複数人が一気に前方に飛び出し、逆に相手ボールになると素早く後ろに引いて守備ブロックを形成する。「この連戦も想定してプレシーズンはゲームを組んでいたので、ある程度、体力がついてきた」と指揮官が振り返ったように、熊本はオフの時期からまさにこの局面を意識して準備をしてきたというわけだ。実際に後半になっても運動量が大きく落ちることはなく、動きに勢いがあるが、それ故のファウルも増えてしまっていたようにも感じる。熊本はそのくらいのタフに走っていた。
だが、そうした勢いに札幌が押し切られなかったのは、やはりホームゲームだったことが大きいはず。「セットプレーからやられてしまい、相手の作戦通りの試合になってしまった」と日高拓磨が反省したように、札幌は注意していたはずのリスタートから2度も先行される苦しい展開に陥っていた。しかし、そこで踏ん張って2度同点にすることができたのは地元ファンの声援に背中を押され、アグレッシブさを保てていたからだと感じる。「札幌の運動量も最後グッと上がって」(熊本・小野監督)いたのもそこが大きいだろう。フィジカル的に難しい連戦のなかで、「その最後をホームで戦えるのは大きい」と試合前に金山隼樹も口にしていた。熊本にとってはアウェイの難しさとなっていたことだろう。
加えてベテランの活躍も光った。1−2でリードされた71分に投入された36歳の砂川誠は、本職ではない中盤の底に配置されながらも、ここから前後左右に幅広くパスを配球してチームにリズムを作り出してみせた。75分には狡猾なCKで失点をしたお返しとばかりに、直接FKを豪快に決めている。
前述した通り最終スコアは2−2で、熱戦は互いに勝点1を分け合う結果となった。連戦のなかで両チームの選手たちが力を振り絞った部分は当然、賞賛すべきものではある。ただし、同時に結果も伴わなければいけないというのがプロの世界の常。とりわけホームチーム側に軸足を置いた場合、大型連休中の連戦を1分2敗でこの試合に挑んでいたことを考えれば、勝点3獲得が必須だったはず。J1昇格を目標に掲げるチームであることを考えても、このホームゲームでのドローは痛いと言うしかない。結果の部分は重く受け止める必要もあるだろう。
ただし、アウェイチーム側に軸足を置いた場合はどうだろうか。もちろんアウェイであるためドローは最低限の目標を果たしたと言えるかもしれない。しかし、前半終了間際にPKを失敗、後半には2本のシュートがバー、ポストに嫌われるなどいくつかの決定機をフイにしている。そうしたことを考えれば、本当にポジティブな意味での勝点1獲得だったのかどうかはわからない。
様々な角度から見れば色々な形相に見て取れる、それがドローゲームというものだろう。岡本賢明が問題なくPKを決めていれば熊本のワンサイドゲームになっていた可能性だって充分にあるわけで、その意味では札幌が粘り強く勝点1を掴み取ったと言えなくもないし、ここで得た勝点1が後に大きな役割を果たす可能性も大いにある。
この日の分け合った勝点1が最終的にどういった意味が持つかは、当然ながら現時点ではわからない。そしてJ1昇格を目標に掲げるチームが勝点を伸ばせずにいれば、どうやっても重圧は強まる。わざわざ筆者が論じるまでもなく、それがプロサッカーの世界である。さらに言うならば、過去の事例を見れば、そうした重圧に打ち勝ったチームこそがJ1への切符を掴んでいるわけである。札幌としては、ここが頑張りどころだろう。
また熊本についてはつい先ほど、勝点3を取り逃したかのような記述をしてしまったが、それは単なるひとつの見方にすぎないことも記しておきたい。何しろ、この引き分けにより7試合連続で勝点を獲得。勝点を重ね続けることもまた上位進出への大事な要素であるわけで、現実的には価値のあるドローだったことは間違いないのだから。
最終的に総括するならば、過密日程のなか様々なメンバー構成で試合を経ている最中であることを考えても、やはりこの試合をもって何かを判断するのは難しい。札幌や熊本に限らずどのチームにも言えることだとは思うが、ハードな日程のなかでいま一度、チームをタフに鍛え上げたのがこの大型連休だったのではないだろうか。そして連休最終日で多くのファンが観戦に訪れたことを踏まえると、同じドローゲームならば0−0よりも2−2のほうが盛り上がる。無責任な言い方になってしまうかもしれないが、この部分は断言できると思う。
以上
2014.05.07 Reported by 斉藤宏則
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