「やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君」(与謝野晶子)
(ゴールを決めなさいってこと…)
と、国立競技場が最後に詠いたかったかどうかはわからないが、昭和式・国立競技場ラストマッチは36505人の入場者に見守られたなか、スコアレスの0−0で引き分けた。どちらかのチームに思い入れがある人の眼には、それぞれの立場で熱くなって見どころや課題を感じられる試合だったのではないだろうか。
記者会見でペトロヴィッチ監督が何度か繰り返した「最後までゲームをコントロールしていた」、「10日間で4ゲーム目」という言葉は多くの人が理解できる部分だし、城福浩監督が話した「ゲームを支配して押しきろうとする浦和に対して、個人の良さを出させないディテールにこだわった90分にしないと勝点は望めないと思っていた」はシンクロしている。「相手は9人がほぼ自陣で守備する」(ペトロヴィッチ監督)の部分は、甲府のやろうとすること、やりたいこととは違うが、立場が違えば――感情も入るだろうし――捉え方も違うので、空中に浮かせたままにする。
試合前、浦和サポーターが一発目に出す声には毎回驚く。「浦和ぁレッズ」の一言をよくあれだけの人数が合わせて爆発的な声として一気に出せるもんだと心揺さぶられる。腹式呼吸の練習もやっているのだろうか。なんだかんだ言っても、ここまでのすごさを感じさせてくれるのは浦和だけ。箪笥の中から赤の面積が一番大きいTシャツを見つけ出して準備し、記者証をポケットに入れて、しら〜と浦和のゴール裏の端っこに入り込んで、どうやっているのか確かめてみたいくらい。
ただ、甲府のサポーターも浦和の国立ジャック阻止のために数でも声でも立ちはだかった。大方の予想よりも「青」は多かったし、数的不利でも90分間集中して立ち向かって選手の背中を押してくれた。気持ちは選手にも城福監督にも伝わっていた。
甲府と浦和は、スタートポジションが同じ3−4−2−1。ただ、クラブの経営規模は少なくとも3倍以上は違うと推測できるので、選手の構成は違うし給料もだいぶん違う…。他のJ1クラブならFWでレギュラーを張れる選手(梅崎司、関口訓充)が守備の負担も大きいウィングバックにいるし、後ろから前まで個人で局面を打開できる選手がほとんど。当然、戦い方は浦和の方がアグレッシブに攻撃を仕掛けることが出来るが、3バックとウィングバックが下がって5人がラインを作って守備隊形をつくる甲府に手を焼いた。2シャドーの前線からの守備と、戻りながら後ろの選手と挟み込む守備、ボランチのボール奪取力(特に柏木陽介に対する)も重要だが、ここを突破されても最後のところでは崩れなかった甲府。前半はウィングバックとボランチのマークの受け渡しの甘さなどを突かれ、サイドを突破されて決定機を作られる場面が2度ほどあったが、ラストパスが合わずに浦和は決められなかった。他にミドルシュートもコーナーキックからのヘディングもコースを突けず、パンチ力不足の正面。
甲府は予想通り盛田剛平の1トップ。六本木ヒルズは森ビルだけど、甲府1トップは189センチの「盛ビル」が一番機能する。ただ、浦和の攻撃に対して自陣の深い位置でボールを奪っても、繋げずに奪い返されることが少なくなかったし、長いボールを出してもなかなか前線に収まらなかった。浦和の3バックの圧力を受けて盛田もクリスティアーノも苦戦。槙野智章は「盛田さんには(広島時代)若手の頃からずいぶん面倒を見てもらったので――もちろん正々堂々と戦いますが――正直やりにくかったですね。お互い、違うチームで対戦できるのは感慨深いですけどね」と言うが、容赦なく甲府の前線の選手に決定的な仕事はさせなかった。彼らのプレーを見ていると技術だけでなく、フィジカルの強さのアドバンテージを感じる。もう少し攻撃力が劣るチームが相手だと甲府の攻撃のコンビネーションを出せたと思うが、現時点ではここは壁だし課題。シュートチャンスがなかったわけではないが、少ないチャンスに確実に決めることを求めるよりも、決定機を増やすことが甲府の現実的な課題。目の先の結果にとらわれず過ぎないで、電気料金やガス料金を見習って右肩上がりであることが重要。
何度かヒヤリがあったが、前半を0−0で終えることが出来たことは甲府にとって悪くない結果。後半はゲームがオープンな展開になることが増え、「決定機を増やすことが甲府の課題」とは理解しているが、相手より少ないシュート数で勝つ醍醐味を味わいたい欲求は強くなる。クリスティアーノやジウシーニョのスピードだけでなく、機動力が自慢ではない盛田を走らせてまでもチャンスをモノしようとしたが、浦和の3バックは1対1に強い。クリスティアーノが前を向いてボールをもらっても、1対1の攻防でボールを奪われるシーンを見ると少し無力感を感じた。
城福監督は会見で、外国籍選手がJ1でスムーズに力を発揮することの難しさを話した後、「彼も時間がかかっている中で、私もいい意味で彼と戦っている。J2(栃木)で出来て、J1で(ゴール量産やアシストが)出来ないのはなぜなのか。(改善策として)エネルギーをどこで使うか。彼の良さをどこで出すのか。エリアとシチュエーションを整理しないといけない。J1は(J2のように)やりたい放題やらせてくれるステージではない」という趣旨の話をした。
5月4日の練習後に城福監督は、「(クリスティアーノは出来ることが多い選手なので、彼が持つ可能性の)いろいろなことをあきらめたくない思いがある」とも話している。このあたりは、みんなでクリスティアーノを盛り立てながら、うまいタイミングで要求し、示唆して、我慢することが、チームメイトにもファン・サポーターにも担当記者にも必要なのかもしれない。
甲府は69分にネットを揺らすもオフサイドだった場面がこの日一番の決定機で、終盤は運動量のある石原克哉と稲垣祥を入れ、勝点1を守りながら3を狙う戦いの、前者に軸足を置く内容。アディショナルタイムに山本英臣が2枚目のイエローカードで退場になってからは、勝点1を死守すれば高い満足感を得られる状況になった。
浦和はペナルティーアークの中とすぐ外からのフリーキックのチャンスを活かせず、アディショナルタイムの最後に入れたクロスも合わずにノーゴールでノーサイド。
勝者がいない国立競技場ラストマッチ。この結果を浦和サイドの人たちは受け入れることが難しいかもしれないが、難しい展開の中で甲府に1チャンスを決められなかったことを評価する声はあった。この結果、首位の座を鳥栖に明け渡してはいるが、勝っても負けても引き分けても次の試合が大事。次節のさいたまダービーで対戦(5/10@NACK)する大宮は3−4−2−1に変更したそうなので、甲府戦はいいシミュレーションになっているはず。大宮の試合を見て来た記者によると、「甲府よりもさらに守備的」ということらしいので、次のアウェイ大宮戦は浦和の連動性をより発揮しなければならない条件。アウェイ連戦となるが、全て近場(国立、NACK)なので、原口元気や槙野の日本代表滑り込みセーフを後押しするような試合を期待したい。
国立競技場のサッカー公式戦、最後の退場者、最後の記者会見監督はともに甲府で、10年後にJリーグカルトクイズをやるときにはいい問題になりそう。勝つに越したことはないが、これだけの差がある相手から勝点1をもぎ取れたことは高く評価していい。ホームだけど、前泊を伴う近場のアウェイと同じ動きとなるなど現場の負担は小さくはなかったが、期待に応え、甲府にとって興行的にも成功となった国立競技場ラストマッチ・浦和戦。4万人を超える入場者数になることも期待したが、36505人という数字もすごいもの。国立のピッチに観客を入れたももクロちゃんは3月15、16日で11万人、ラルクは3月21日、22日の2日間で16万人動員し、昨年来たばかりなのに気に入ってくれたのか今年もやって来るポール・マッカートニーの国立ラストライブ(5月17〜18日)に何人くらい入るかは知らないが、Jリーグラストマッチを36505人のファン・サポーターは素晴らしい雰囲気を作り出して飾ってくれた。川淵三郎元チェアマンのスピーチの最後に、みんなで国立競技場に感謝の拍手を捧げることができたこともよかった。
サヨナラ、アリガトウ、国立競技場。
以上
2014.05.07 Reported by 松尾潤
J’s GOALニュース
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