まずは両チーム監督のハーフタイムコメントを読んでいただきたい。2点をリードしていた神戸の安達亮監督が「3点目を取りにいけ!!」と攻め手を緩めない意志を示していた一方で、散々な前半を過ごした仙台の渡邉晋監督は「ピッチ上でもっと戦う姿勢を見せよう」とチームに呼びかけていた。
活字にするとわかりにくいが、渡邉監督が戦術以前の問題を修正すべく厳しく選手に訴えていたことは推測できる。実際に試合後の記者会見で聞いてみたところ、やはり「戦い方うんぬんよりも、まずは相手より走るとか、球際で強くいくとか、そういったところは示さないといけないという話をしました」(渡邉監督)とのことだった。選手たちもあらためて後半キックオフ前に「円陣を組むときに、強い気持ちを持って、マッチアップする相手に負けないようにと話し合いました」(太田吉彰)という。
それほど、前半は一方的だった。神戸は仙台の中盤のパスワークを激しいプレッシングによって断ち切り、速攻から何度もチャンスを作った。8分に最初のCKからマルキーニョスがフリーで先制点を奪取。さらに26分には仙台がクリアしきれず森岡亮太がクロスを上げたところ、ペドロ・ジュニオールがこれまたフリーで押し込んで2点目。もっと点差がついていてもおかしくなかった。
仙台にとってのホームであるユアテックスタジアム仙台のスタンドも、今季のホームゲームで仙台がまだ勝っていなかったこともあり、前半終了時はブーイングも起こってナーバスな雰囲気だった。だが、渡邉監督がチームに喝を入れていたその頃、このユアスタのピッチ上でも、もう1つのハーフタイムコメントが周囲を奮い立たせた。
「以前に自分のミスで前半が0−2になってしまったことがありましたが、仲間が頑張って逆転勝ちしたことがあります。本当にみんなのおかげで勝てた試合でした。今日も逆転できます。3−2で勝ちましょう」
このコメントを出したのは、2007年途中から2008年まで仙台に在籍していた岡山一成選手(現・奈良クラブ所属)。2008年J2第14節で、確かに同所において前半を0−2で終え、後半の3得点で逆転した経験が仙台にはあった。仙台への激励と自著の宣伝で訪れていた彼のメッセージもまた、大きかった。
こうしてホームチームのピッチ内外に刺激が与えられたことに加え、後半開始から仙台が赤嶺真吾投入で配置換えをしたことの効果も加わり、前半と全く違う試合が展開されることとなった。ウイルソンと赤嶺にボールが収まって後方の効果的な攻め上がりを引き出せるようになった仙台は、55分に獲得したPKをウイルソンが決めると一気に攻撃を加速させた。
逆に神戸は「まだ2-1だった。崩れてはいけなかった」と山本海人が反省したように、前半に強さを見せていた守備が相手の速攻の連続に対してこらえきれなくなった。
57分にウイルソンの2点目で2-2となっても、72分にカウンターから小川慶治朗のゴールで勝ち越したのに、その2分後にゴール正面で太田のシュートを許し、再び同点にされた。
こうなると試合は「3点目を取られても下を向くこともなかった」(赤嶺)仙台のものだ。今節が始まる前は11試合で5点しか取れていなかったチームは、サポーターによって高められた声援と熱量によって、この日4点目を取れそうな雰囲気に包まれた。
そして同点からわずか2分後に、それは現実となる。76分、関憲太郎のロングフィードに対する処理を奥井諒が誤り、それを拾った武藤雄樹が左サイドの角度のないところから見事フィニッシュ。これが決勝点となった。
仙台にとって、うれしい今季ホーム初勝利と連勝は、散々だった45分間を終えた後に、精神面でも戦術面でも立て直したことからもたらされたものだった。「やっぱり選手の頑張りと、サポーターの後押しが一緒になってこそ。ホンマ素晴らしいですよ。ユアスタは」と仙台OB・岡山選手が試合後に言い残したホーム・ユアテックスタジアム仙台で。
以上
2014.05.07 Reported by 板垣晴朗
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