昭和式の国立競技場とのお別れの日が迫ってくると、より愛着が湧いてくるものだが、いよいよラストマッチ甲府対浦和(J1第12節)が5月6日に迫ってきた。
国立競技場で行われるJリーグ最後の試合というだけでなく、サッカーの最後の公式戦でもある。キックオフ縛りでは5月25日のラグビーのアジア5カ国対抗戦の日本対香港にラストを譲ることになるが、日本サッカー界の聖地で行われる最後のサッカー公式戦が甲府対浦和であることは変わらない事実。で、何が言いたいのかというと、首位・浦和のファン・サポーターの皆さまには万人単位でお越しいただき、また今節は首都圏の柏、横浜FM、東京V、千葉は遠くのアウェイでもあることなので、甲府と浦和以外のファン・サポーターの皆さま、高校・大学のサッカーファンの皆さまにも国立競技場に来てもらって「54224人」という定員一杯のスタジアムにしてラストマッチを熱く盛り上げたい。甲府の財政事情による“若干の”興行的なアンダーハートもあるが…日本サッカーの聖地のラストマッチ、どっちが勝っても(引き分けても)、勝敗に興味があろうがなかろうが、サッカーが人生の一部になったみんなで、1964年から国立競技場の鉄とコンクリートに沁み込んだサッカーに対する想いを昇華させて、新国立競技場完成後のファーストマッチまで気持ちや記憶を繋げたい。
甲府は国立競技場で目を見張るような実績はないが、ここで浦和を迎えて戦うことは特別な試合だった。ホームなのにサポーターの数で圧倒されることも特別で、浦和レッズとは選手・監督だけを指すのではなく、大サポーターも個性として捉えているから、現時点では他のクラブが代わることはできない。甲府の国立競技場におけるリーグ戦はJ1、J2で合計5試合を戦い2勝3敗。浦和には2011年に1度勝っていて、それが唯一の浦和戦の勝利。あとは引き分けが2つに負けが10(天皇杯含む)。浦和の国立競技場での戦績はJ1リーグ戦だけで58試合戦い、27勝1分30敗で、まさに桁違い(負け越しだけど)。唯一、その上を行くのは東京VのJ1・66試合、J2・32試合の計98試合(天皇杯などリーグ戦以外は含まず)。J1リーグだけの勝率で見ると、鳥栖の1戦1勝で10割というのもあるが、J1リーグで20試合戦って15勝5敗で7割5分の名古屋が実質的な国立競技場チャンピオン。G大阪も4試合を3勝1分で並ぶが、試合数を考えると名古屋。イメージでは鹿島や清水も勝っている印象だったが鹿島は5割(26勝4分22敗)で、清水が6割(18勝1分11敗)だった。
甲府は現在2連敗中だが、国立競技場ラストマッチで勝てば昭和式の国立で最後に勝ったクラブとして記録にも記憶にも残るはずだし、甲府のファン・サポーターとっては新国立競技場の完成後もリニアが東京から名古屋まで開通した後も飲むたびに自慢話にできるほどの大きなことになる。ただ、totoの投票状況を見ると、世間の75%以上が浦和の勝ちを買っている(5月5日14時現在)し、甲府の勝利が容易に実現しないことはもともと自覚している。しかし、第10節では世間の予想を裏切る形で徳島の初勝利を許してしまっているだけに、同じ裏切るなら勝って裏切りたい。甲府が開幕から11連勝中ならば感傷が入り込む隙もできたかもしれないが、城福浩監督に国立最後という感傷はなく、あるのは勝利に対する渇望と情熱だけ。「毎試合同じだが、やれているところ、足りないところを冷静に捉えて、詰め込み過ぎないように伝えて準備する。ただ、エモーショナルなところはこういう状況(連敗中)を跳ね返すために大事になる。キックオフの瞬間に最高のものを出せるように準備したい。今年はカウンター一辺倒ではなく、シュート数で相手を上回る試合も少なくないし、被シュート数もリーグで一番少ない。どのチームとも互角にやれている感もあるが、それだけに勝点1を取れないこともある。個の組み合わせで点を取りに行けるシーンはあるが、それを実らせることができないのも現実。でも、それを『個の違いじゃないか』と言い放つのは僕らの立場ではない。チームとして共通認識という武器で(個の能力差を)どう埋めるのか。全員で攻撃に関わるメリットを出すために、何にこだわらないといけないのか、そのためのリスクが何なのか認識する必要がある」という趣旨の話をしてくれた。攻撃の人数を減らしてカウンターを仕掛ければ、決まらなくても失点のリスクは少ないが、今年は前に人数をかける時間帯もあるだけに、カウンターを受けてキックオフ時に持っていた勝点1を失うケースがあるのだ。一朝一夕に改善できる部分ではないが、積み上げてきたものを国立競技場での対浦和戦という興奮と緊張感の中で発揮したい。
浦和は前節の結果――背中に鹿やカチガラスや熊が張り付いているが――首位に立った。「約6年ぶりの首位」とスポーツ新聞に書いてあったが、これが意外だった。今節も勝って首位を守るのは当然だろうが、浦和の多くの選手にとってやり難いオジサンが1人立ちはだかる。ロナウドがつかないクリスティアーノではなく、「サッカーよりラーメンが好き」と公言する盛田剛平。1999年に浦和にFWの選手として加入し、C大阪→川崎F→大宮→広島と渡り歩き、2012年に甲府に移籍してきた選手。「古巣との対戦ですが…」と聞かれるのはだいぶ飽きたようで、「17クラブ中4クラブが“古巣”でしょ。3〜4試合に1つが古巣だからね(笑)」と言う。でも、浦和と広島は特別。プロのキャリア最初のクラブと最も長く在籍したクラブだからだ。鈴木啓太は盛田の浦和在籍時からいる選手だし、西川周作、森脇良太、槙野智章、柏木陽介、李忠成は広島時代のチームメイト。そして、彼らからすれば盛田はDFの選手のはず(2006年にFWから転向)。その盛田が38歳(7月13日)になるシーズンにFWとして再び先発のポジションをJ1リーグで勝ち取っているということは興味深いだろうし、一言冷やかしたくなるところだろう。古巣は古巣でしかないので、盛田は甲府の選手として90分戦い勝点3を取ることに集中しているが、彼らとの対戦は楽しみにしていて、マークされた時に「森脇や槙野を片手で押さえるくらいやって楽しみたい(笑)」と話してくれる。今季、盛田のゴールは利き足の頭で決めたのが50%(2ゴール中1ゴール)。広島時代にラーメンを御馳走したこともあるであろう後輩が守るゴールに、きつい一発を決めたい。ここは浦和のゴール前での見どころになる。
一方、浦和は日本代表入りの当落線上にいると報道されることが多い原口元気のゴールが欲しいところ。甲府のゴール前では甲府の3バック+ウイングバックとボランチがどう対処するのかが見どころ。城福監督は、「チュンソン(李)が入ってから1トップ2シャドーの3人の絡みのカウンターの威力が増している」と話しており、無失点に抑えるのは相当に難儀しそう。前節の川崎F戦ではレナトや大久保嘉人のすごさに痛い目に遭わされているだけに、その修正を浦和相手に意地でも見せたい甲府。双方のゴール前での攻防が国立競技場ラストマッチに相応しいものになるのか。日本サッカーの進化と経験の深化を、甲府と浦和の同じでも異なる3−4−2−1の中に見出すことできるのか。ヴァンフォーレとレッズの初夏の一大事2014。見逃せません。次の機会は新国立競技の建て替えの時ですから。
以上
2014.05.05 Reported by 松尾潤
J’s GOALニュース
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