長崎は前節、個の能力と豊富な経験値を誇る磐田に対しても一歩も引くことなく戦った。これまで培ってきたハイプレスと早い攻守の切り替えをベースとしたアグレッシブな戦い方は90分を通じて磐田の良さを潰して存分に苦しめた。もしサッカーの試合に全体的なパフォーマンスを総合評価した判定ルールがあればおそらく長崎の勝利だっただろう。ただし、サッカーにはそういったルールはない。かわりにこの試合にあったのは、どんなに劣勢であっても一発のチャンスで決めるというエースの「格」の違いだった。
58分にそれまでほとんどいいプレーができていなかった前田遼一がペク ソンドンのクロスに体を投げ出してヘディングシュート。不利な体制ながらも岡本拓也との競り合いに勝つと、ボールはワンバウンドしてファーサイドのゴールネットへ吸い込まれた。GKの大久保択生も予想外のコースに驚いたことだろう。前田の2試合連続ゴールが値千金の決勝点となった。
ただし、高木琢也監督は試合後に悔しい試合だったと前置きした上で、「ジュビロの個性をあまり出させなかった」「最後まで我々の力を出し切った」「今日は“物差し”として自分たちの力を測ることができた」と選手の頑張りを讃えると同時に、チームの出来についても一定の評価を与えている。この試合の主導権はほとんど長崎にあり、シュート数も10本と磐田の2倍だった。
一方、今節長崎と対戦する水戸も前節に首位を独走する湘南と互角以上の勝負を演じた。この試合で水戸が選んだ戦い方は、スピードを生かして攻撃に人数をかけるといういつもの攻撃的なサッカー。柱谷哲二監督は10連勝の湘南にも恐れることなく自分たちのスタイルを貫いたのだ。こちらも湘南の11本を上回る12本のシュートを放つなど、もはや水戸のゲームだった。
ただし、水戸も長崎と同じように一発に泣いた。79分、湘南の宇佐美宏和が上げたアーリークロスに武富孝介が合わせ先制された。水戸は試合終了間際にセットプレーから決定機を作るも三島康平がこれをモノにできず0−1で試合終了のホイッスルを迎えた。崩しのアイデアが乏しいという課題はあるものの、選手たちには湘南を最も苦しめたという自信が残った。さらに攻撃的なサッカーをしながらも失点は7。リーグで2番目に少ない失点数なのだ。
試合終了後、長崎と水戸の選手から出た言葉は「悔しい」「勝てた試合だった」というようなものだった。この大一番で、自分たちのサッカーができたという自信のようなものがあったからこそ言えた言葉なのだろう。水戸の冨田大介は「大事なのは自信を失わないこと。ウチはこういうサッカーをやっていくところを取り組んでいて、ここ数試合出来ている状態できている。出来ずに負けたならショックを受けるべきですが、出来ているわけだからプラスに考えていいと思う」と話している。次の試合は当然、迷うことなく自分たちのサッカーをやるはずだ。
今年の長崎は昨年の走るサッカーに加えて、東浩史や野田紘史など新加入選手らが加わることでプレーのクオリティが高まり、格段に攻撃力が向上した。もちろん前線からのハイプレスは変わらない。ここまで11戦を戦ったが熊本や大分などは長崎のプレスを回避するためにロングボールを多用した。磐田でさえも長いボールが増えた。
水戸の柱谷監督は東京V戦のハーフタイムでハイプレスに苦しみ、ロングボールに逃げるチームに対し「ビビッたようなサッカーをするな」と喝を入れチームを蘇らせている。湘南戦の後だけに真っ向から攻撃的なサッカーを披露するだろうか。
水戸はここ2試合はチームに得点がないが、FWの馬場賢治は調子を上げてきている。また特別なプレッシャーがのしかかる栃木や群馬との北関東ダービーでもきっちり勝利を収めている。なによりボランチ2人とCB2人が協力して相手の良さを消す守備は見応えがある。長崎の前線のコンビネーションとどう対峙するのかが楽しみだ。
この一戦、双方の持ち味をどこまで出せるかが見どころとなるだろう。
以上
2014.05.05 Reported by 植木修平
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