先に会見場に現れた新潟・柳下正明監督は、見るからに不機嫌だった。歯に衣着せず本音でズバズバ言うことで知られるが、この日も「(大宮はホームチームなのに)全然ボールを取りに来なかった」、「ずっとセンターバック２人でボールキープしても良かった」「だれかが(攻撃の)スイッチを入れてしまって、すごく残念」などなど、柳下語録に新しい言葉の数々が加わった。それだけ新潟にとっては悔しい引き分けだったのだろう。ただ大宮としても、実際にピッチにどう表れたかはともかく、気持ち的には決して専守防衛に徹しようとしたわけではないし、記録上もシュート数10対10、コーナーキック数４対３と互角である。しかし印象では明らかに、決定機の数、チャンスの数は新潟が圧倒していた。その辺り、多少不思議な試合ではあった。

大宮は前節からの5-4-1を継続。特に前節の反省材料である「単純な裏(へのボール)のケア」(大熊清監督)には、序盤は破綻なく対応した。ただ、背後のスペースを埋めることに腐心した結果、中列との間にスペースを生じ、そこを新潟に使われた。9分、新潟は右から左へ大宮を揺さぶる。ボランチのスライドが間に合わず、フリーのレオ シルバから富山貴光の後ろのスペースで浮いていた成岡翔に縦パスを通されると、慌ててチェックに出た渡部大輔の裏を松原健に使われ、クロスに対してもファーに飛び込んだ田中亜土夢を中村北斗が捕まえられなかった。

大宮は点を取りに行かなければならなくなったが、引いてブロックを作り、プレスの開始点は自陣に入ってからという方針は変えなかった。そこで柳下監督の嘆きになるわけだが、新潟の選手としても、攻め急いでしまうのも無理はなかったかもしれない。というのも、大宮の両ボランチが新潟の両ボランチに厳しく行く姿勢を示し、しかし最終ラインはそれについてこなかったため、バイタルエリアががら空きになっていたからだ。田中が「あそこまで(バイタルが)空いているのはなかなかない」と驚いたほどで、新潟はそこにボールを運んでチャンスを量産した。しかし川又堅碁、岡本英也が再三のチャンスを外すうちに、ミスから大宮にカウンターの機会を与え、39分にコーナーキックの流れから同点に追いつかれた。さらに54分、同じくカウンターから与えたコーナーキックの流れで、高橋祥平に逆転ゴールを許す。

守備に人数とエネルギーを割いているぶん、大宮の得点の可能性は、前線のズラタンの孤軍奮闘と、家長昭博の個人打開、そしてセットプレーしかなかった。そのセットプレーによって平均失点0.7の新潟から望外の2ゴールを挙げ、先制はされたものの大宮のゲームプランとしては悪くなかった。しかしリードを奪った「気の緩み」(大熊監督)か、直後の56分、下がってボールを受けたレオ シルバに対して大宮はプレッシャーに行かなかった。しかも最終ラインがこの瞬間はフラッと上がっており、そこを見逃さなかった小林裕紀のランニングで裏を突かれ、折り返しをつないで岡本の一撃に追いつかれる。その後も新潟が圧倒的に攻めてはいたが、大宮は最終局面で体を張り、新潟のミスにも助けられて、どうにか勝点１を拾った格好で試合を終えた。

新潟にとっては「勝点３を取らなければいけないゲーム」(柳下監督)だったが、攻勢の割にシュート数が大宮と同じというのは少なかったし、それでも決定機は５〜６回あったが２点しか取れなかった。バイタルエリアでの精度と決定力という課題が、ここでも露わとなった。これで公式戦12試合負けなしとなったが、そのうち７試合が引き分け。ここからさらに順位を上げていくために、「勝ちきる上手さ」(成岡)を身に着けたいところだ。

同じ引き分けでも、大宮はこれで公式戦9戦勝ちなし。平均2点近い失点を減らすために5バックを導入した大宮だが、この試合でも２失点を喫した。「ボールに行くのか、マークにつくのか、ラインを上げるのか。その選択・判断がはっきりしない」(江角浩司)以上、最終ラインに人数を増やしても、守りきるには限界がある。横のスライド、ラインの上げ下げなど、組織として連動した守備ができなくては失点を減らすことは難しいし、良い形でボールを奪えないために攻撃にも迫力を出せていない。また5-4-1のポジション的が要求する役割の中で、ストロングポイントを生かせない選手が出てきているのも気がかりだ。
課題は山積みだが、すぐ中2日でＦ東京戦、さらに中３日でさいたまダービーがやってくる。トレーニングで修正していく時間はなく、実戦の中でつかんでいくしかない。この勝点１で順位は16位から15位に上がったとはいえ、勝点では17位の仙台に並ばれた。突貫工事をしながらこの連戦をどう乗り切るのか、シーズン1/3で大宮は早くも正念場を迎えている。

以上

2014.05.04 Reported by 芥川和久