試合はどちらかと言えば、F東京の思惑通りに進んでいった。F東京は広島戦と同じようにミシャシステムを封じにきた。守備の時はアンカーの高橋秀人がDFラインに落ちて5バックを形成し、すっかりお馴染みとなった浦和対策を実施。しかし、ただ受け身になるのではなく、前の3トップは積極的にプレッシング。そしてボランチの2枚は縦パスをケアしながら虎視眈々とボールカットからのカウンターを狙っていた。
こうなると浦和はなかなか自分たちの形に持っていけない。DFラインから柏木陽介に入れるパスルート、あるいは1トップ2シャドーに入れるコースはいずれも相手がすぐに潰しにくる以上、不用意には使えない。永田充も「(縦パスを)狙っていた感じもあった。チュンソンに入ったところに対して米本とかボランチが後ろから挟むような動きがあったので、カウンターを食らいやすいのかなと感じていた」と振り返る。
そこで浦和はサイドからボールを運ぼうとするが、そこでもF東京が連動した守備で行く手を阻む。3トップがプレスでうまくサイドに追い込んだら、先ほどまで中央で睨みを効かせていたボランチ2枚のうちの1枚がボールサイドに開き、巧みにスペースとコースを消しながら浦和から選択肢を削り取っていくのだ。
それでも強引に中に入れようとすると、カウンターを狙っている相手の思う壺に。実際、F東京はポジティブトランジションから鋭いカウンターを何度か見せた。しかし、浦和の攻から守の切り替えも早く、F東京のカウンターを水際のところで防いだ。
前半は相手にリズムを掴ませずにうまく試合を“壊した”F東京。後半になると立ち上がりから攻勢をかけ、52分にはこの試合最大の決定機を迎える。サイドバックの徳永悠平が右から左に切り込み、決定的なシュートを放った。だが、GK西川周作が指先でかろうじて触り、ボールはポストに直撃。これまで何度もピンチの場面でチームを救ってきた浦和の守護神がここでも躍動した。
後半は浦和が耐える時間が続く。ボールを持っても効果的な仕掛けはできず、F東京がきっちりとボールを回収して押し込んでいく。ただ、F東京は守備で相手をハメるのはうまく、攻守の切り替えも早かったが、そこから先が簡単には進まなかった。浦和の切り替えも早く、バランスの崩れた形でカウンターを受けることが少なかったからだ。うまくいかない時は守備でがんばって我慢するという今年の浦和のいい面が出ていた。
F東京は1回カウンターを止められてボールを保持する流れになると苦しかった。今季のプレースタイルから言っても、相手の守備がセットされた状態から攻撃を仕掛けるパターンではなかなか迫力を生み出せなかった。
膠着気味だった試合の均衡が敗れたのは79分。柏木が自ら得たCKを蹴ると、阿部勇樹がニアに飛び込み、ヘッドで先制弾。「キックの調子はずっとよかった」という柏木のパスから3試合連続セットプレーでゴールを奪った。
ビハインドを背負ったF東京は前がかりとなり、浦和は守勢に。逃げ切り態勢に入ったなかで危ない場面も作られたが、チーム全員の粘り強いディフェンスで最後までゴールを守り切った。
1つのエンターテイメントとして見たら、もしかしたら上質な90分ではなかったのかもしれない。これぞプロの技と唸らせるような華麗なプレーは数えるほどしかなかった。
だが、見ている者の心を揺さぶるような試合だった。球際では泥臭く体をぶつけ合い、ボールを失ったら必死になって相手に食らいついていく。どんなに疲れていてもチームのために走り続け、身を投げ出してゴールを死守する。魂を燃やしてプレーする選手の姿は見ている者にも火をつける。この日の埼玉スタジアムは汗ばむほどの陽気に包まれていたが、それは気温のせいばかりではなかったのかもしれない。
以上
2014.05.04 Reported by 神谷正明
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