終了間際、水戸は右サイドでのショートCKからゴール前にクロスを上げる。湘南は守備の陣形を整えられず、ファーサイドに走り込んだ三島康平のマークにつききれなかった。三島はフリーの状態でゴール至近距離からヘディングシュートを放った。完璧なクロスに完璧なゴール前の入り方。同点ゴールかと思われたものの、無念にもボールはゴール左へ逸れていってしまった。その軌道を見て、選手たちは膝から崩れ落ちた。柱谷哲二監督もテクニカルエリア最前方で倒れ込んだ。あまりにも悔やまれる敗戦。これまでの敗戦以上に肩を落としながら、選手たちはロッカールームへと下がっていった。
「負ける試合ではなかった」。試合後、柱谷監督は唇を噛みしめた。10連勝中の相手に対して、水戸が選んだのは「特別な策」ではなく、いつも通り戦うこと。前線から激しくプレスをかけて、湘南の武器である「縦」へのパスを遮断。高い位置でボールを奪って鋭いカウンターからゴールを狙った。19分にはカウンターから抜け出した小澤司がクロスバー直撃のシュートを放ち、38分には湘南DFからボールを奪い、小澤がループシュートを狙った。これはGKに防がれるものの、水戸の勢いが湘南を苦しめた。シュート数は12対11でチャンスの数はほぼ同数。CKは湘南の3倍となる6本を獲得。10連勝中のチームを相手に水戸は互角の展開に持ち込んだ。
しかし、開幕10連勝というJリーグ記録を更新している湘南の力はさすがだった。「いいサッカーができなかった」(武富孝介)ながらも、崩れることなく、虎視眈々とゴールを狙っていった。後半は両サイドを有効に使いながら、チャンスを構築。そして79分、右サイドの宇佐美宏和からのアーリークロスを武富がボレーで合わせて、ついに均衡を破ってみせた。その後の水戸の反撃を退け、見事に開幕11連勝を達成。アウェイの地で勝利のラインダンスを踊り、喜びを噛みしめた。
連勝記録更新中で大きな注目を集める湘南。強さの秘訣は自分たちの「弱さ」を知っていることなのではないだろうか。昨年のG大阪のような圧倒的な力を見せているわけではない。それでも勝ち続けることができているのは自分たちのスタイルを貫き、それを選手たちが1人もサボることなく体現しようとしているからだろう。「我々は他のチームよりうまいチームではないし、何か優れているわけではない」と曹貴裁監督は言う。だからこそ、「自分たちを信じることが大事」だと力を込めて語った。少しでも緩んだら勝てなくなるという危機感をチーム全体で共有することができている。それが勝利を重ねる原動力となっているように見えた。連勝をすることで生まれる余裕や奢りのようなものを微塵も感じさせなかった。
曹監督が勝因に挙げたのは、「最後まで愚直に戦った」こと。水戸のプレスに苦しみ、ミスを多発する展開となった。それでも湘南の選手たちは自分たちのやるべきことを繰り返した。それが実ったのがゴールシーンであった。右サイドからのアーリークロスをDFの背後を取った武富が合わせて決めたものであったが、55分にも同様の形を築いて武富はクロスバー直撃のヘッドを放っている。どんな状況でもチームとしての約束事を守り、繰り返したことでこじ開けたゴール。それ以外でも攻守にわたり、全選手が自らの役割をまっとうした。今季、最も苦戦を強いられたゲームとなったが、「それでも勝てたことは自信になる」と武富は軽い笑みを見せた。「弱さ」を力に変えてまい進する湘南。これからもその歩みを止めることはないだろう。
水戸にとっては痛恨の敗戦と言えるだろう。ホームで10連勝の相手と互角の戦いを演じながらねじ伏せられてしまっただけに、選手たちが受けたショックは大きなものだった。しかし、大事なことはここで下を向かず、自分たちを信じることだ。
湘南相手に「プラン通り」(柱谷監督)に試合を進めて、あと一歩まで追い込むことができた。もちろん、得点力不足という課題の克服は急務だが、攻守に水戸らしいアグレッシブさを出し切ることはできた。内容は決して悲観すべきものではなかった。むしろ、自信を持っていいだろう。
湘南も昨年J1の舞台で数々の悔しさを経験した。しかし、自分たちを信じてぶれずに前に進んだ結果、今がある。継続こそが力となることを湘南が教えてくれた。この敗戦を生かすも殺すも自分たち次第。悔しさから這い上がり、前を向くことができるか。中2日で挑む長崎戦で強いメンタリティーを見せて戦ってこそ、今節の善戦は大きな意義をもつこととなる。
以上
2014.05.04 Reported by 佐藤拓也
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