大島秀夫がはにかんだような笑みを浮かべながら、記者やカメラに囲まれていた。「もっとチームが成長して北九州のサッカー熱が盛り上がるのが一番いいこと。もっともっと頑張ります」。78分に持ち味たるヘディングで試合を決するゴールを挙げ、白星を呼び込んだ。自身の今季初ゴールによってチームは2連勝を飾り、ライセンスのために出場は叶わないもののプレーオフ圏の6位もキープした。
前半の北九州はゲームを作ることができず苦しんでいた。横浜FCのボールホルダーへのアプローチは早かったが、しかしそれを外せるシーンも多くボールを保持できる時間は長かった。それにもかかわらず前半のシュートは公式記録上はわずかに1本。パスが繋がらずフィニッシュまで持って行けなかったのだ。
小手川宏基は「自分たちのミスで取られている部分があった。ボールを持たせてもらえるのに自分たちで連動して崩していかなければ」と話す。その「ミス」はプレビューで触れたような快勝のあとの慢心から起きているわけではなく、大きく影響したのは風と芝だった。前半の北九州は風下。柱谷幸一監督は「風があって押し込まれて苦しい時間が続く中、なんとか耐えたかった」と話して風を要因に挙げ、前田和哉と池元友樹はそれに加えて久々の乾燥した天候で芝の水分蒸発が早く、思ったほどボールが伸びなかったと振り返った。
非常に良好なピッチを誇る本城だが、雲ひとつない恵まれすぎた天候と風の気まぐれが選手を戸惑わせてしまった。前田は「そういう部分の対応ももっともっと早くできるようにならなくちゃいけない」と言及する。対して先に対応ができたのは横浜FC。風上に立った優位性に加えて、小池純輝を高い位置で起用したことで右サイドの攻撃が活性化した。主導権を握り続ける中、先制点は30分。敵陣右サイドでフリーキックを得ると、永田拓也のプレースキックを野上結貴がゴールに背を向けた状態で胸トラップ。ひとつバウンドしたところを体を反転させて右足でゴールに鋭く突き刺し、流れのいい時間帯でしっかりとゴールをもたらした。
先制点を献上した北九州ではあったが、前半の残りは前田や渡邉将基の対人の強さが発揮されて追加点を許さなかった。「しっかりボールを動かしながら押し込んでいこう。1点取れば流れが来る」と柱谷監督は選手を勇気づけて後半のピッチに送り出した。選手たちにも焦りは見えず、後半は一転して北九州がしっかりとしたポゼッションでゲームを掌握。51分、井上翔太の左からのCKが原一樹と競っていた横浜FCのDFに当たってオウンゴールを誘い、同点に追いついた。なおも北九州は攻め続け、78分には小手川の右サイドからのクロスをゴール前で冨士祐樹が頭で繋ぐと、左に流れたところに大島が飛び込んで逆転。今季最多の入場者数となった本城が一気にわき上がった。
この大島の逆転弾はチーム状況を十二分に示すものだった。ゴールストーリーは自陣から送り込まれた八角剛史のロングフィードから始まるのだが、そのボールは風にもあおられて伸びてしまう。それでも懸命に追いかけゴールライン際で拾ったのは池元友樹だった。無駄走りになるかもしれないフィードでも足を動かす。池元の勝利への執念が見える場面だ。そうして右サイドでのパス交換からチャンスを作り、放たれたクロスに最初に反応したのは臆することなく前線に顔を出した左サイドバックの冨士。潰されながらも頭で繋ぎ、「普段のトレーニングでいい準備をしていることがこういう結果に繋がっていく」と柱谷監督が褒める途中出場の大島がゴールに送り込んだ。
フィードで攻撃を花開かせるボランチ、信じて追いかけるFW、好機を逸しないサイドバック、途中出場でも役割を果たすバックアッパーたち。攻めるべきときにしっかりと攻めきる姿勢が現れ、チャンスを確実にものにした。絶妙のクロスを冨士に送った小手川は「FWも守備をするし、ディフェンスも攻撃する。そういう意味でいいバランスでやれているんじゃないかなと思う」と話したが、その自分たちへの評価が何より今の北九州を示している。
他方、1点差での敗戦となった横浜FCは後半、足が止まり、前半からの良いリズムを継続できなかった。ただ山口素弘監督は「不運な失点で流れが向こうに行ったときに、耐える時間だったが耐えられなかった。こちらのリズムに引き込むことができなかったのは残念だった」と悔やんだが、すでに次のゲームに目を向けていた。連戦では大きな修正を加えることは難しいが、勝点を得るまであと一歩だったことを考えれば、むしろ次の試合がすぐ来るほうがチーム状態をより上向かせることができるだろう。
北九州は順位は6位で動かなかったが得失点差はプラスとなった。前半のミスの連続は反省材料ではあるものの、点が動けば試合結果も動くという自信はチームをより強くしている。仲間を信じて走り、仲間を信じてパスを送り出す。連戦中はそういったプラスの側面が伸びるようチーム一丸となって戦い抜きたい。戦えば「北九州のサッカー熱」はもっと盛り上がる。勝てばチームはもっと上に行ける。そんな「もっと」の欲が生まれた、曇りなき晴天のゲームだった。
以上
2014.05.04 Reported by 上田真之介
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