ペナルティエリア内での空中戦を制したのは、黄色の背番号22だった。ヘディングで弾き出すと同時に、スタジアムにはタイムアップを告げる笛が響き渡った。ドゥドゥはその場に膝を付き、両手で渾身のガッツポーズ。歓喜を露わにするドゥドゥに、センターバックのコンビを組んでいるチャ・ヨンファンが駆け寄り、ハグで勝利の味を共有した。先制しながらも一時は同点に追い付かれたが、重松健太郎が世界基準の無回転FKを突き刺し、栃木はホームでの連敗を3で止めるとともに、今季初の連勝を飾った。
ようやく、凱歌「県民の歌」を歌うことができた。プレスルームに続く廊下にも、ピッチからの勇ましい歌声が届いていた。それを耳にしたボランティアスタッフは、やや控えめに首を左右に揺らしていた。目にはできなくとも、鮮やかに浮かび上がる歓喜の輪。隠しきれない喜びが、彼の顔には溢れていた。
「相手がバイタルエリアで自由にしてくれたので、スペースに当てて落として、3人目の動きを作れた」(宮澤裕樹)
今季初出場初先発のヘナンをトップ下に配した札幌。彼には自由が与えられており、中盤に下がっては組み立てに加わった。ヘナンが空けたスペースに入り込んで来たのは、昨季まで栃木に在籍していた菊岡拓朗だ。この2人に流動的に動かれ、さらにロングボールで背後を狙われたことで、栃木は後手に回る。ある程度、覚悟していたとはいえ、札幌にボールを回される時間が続いた。
ところが、試合を動かしたのは、劣勢に回っていた栃木だった。25分、小野寺達也のクサビをスイッチにカウンターが発動。湯澤洋介がフリックしたボールを、重松が瀬沼優司につなぐ。奈良竜樹を背負っていた瀬沼だが、巧みにマークを剥がしてドリブル突進。奈良が慌てて戻るが、時すでにおそし。瀬沼は良質なパスを、左側に走り込んでいた近藤祐介に通し、これを近藤が冷静にゴールへ送り届けた。
「(カウンターを)気を付けていたのに、やられてしまったのは勿体ない。あそこまではいいリズムで回っていたのに」
そう菊岡が悔やんだように、札幌にとっては一瞬のスキを突かれた格好となった。
ビハインドを負った札幌だが、すぐさま試合を振り出しに戻す。河合竜二が放ったミドルシュートをGK榎本達也が弾き、そのこぼれ球に鋭く菊岡が反応し、ドゥドゥの対応が遅れたと判断した主審はPKの判定を下した。これを石井謙伍が沈め、1―1のタイスコアに。厳しいジャッジを受けて被弾した栃木だが、またしても瀬沼が奈良から先手を取ることでゴールを呼び込む。奪ったゴール前でのFKを、「力み過ぎず、(力を)抜き過ぎずに打てた」重松が直接叩きこんでみせた。
前半終了間際に加点した栃木は、その余勢を駆って後半は試合を掌握。特にダブルボランチの奮闘が光り、菅和範は水漏れしていたバイタルエリアを補修し、泥臭い仕事をこなした相方とは対照的に小野寺はピッチを華麗に舞った。この2人の縦関係が良好だったことに加え、守備陣も集中力を切らさず、前線も果敢に出所を潰したことで、札幌を後半シュート0本に抑え込んだ。相手の足が止まったにしても、ほぼ完璧な試合運びができたと言える。
「最低でも勝点を取りたかった」(財前恵一監督)札幌だったが、「距離感が悪く、ゴール前に入るプレーが少なかった」(菊岡)ことが災いした。ことに、後半はそれが顕著に出てしまった。ただ、崩す手前の形まではできていた。「あとはシュートに持ち込む、最後の精度が足りない」とは宮澤。微妙なズレを修正し、得点力不足を解消したい。
連勝して4位に浮上した栃木。前節の愛媛戦に続き、この日も2トップの関係性でゴールを生んだ。年が近い瀬沼と重松は、フィーリングがいい。「動いてくれるし、居てほしいところにいてくれるのでやりやすい」と瀬沼が言えば、重松も「(コンビネーションは)僕たちの売り」と豪語する。まだまだ改善が求められる部分が多いが、それでも2人の攻守両面での貢献度は高い。
「ドゥさん(近藤)も含めて前線で点が取れるのは、チームとしていい傾向。『俺が取るんだ』とギラギラした選手が揃えば、それだけチームを助けることになる」(瀬沼)
粘り強く守れる守備陣に、好調の瀬沼、重松、近藤の攻撃陣を携え、栃木は首位を快走する湘南に挑む。栃木が標榜する切り替えの速さをハイレベルでこなすチームを相手に、「どれだけできるのかチャレンジしたい」(阪倉裕二監督)。
以上
2014.05.04 Reported by 大塚秀毅
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