「勝ちたい」。そんな想いほとばしる立ち上がりだった。その想いをプレーで表したのは城後寿。4−2−3−1の2列目の中央に位置する城後は、チームメイトの気持ちを引っ張るかのように、相手の背後に向かって絶妙のタイミングで飛び出していく。「積極的に裏に飛び出していくのが自分の良さ。そこに重点をおいて、次の試合ではプレーしたい」。北九州戦後に話していた言葉を実践するプレーに、堅守を誇る大分の守備網が崩れていく。そして5分。大分の右サイドの裏に飛び出してボールを呼び込んだ城後は、勢いに乗ったままグラウンダーのボールを折り返す。そのボールをニアへ走り込んできた坂田がスルー。そして、そこへ石津が現れた。阿部巧のフィードから始まった鮮やかな連係プレー。それは勝利を渇望する福岡に関わる人たちの想いを代弁するゴールだった。
その後も福岡が主導権握って試合を進める。その内容を問えば決していいとは言えなかった。奪ったボールをミスで簡単に相手に渡し、攻め上がってもシュートに持ち込めず、チャンスらしいチャンスはほとんどない。前半に放ったシュートは僅かに2本。先制点を奪ってから34分間もシュートを打てなかった。しかし、そこには勝利を渇望する11人の姿があった。ミスをしても、ボールを奪われても、走り、プレスをかけ、1対1の局面で絶対に譲らない強い気持ちがあった。前半のスコアは1−0のまま。しかし、相手の指揮官をして「前半は間違いなく福岡の方が走っていた。相手を上回ることができていなかった」と言わしめたように、自分たちの原点を表現し続ける福岡は大分にサッカーをさせなかった。
だが、大分もこのまま黙っているわけにはいかない。田坂和昭監督は57分、西弘測に代えて伊藤大介を、田中輝希に代えて後藤優介を投入。後藤に福岡の最終ラインの裏へ飛び出させ、伊藤をボランチの位置に置いてゲームをコントロールさせる。この采配が、それまで足下ばかりにつないでリズムが刻めなかった大分を変える。じわじわと福岡陣内に進出していく大分。運動量と局面の激しさで対抗する福岡。勝負を決めるであろう次の1点を求めて両チームが激しくぶつかり合う。
そして61分、勝敗を分ける勝負所の争いは意外な形で決着がつく。セットプレーの攻防の中でパク ゴンと高木和道がもつれ合うように転倒。このプレーで大分にPKが与えられた。スコアは1−1。試合は振り出しに戻った。
アディショナルタイムを含めれば残り時間は30分あまり。ここから試合は更にヒートアップするものと思われた。実際、大分はアウェイゴール裏を埋めるサポーターとともに一気にテンションが上がる。しかし対照的だったのが福岡。それまでアグレッシブに戦っていた空気が一変。失点したショックがありありとスタンドにまで伝わり、それが伝染したのかのようにスタジアムの空気が重苦しくなる。そして、それが互いのプレーに露骨に表れた。自由にピッチの上を躍動する大分。運動量が減り、局面の争いで負け、後手を踏んで大分に振り回される福岡。そして、その流れのままに大分が追加点を挙げる。時間は68分。伊藤からのスルーパスを受けた後藤が最終ラインを突破して中央へボールを送ると、フリーで待ち構えていた風間宏矢のダイレクトボレーがゴールを捉えた。
これで勝負が決した。時間はまだ十分にあったが、福岡の選手たちからは戦意が感じられず、単純なミスを繰り返し、何の抵抗も見せられずに時間だけが過ぎていく。アディショナルタイムにはパワープレーも仕掛けたが、どこか中途半端なプレーは観客を沸かすこともできなかった。気持ちの溢れるプレーをしながら、ひとつの失点で自分たちを見失ってしまった福岡。その姿からは開幕直後に粘り強さを発揮していたことは想像すらできない。思うようにならない戦いが続く中で、少しずつ、歯車が狂いかけているのかも知れない。
それでも次の戦いはやってくる。敗戦を悔んでも、下を向いても、何も変わらない。そして、目の前の壁を登るのは自分たち自身であり、誰かが助けてくれるわけでもない。どのような苦しい状況に追い込まれたとしても、自分たちで解決する以外に、今の状況から抜け出す方法はない。勝利するためには、技術も、戦術も、相手の分析も必要だが、自分たちの原点がなんであるかを見つめ直すこと。まずはそこからだ。
以上
2014.05.04 Reported by 中倉一志
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