6位浮上の北九州。J1ライセンスこそないもののプレーオフ圏の前後に位置することは今後のチーム作りにも大きな糧となる。
その北九州は前節、福岡とのダービーで成長の証たる勝点3と確かな自信を手にした。試合翌日の4月30日はオフとなり、5月1日に戦士たちが再び顔を合わせた。練習場の新門司球技場は雲間から柔らかな陽が差し、まだ春を十分に感じられる風がそよそよと吹く。サッカー日和。「余韻」も気持ちよくピッチを包み、選手たちは明るさと自信と緊張感を程よく漂わせながらトレーニングに臨んだ。
ゴールデンウィークまっただ中の5月3日、北九州は横浜FCをホームに迎える。キーポイントは中盤での主導権争いだ。北九州は福岡戦で圧倒的にゲームを支配。前線からのプレスが効いていたことに加えて、中盤でのポゼッションのリズムが良く、悪い失い方をしなかったことも勝因の一つだった。八角剛史、風間宏希のダブルボランチのゲームコントロールが機能していたと言っていいだろう。今節も継続して勝機を見出したい。
八角にとって横浜FCは古巣。気持ちは抑えつつマッチアップする寺田紳一の名前を挙げ、「ゴールに直結するプレーをするし、駆け引きもしてくる選手。ボールのないところでも先を考えてプレーできる」と警戒を強めている。
実際に横浜FCは寺田からの供給でゲームが動いている。また最前線の黒津勝、飯尾一慶の2トップはシンプルにゴールに向かうのではなく一ひねり入れて崩す。前節では途中出場し右からのクロスに抜け出して決勝点を決めた野村直輝も含めて、タレントが揃う横浜FCの最前線。北九州にとっては彼らに最終ラインの近辺でサッカーをされてしまうと苦しい展開になる。それだけに起点への早いアプローチが不可欠。北九州の柱谷幸一監督は「(福岡戦は)2トップが相手の攻撃を抑えた。アンカーをスクリーンさせボールを入れなくした」と振り返ったが、その言葉の通り横浜FC戦でもボランチと2トップが良好な関係性を保ちたい。起点となる寺田、安英学からの展開を抑えられればリスクは減らせそうだ。
逆に横浜FCから見れば寺田らの自由度をどれだけ確保できるかが勝負の分かれ目となる。前節の讃岐戦では相手の寄せの早さや堅牢なブロックを前にビルドアップに時間を要し、ボランチからの展開がフィニッシュまで行けた場面は限られた。北九州も全員守備の意識は高い。ゲームメーカーがボールに触れる機会を増やしたり、パスにいくつかの選択肢を見出すなどして、前半から前線への供給量を増やしていきたい。
北九州が好ゲームのあとに見せる「もろさ」を克服できているかにも目を向けなければならない。磐田、岡山と勝ったあと山形戦では不甲斐ない試合をしてしまった。今度のゲームも福岡に快勝したあとだ。自信だけが過剰になっていれば同じ過ちをしてしまうだろう。ただゲーム2日前の5月1日に選手たちが発した生の声や心地よい緊張感はその不安を払拭する。「緩くならずに試合ではバーンと行けるように準備したい。この気持ちを継続すればいいゲームができる。先に失点しないことを心がけ、我慢していれば点は取れるという空気ができている」とキャプテンの前田和哉。チームのメンタリティにも気を配ることが多い八角も「福岡戦のようなテンションで入れればみんなも体が動くと思う。連続してああいうプレーができればいい」と話していた。試合はトレーニングの延長線上にある。しっかりとした準備、しっかりとしたゲームの入り方をし、しっかりとした終わらせ方ができるか。北九州には緊張感の持続可能性という内なる敵を制することも求められている。
ところで、練習の最後に柱谷幸一監督が「レアルの試合、観ました?」と取材陣に逆質問した。チャンピオンズリーグ準決勝、レアル・マドリードが4−0でバイエルンを下したゲームのことだ。柱谷監督は4点のうち3点目を引き合いに出し、「パス3本でシュートまで持っていける。2トップの優位性がそこにはあってカウンターが効きやすかった」と熱弁。システムやバランスの保ち方にも言及しつつ、「ワイドアタッカーも大事で、ワイドも点を取らないといけない。うちの小手川や翔太にも決めてほしいね」と2トップに加えて小手川宏基や井上翔太の奮起も促した。その井上。昨年8月のアウェイでの横浜FC戦が自身初の90分フル出場で、再対戦に「印象はいい」と話す。「福岡戦では打てるシーンでパスをしてしまった。あまり考えすぎずに、点を取ろうという気持ちで臨みたい」と意気込んでいる。
厳しいスケジュールが続くゴールデンウィークの連戦。試合の主導権を握り連勝を飾れるのは八角剛史が好守にマネジメントする北九州か、寺田紳一がゲームを広げる横浜FCか。マッチデースポンサー・東筑軒の名物駅弁「かしわめし」を食べつつ、手に汗握る熱戦でまたひとつ連休の思い出を胸に刻みたい。
以上
2014.05.02 Reported by 上田真之介
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