キックオフ2時間前に発表された試合メンバーに息を飲んだ人は多かったに違いない。岡山の控えメンバーのうち、フィールドプレーヤー6人全員が前節の先発メンバーで固められた。代わって先発メンバーの欄に記載されたのは、2試合ぶり先発の千明聖典、開幕から3試合先発した妹尾隆佑を除く4人が今季初先発の選手。前の3人、1トップ2シャドーはそっくり入れ替わっていた。前節・札幌戦を今季ホーム初勝利となる2-0で制し、ようやく良好な手ごたえが結果に結びつき始めた矢先。中2日の試合とはいえ、大胆なターンオーバーだった。
しかし、影山雅永監督には確かな判断と読みがあった。「トレーニングのなかで彼らは必死に『試合に出たい。俺はコンディションがいいんだ』というのをアピールしてくれてるんですけれども、もうまさにそこの部分です。疲労がある、それを持っている選手はいるけれども、それ以上に出たくてうずうずしていてコンディションを整えてきた選手が数多くいた」。ともに今季初の連勝を懸けた一戦は、岡山が2-0で勝利した。
宮阪政樹は「立ち上がりの10分、15分ぐらいまでは、そこまで違和感なくやれていた」と振り返る。右サイドでボールを奪い、中央のディエゴを経由して送られたスルーパスにオーバーラップした石川竜也がクロス。これで得たコーナーキックをイ ジュヨンがヘッドで合わせシュートを枠に飛ばした。強い風下をものともしない勢いが、フレッシュなメンバーで臨む岡山の連係面の不安を突いていた。
しかし、岡山もその状況に慣れるまでに多くの時間を必要としなかった。7分、パスを受けた千明が前方へフィードした場面では、山形の後ろ8人がロングボール対応で一斉にラインを下げたが、出どころである千明にプレッシャーはなし。それ以降はシャドーの妹尾が下りて中盤のスペースでボールを受け始め、マークを逃れて自由に泳ぐ。右の田中奏一へ大きく展開したあとは、左サイドでオーバーラップする三村真とタイミングよくスイッチし、今度はまた右へ。18分に得たコーナーキックではショートコーナーから波状攻撃を仕掛けた。
28分には山形がフリーキックを得たが、その流れで先制したのは岡山だった。クリアボールを拾った妹尾が左サイドの三村に預け、三村の中への切り返しに呼応して左タッチライン沿いに膨らみながら走り出した。そして中央でも清水慎太郎と片山瑛一が走り出していた。岡山の3人の受け手に対し、コースを塞ぎにかかった山形の選手は5人。しかし、三村へのプレッシャーがなかったため、ボールは妹尾が待つ広大な左サイドのスペースへと送られた。また、三村がパスを送る直前、イがポジションを上げてオフサイドを狙ったが、中央で片山に引っ張られていた石川竜也はラインを上げるタイミングを失っていた。「奥にディフェンスが1枚残っていたのが見えていました。『オフサイドかな?』と相手が止まった部分はあったんですけど、そこは見えてた」とスルーパスを受けた妹尾がキーパーとの1対1を冷静に流し込んだ。昨晩生まれた第一子誕生を祝うゆりかごを、自身が決めたゴールで揺らした。
山形は川西翔太が間で受けてターンしたり、キープしたりとチームでボールを持つ時間もなくはなかったが、岡山の素早い切り換えと寄せでボールを前方に運べず、サイドのスペースを突こうと走ってももれなく岡山のマークに付かれ、スピードでかわしクロスを入れても意志を持ってゴール前に飛び込む味方がいなかった。けっして深くはない岡山のラインを押し下げることができず、それがさらに前から強いプレッシャーを受ける状況につながっていた。45分、2度続いた岡山のコーナーキックから清水慎太郎のゴールが生まれて2-0。この時点で試合はほぼ決した。
ハーフタイムをはさみ、山形が変化を入れてきたのは59分。山崎雅人に代えて萬代宏樹を投入し、ダイヤモンドの4-4-2にシフト。徐々にボールも人もスピードアップし、川西や中島裕希などのシュートシーンが増えてきたところで、比嘉厚平とキム ボムヨン投入でサイドをフレッシュにした。「点を取りに行かなければいけないという状況のなかで、前に随分気持ちが出てたんじゃないかなと思います」と石崎信弘監督。実際、シュートシーンも増えたその攻撃について、影山監督も「ダイレクトにゴール前に運ぶ迫力ある攻撃をしてきましたので、それにタジタジになってしまいました」と押し込まれたことを認めている。しかし、迫力はあっても、味方同士で共有できるイメージは淡く、打ち抜かれようとするシュートに体ごと当てにいくことを厭わない、岡山の気迫の守備を破る瞬間はついに訪れなかった。
昨シーズンは31試合に出場しながら、今シーズンはこの試合が初出場となった田中は「『何で出場時間が俺だけゼロなんだよ』とここまでずっと思ってたんですけど、そう思うからには、出たときにしっかりやんなきゃいけないという責任があると思っていた」と振り返った。選手がフレッシュであればすべてがうまくいくわけではないが、この試合ではそうした意欲を監督が汲み取り、チャンスをつかんだ選手たちも自身の危機感をチームの勝利につながるプレーで表現した。
またも連勝を逃し、観客動員で苦戦するホームで前回に続き敗れた山形は、秋葉勝がチームの問題点を指摘する。「出し手と受け手の関係だけで、そこがダメだったら判断がなくなっちゃうような形が多かった。自分たちで仕掛ける形でやっていかないといけない」。さらに踏み込んで危機感を表明したのは萬代だ。「今年の最初に内容がよかった時って、全員が運動量多く走って、前から守備もするし、3人、4人絡んで攻撃して、誰かがミスしてもすぐ切り換えてボールに行って、そこから奪ってまた速い攻撃ができたことが多かった。今はボールが動いても止まってる選手が多い」。昨シーズンはリスク管理がややおざなりでもボールを追い越すことをやめなかったチームが、その貯金をすでに使い果たしたかのように、攻撃でノッキングするシーンが目立ってきている。運動量の足りなさは誰もが指摘できるが、それを90分間持続させ、チームのコンセプトとしてDNAに染み込ませるには、ブレない戦略とさらに多くの時間が必要となる。
以上
2014.04.30 Reported by 佐藤円
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