疲れているのはわかるが、中2日の日程など、敗戦の理由にならない。そういう声には、全力で抗う覚悟はできている。
「わかるが」。
いや、体験していない人には、絶対にわからない。中2日の連続という日程問題は、試合に出ていない選手たちにも影響する。連係も確認できず、試合形式の練習がほとんどできないことにより、コンディションを保つのが難しくなる。疲れとは別の問題も生ずる。広島をはじめとするACL組を襲う日程問題は、移動も含め、厳しい。
ここまでの前提を理解した上で、あえて書く。この日の広島は、ブーイングを浴びてもおかしくなかった。頑張っていないわけではない。みんな、闘っていた。だけど事実として、全ての失点は、自分たちのミスから生まれた。1点目はチーム全体の動きが止まったことでパスの選択肢がなくなり、結果として林卓人のパスミスをカバーすることができなかった。2点目は、接触プレーに対して「ファウル」と判断したのか、そこで全員の動きが止まったことが要因。そして3点目は、遠藤康のFKの質は高かったが、入ってくるボールに対して誰も何もできなかった。
こういう失点を疲労や日程のせいにしてもいい。疲れは肉体だけでなく頭脳を襲い、判断がいつもより遅れるのも確かだ。だが広島の過酷な連戦は、5月18日の仙台戦まで続く。過密日程や長距離移動の疲労や調整の難しさを自覚しつつ、それでも闘う術を身につける。それができなければ、アジアもJも頂点をとれない。
この試合の問題を、千葉和彦がズバリと指摘した。
「失点した後にチームを立て直すことができず、ズルズルといってしまった」
失点した時間帯は早く、十分に反撃の時間は残されていた。トニーニョ・セレーゾ監督は広島の攻撃を封じ込めようと、トップ下の土居に青山敏弘を見させ、ボランチの二人にシャドーのケアをさせ、両サイドハーフの位置も引き気味に置いた。それでも前半は、広島の攻撃に振り回された若い鹿島の守備陣は焦りを生じ、50分までに最終ラインの選手たち全員が警告を受けてしまう状況。石原直樹や水本裕貴の決定的なシュートもあったし、両サイドでもイニシアチブはとれた。北京国安戦での0−2は絶望的な雰囲気が漂っていたが、ホームのサポーターが必死で声をからしていた鹿島戦は、違っていた。その空気に水をかけたのが、3点目だった。
それ以降の広島はほとんどチャンスをつくることができず、パスはひっかかってカウンターを受け、何もできずに終了の笛を聞いた。3点差は確かに厳しいが、かつて広島はC大阪に3点差をひっくり返されたことがある。その逆ができる可能性はゼロではなかった。もし、疲労の影響を言うならば、むしろ3点差になった後の広島らしくない戦いぶりだろう。その内容が千葉に「悔しい」と語らせ、2点目を決めた土居聖真に「完勝」と言わしめるだけの印象を植え付けた。
一方の鹿島は、まさに「らしい」戦いを見せつけた。「広島には絶対に負けない」と執念を見せたトニーニョ・セレーゾ監督の広島対策を選手たちは実践したことも素晴らしいが、それ以上に印象的なのは、鹿島伝統のしたたかさが若い選手にもしっかりと受け継がれている事実だ。
その象徴が試合の趨勢を決定づけた2点目だろう。森崎和幸と小笠原満男の接触プレーで西村雄一主審がホイッスルを口にした瞬間に広島が足を止めてしまったのに対し、スルーパスを出した柴崎岳もゴールを決めた土居も、当然のようにプレーを続けた。常に相手の隙をうかがい、勝利のために90分間を集中して消費する。J開幕以降、ほぼ継続して彼らが優勝を争える理由は、こういう「アントラーズ・スピリット」を脈々と受け継いできたことだ。
「この敗戦は自分の責任。過密日程とACLで一つの結果を出したという喜びの中で、鹿島戦に向けて高い集中を保って試合に入れるような道筋をつくることができなかった」
森保監督は自分自身に言葉の刃を向けた。その上で「自分たちで首を絞めてしまった敗戦」指揮官が指摘するように、この試合は自滅。フワッとした隙を鹿島という相手に見せてしまったことが最大の敗因である。ただ、広島というチームは常に敗戦から学び、自分たちの力に変換して連覇に結びつけた。きっと今度も、やってくれる。そういう信頼感は、森保監督が率いるこのチームには存在する。
試合後、紫のサポーターは悔しさを押し殺して、選手たちに拍手を贈り、激励した。ここまでの選手たちの頑張りがわかっているからこそ、ふがいなさを選手自身が一番認識していると信じているから、ブーイングではなく血が噴き出るような気持ちでサポーターは手を叩き続けた。
選手も、その想いは受け止めている。疲労は認めても、彼らは敗因をそこに直結させてはいない。現実を見すえた上で、広島は明日、強敵・鳥栖と闘うために旅立つ。11連戦はまだ、半ばである。
以上
2014.04.27 Reported by 中野和也
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