勝利の余韻に浸りつつ、冷静に試合を振り返っていた田中裕介が急に饒舌になる。
「いやー、劇場でしょう。等々力劇場でしょう。なかなかあれは入らないですよ。あれが入るというのは、うちは何かの力が働いているとしか思えないですね。神様ですかね(笑)」
前売り券が完売し19,164人の観客を集めた等々力競技場は、1−1のまま試合が終了しようかという90+2分に揺れる。レナトからのクロスを受けた大久保嘉人が、打点の高いヘディングシュートをねじ込み、勝ち越すのである。苦しみながら、川崎Fが掴んだ決勝ゴールだった。
前半を1−1で折り返した試合は、時間の経過とともに川崎Fが圧倒的にボールを支配する展開となる。川崎Fのパスワークを止められないG大阪の選手たちは、自陣深くに守備ブロックを形成し、川崎Fの攻勢を凌ぐ。ペナルティエリアの内部に人数をかけ、守備を固めていたその陣形を見るに、彼らはサイドをえぐられたとしても最後は中で弾き返せばいいと、そう考えていたのだろう。ブロックを作って守るG大阪に対し、川崎Fはその守備ブロックの周辺でパスを回し続ける。川崎Fにとってのリスク要因は、長谷川健太監督が72分に投入した宇佐美貴史だった。ケガからの復帰戦となった宇佐美は、サポーターからの大歓声に迎えられて最前線にポジションを取ると、虎視眈々とカウンターの機会を伺っていた。
川崎Fにしてみれば、拙速な攻めでボールを失ってしまうとそれが即座にピンチとなる。だからこそ、適切なリスク管理を念頭に、川崎Fは丁寧にボールを繋いだ。しかし、攻める姿勢を見せないG大阪に対し、川崎Fの選手からは焦りの感情が出始めていたという。終盤のG大阪の守勢について田中裕介は「相手は何をしてるんだろう、というくらいに本当に出てこなかった」と話すと引き分け狙いの作戦だったのではないかと振り返る。90+2分にジェシが前線へと飛び出したのは、そうした守備陣の焦りに加え、川崎Fが喫した19分の失点の大半がジェシの責任に帰するべきものだったということもあるのだろう。
このジェシの飛び出しによって多少なりともG大阪の陣形が左にスライドする。中央でボールを受けた大島僚太は、左に開いていたレナトにパスを付けると、レナトはギリギリのタイミングでクロスを上げる。ファーサイドに飛んだ高い弾道のクロスは、待ち構えていた大久保嘉人の元へ。大久保は、対応する藤春廣輝の遥か上をいく跳躍を見せ、ヘディングシュート。これがクロスバーを叩き、そしてゴールへと吸い込まれた。
「どうしても決めたかったんで、突っ込んだら入りました。何も考えてなかった」と話す大久保は、GKとの1対1を外していたこともあってか、喜びを爆発させてサポーターの元へと駆け寄った。
ただ、まだ試合は終わっていない。ここで大失態の末に敗れた3節の大宮戦を引き合いに出したのは中澤聡太。
「向こうは攻撃的なカードを切ってましたし、センターバックも上がってきてましたし、大宮戦で痛い目にあっているので、特にそこは意識してました。すごく集中していました」と大久保の勝ち越しゴール以降の時間帯を振り返った。パワーをかけたG大阪の猛攻を受けるのだが川崎Fはこれを凌ぎ切り、2−1で勝利。「うちは攻め続ける姿勢を貫いた結果でした」と田中裕介は胸を張った。
とこのまま原稿を終えてもいいのだが、気になる部分について簡単に指摘しておきたい。その一つが、前半5分の先制後の戦いである。FKを合わせたジェシのヘディングシュートが決まった先制点の後、川崎FはG大阪の攻勢に押されてしまった。もちろんサッカーの試合ではそういう時間帯はあるのだが、中村憲剛は「ガンバも挽回したいという気持ちがありますし、あの時間帯だけちょっと後手を踏んだんですよね。あの10分くらい。それ以外は基本的に自分たちが持っていましたが、そういう意味ではちょっともったいない」と話す。
先日行われたACLの蔚山戦の2−0になった後の時間帯を思い出させる試合運びの末、ミスも絡み19分に遠藤保仁に同点ゴール食らう。蔚山戦で経験出来ていた事を活かせなかったという意味で、残念な失点となった。
また、中村、大島の両選手に時に体を当てるなどして厳し目にプレスを掛けていたG大阪の守備により、彼らが窮屈に仕事をしなければならなかったという点も課題の一つであろう。柏戦で出始めた、厳し目の守備を受けた際に攻撃をうまく回せない傾向はまだ完全に解消できていない。もちろん相手選手が本気で守備をしてくれば、それをかわすのは簡単ではないため、これからもそう簡単に解消できる問題でないことは覚悟しておく必要があるだろう。
ただ、数は少ないながら決定機を作っていたという点。あわやPKかというチャンスを作り出していたという事実も含め、1試合を通してみた場合にこの結果は順当なものだったとも言える。いずれにしても川崎Fが試合終了間際の得点でG大阪を下し、勝点を14へと伸ばした。順位こそ8位と変わっていないが、首位との勝点差が2点縮まり、4となった。
一方のG大阪は、攻守にバランスが取れつつあるような印象を受けた。後半開始時には、あわやゴールかという決定機を作ってもいた。この試合でケガから復帰した宇佐美が今後チームに馴染むことで、持ち前の攻撃性を発揮していくのは間違いなさそうだ。
以上
2014.04.27 Reported by 江藤高志
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