試合前の順位では大宮16位、甲府14位。ここで近い順位の相手に勝てなければ残留争いに固定されかねない試合で、大宮は自滅ともいえる敗戦を喫した。采配は裏目、選手はバラバラ、運にも見放された上に、後押しするべきサポーターの一部は試合中にもかかわらずサポートを放棄した。間違いなく今季最悪の内容といえる試合を、大宮はこのゴールデンウイーク5連戦の緒戦に演じてしまった。
立ち上がりの大宮は、そう悪くはなかった。甲府が守備では引いて5-4-1のブロックを作るため、大宮はボールを持ててはいた。大熊 清監督は「サイドを使ってシンプルにやりながら中を突いていこう」と、サイドハーフのチョ ヨンチョルと橋本晃司には、人口密度の高い中央を避けて外に張るように指示。だがその結果、ズラタンと家長昭博が中央で孤立してしまい、ブロックを揺さぶって穴を開けることはできなかった。裏を突いて前後に広げようにも、甲府のプレスバックが早くそのスペースはなかったし、サイドチェンジで横に広げようにも、甲府は素早いスライドで大宮にそこから崩すスペースを与えなかった。
甲府にしてみれば、「サイドを変えられてもブロックの外をボールが動くぶんには怖くなかったし、中に入ってきたらそこで奪いきってカウンターにつなげる」(新井涼平)というねらいを実行するだけだった。サイドの選手がボールを持ったときに、シャドーやボランチが相手のサイドバックとセンターバックの間を斜めに走ってゴール前に走り込むのが甲府の形であり、その形から早くも7分にマルキーニョス パラナが決定機を作っている。36分の先制点は右コーナーキックに佐々木 翔がボレーで合わせたものだが、後半に奪った2点目は、左サイドがボールを持った瞬間にマルキーニョス パラナがペナルティエリア内に斜めに走り込み、クロスをクリスティアーノが折り返したところに盛田剛平が飛び込んだ。
甲府にとっては、思惑通りの完勝というところだろう。昨年中盤から磨き上げてきた、堅守速攻の3-4-2-1システムが機能し、選手たちも迷いなくプレーしている。これで2連勝となり、12位に浮上した。9試合での被シュート数65はリーグ2位の数字で、「良い守備から良い攻撃というのをもっと得点につなげていけるチームにしたい」と、城福 浩監督は試合後に充実した表情で語った。
大宮は、対照的に迷走した。先制点を与えるまでは、家長や橋本晃司の個人技でいくつかチャンスを作れてはいたが、「失点してから慌てる場面があって、流れが悪くなった」(家長)。選手の距離感が遠く、ボールを運べなくなり、前線にボールを引き出す動きもなかった。ボールの失い方が悪く、守備でも後手を踏んでカウンターを浴び続けた。
ハーフタイムに橋本を下げて、「間を使いながら数的優位を作ることを意識させる」(大熊監督)べくカルリーニョスをボランチに投入し、渡邉大剛を2列目に上げる。後半の立ち上がりはそれが奏功して、リズム良く、高い位置でボールが回り始めたが、不運にもそのカルリーニョスが負傷して56分に交代。片岡洋介をセンターバックに入れて高橋祥平をボランチに上げたが、再びリズムが崩れ、65分の決定的な2失点目で大宮は完全に自分たちのやるべきサッカーを見失い、バラバラになった。
パスの出し手と受け手以外、チームメイトが次に何をやるのか窺いながら歩いているようでは相手を崩せるはずもない。パスの呼吸が合わないばかりか、ボールに味方同士で飛び込み激突するなど、プロの試合ではあまり見られない場面さえ頻発した。70分にラドンチッチを投入し、再び渡邉をボランチに下げる。75分ごろからは高橋を再びセンターバックに下げ、菊地光将を前線に上げてパワープレーを仕掛けるが、「大宮の超パワープレーに対して、クロスをどこから、どういう状態で上げられてはいけないのか」(城福監督)を、甲府はしっかり準備しており、サイドに展開しても素早く寄せられ、有効なクロスはほとんど上げられなかった。むしろ「相手の3バックはヘディングが強くて、セカンドを拾ってFWに当てられて2列目が出てくるという悪循環にハマって」(渡邉)しまい、それを気遣ってズラタンが自主的にボランチの位置に下りてくるという本末転倒ぶり。結局は前半に3本、後半は2本のシュートしか撃てず、完敗を喫した。
終了のホイッスルが鳴った瞬間、大宮で立っていられたのは前線にいた菊地、ズラタン、ラドンチッチだけで、他の選手たちはその場にへたり込んでいた。頼るべきチームの共通理解もないまま、個々が必死に目の前のボールと相手を追うだけだった時間が、選手たちの疲労を倍増させたことは想像に難くない。しかも試合中の早い段階から、攻撃の手詰まり感に苛立った一部のサポーターが、ミスに罵声を浴びせ、バックパスに対して嘲るように指笛を鳴らす場面さえ多々見られた。リズムが悪くなった一因に、間違いなくこのスタジアムの雰囲気があった。
次節アウェイのC大阪戦はすぐ2日後。修正する時間はなく、メンタルを切り替えて臨むしかないが、それができるかすら心配になるほど、選手たちの表情は呆然自失としていた。自分たちのサッカーに自信が持てていれば、気持ちを切り替えることでまた戦えるだろうが、ここ数試合で少しずつ内容が改善したことでつかんだ手応えを吹っ飛ばして余りあるような敗戦だったのだ。これでリーグ戦4連敗。順位は変わらず、次に1勝すればまだ14位に浮上できる可能性があることが救いか。今はこれが底であることを祈るばかりだ。
以上
2014.04.27 Reported by 芥川和久
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