試合が勝負事である以上、最高の結果は勝利であり、最低の結果は敗北である。その意味では瑞穂での一戦で最高の結果を手にしたのは鳥栖で、名古屋は最低の結果だったことになる。特に鳥栖はJ1昇格後初の名古屋からの勝利でもあり、エースと伏兵の活躍により土壇場で勝ち越すという、ふさわしい内容でもあった。翻って名古屋の戦いぶりはどうだったかといえば、最低たる内容だったかと言えばそうではなかった。5連敗という結果、ホームでの敗戦の責任は重いがそれでもなお、名古屋はよく戦ったと思えるのである。
名古屋が善戦したと感じる理由の最たるものは、悪夢のような負傷者続きのラインアップにある。対鳥栖を想定した木曜の非公開練習時点での負傷離脱者は玉田圭司やケネディを始め10名、U-18日本代表のスロバキア遠征に行った杉森考起を加えると11名が戦線に加わることができずにいた。この状態で名古屋のフィールドプレーヤーは16名。GK2名を加えて試合登録ギリギリの18名しかいなかったことになる。さらに試合前日になってここまで中盤の底で奮闘してきた磯村亮太までもが負傷離脱。ここ2週間ほどで筋肉の張りを訴え、日々の練習後には入念な治療とケアを重ねてきたが、ついにパンクしてしまった格好だ。結果、鳥栖戦のメンバー表には“定員割れ”の17名しか名前が記入されない異例の事態に。戦術的なバリエーションを考える余裕もないメンバー構成の中には、矢野貴章の右サイドバックとダニルソンのセンターバックというスクランブル起用も含まれていたほどだ。鳥栖の安田理大も言っていたが、いささか負傷者が多すぎる。ボランチの岡本知剛が負傷でスタメンを外れたが、ベストメンバーと言える鳥栖との充実度の差は歴然としていた。
そのような状態でキックオフを迎えたわけだが、先手を取ったのは名古屋だった。この日は永井謙佑を1トップに置き、2列目に右から松田力、枝村匠馬、小川佳純と並べる4−2−3−1をチョイス。ボランチと枝村でパスをつなぎ、永井や松田の裏へ抜けるセンスを活かすことを主眼に置く攻撃を目指していたが、開始5分で永井のスルーパスに松田が抜け出すなど狙いはまずまず形になっていた。鳥栖のファーストシュートが14分だったことを思えば、名古屋は良い立ち上がりを見せたと言えるだろう。
だが、連勝中の上位・鳥栖は粘り強かった。名古屋の攻撃をしのぎ、強い風が吹くピッチの風上という条件を活かしながら徐々に名古屋を押し戻し、反撃に転じる。25分には池田圭の右サイド突破から豊田陽平がゴールに前に飛び込み名古屋DF陣をヒヤリとさせると、続く27分にはこの日スタメン出場となった高橋義希がミドルシュート。そして畳みかけるように先制点を奪う。28分、左サイドでボールを受けた金民友がDFに囲まれながらも前を向くと、DFラインの裏を巻くようなクロスをファーサイドへ。ワンバウンドしたボールに追いついた豊田がダイレクトで右足を振り抜くと、鋭いシュートはポストに当たりながらもゴールへ飛び込んだ。「最初のチャンスを仕留めることは特に意識すること」(豊田)。ストライカーの矜持が詰まったシュートで、試合は動いた。
鳥栖の勢いを示すような一撃でビハインドを背負った名古屋だが、やられてばかりではない。失点後すぐさま松田が決定機を迎えるなど気落ちせずに戦い、40分には「裏のスペースは狙っていたし、何本かは良い形で通った」と話した田口泰士のフィードに抜け出した枝村がペナルティエリア内で倒されPKを獲得。これを田中マルクス闘莉王がきっちり決め、前半のうちに同点に追いつくことに成功した。実を言えばこの時、鳥栖の選手たちは嫌な予感がしていたという。鳥栖の藤田直之は過去の対戦経験から「例年、名古屋との試合では内容は良くできているのですが、今日もそのまま悪い流れになっていくのかなと思えた前半でした」と試合後に明かしている。
風向きが逆になった後半は、名古屋が監督の指示通りに天候を味方につけ攻勢に出た。ロングボールが伸び、浮き球も流れる環境はスピードのある永井や松田の独壇場。それに合わせて松田と枝村の位置を入れ替え、ツートップの形で逆転を狙った。だが開始数秒で松田がシュートを放ち、8分に迎えたビッグチャンスまで6度ゴール前に迫りながらも得点できなかったことで、鳥栖に反撃の余地を与えてしまう。名古屋の攻撃が止んだ55分、無駄のない展開からあっという間に左サイド深くまで攻め入ると、ドリブルで粘った池田のクロスが闘莉王の手に当たったとして主審はPKを指示。闘莉王は「あれを取られるとお手上げ」と最後まで認めたくない様子だったが、鳥栖はこれを金民友が決め2−1と勝ち越した。
西野監督は流れを変えるべく21分に矢田旭と青木亮太を同時投入し、直後の22分には永井のビッグチャンスを生んだがここは決まらず。リードを盾に試合をコントロールする鳥栖を攻めあぐね、クリアボールの処理を狙い続けた永井が84分に同じような形で今度は決めたが、追撃はここまでだった。相性の悪い名古屋相手に「今までなら逆転負けだった」(藤田)と鳥栖も意識する中、尹晶煥監督が勝利を引き寄せるカードを切る。89分、池田に代えて谷口博之を送り出す。アウェイで過去未勝利の相手に2−2で迎えた終了間際である。時間稼ぎや守備堅めが指示されてもおかしくない状況の中、鳥栖の選手たちは指揮官からの明確な「攻めろ」のメッセージを受け取っていた。「獲りに行くというメッセージは伝わりましたし、今の試合内容、今のチーム状況を考えても、これは獲りにいかないといけないと思っていました」(藤田)。90+3分、右からのFKはまず池田が落として豊田がシュート。これはバーに弾かれたが、こぼれ球をもう一度中へ送ると、谷口が気迫のこもったヘディングを叩き込んだ。鳥栖に決勝点が転がり込んだのは、この時間帯でもセンターバックを上げてセットプレーに臨んだ気迫があったからだ。名古屋の闘志が足りなかったとは言わない。鳥栖が上回っただけである。
この勝利で鳥栖は3連勝となり3位に浮上。5連敗の名古屋は順位変動なく15位のまま。勝者と敗者の差は実に対照的だ。しかし名古屋が不甲斐なかったかといえばそうではない。彼らは必死に戦い、最後の最後で力尽きただけだ。ここ数年で積み上げてきた名声を思えば受け入れがたい成績も、再出発をしたばかりの若いチームにとっては苦い薬と栄養分である。ましてやこの負傷禍の最中だ。サポーターもそれを理解しているからこそ、試合終了後には暖かい拍手を選手たちに送った。ただし、“少なくともコイツらは闘っている”と思わせる試合をしたからだということを、選手たちは肝に銘じておかなければいけない。負傷者の復帰をアテにしていてはいけない。次節はアウェイ、国立でのF東京戦だが、何はともあれ全力で闘う姿勢を見せること。それが現状打破へのほとんど唯一の策であることは、誰もが理解しているはずだ。
以上
2014.04.27 Reported by 今井雄一朗
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