「ゲームの入りは良かった」と大谷秀和が振り返る通り、立ち上がりは2シャドーに入った太田徹郎が味方と絡むことで攻撃がテンポアップし、7分と15分には、工藤壮人と太田の連携から柏が2度の決定機を作る。しかし、DFの間一髪のクリアと西川周作のファインセーブによって、柏はこの好機を生かすことができなかった。
一方、浦和は前半最初のビッグチャンスを確実に決め切る。24分、原口元気の巧みな動き出しに柏木陽介からミドルレンジのパスが送られ、原口は柏DFの寄せに詰まったかと思われたが、反転しながら振り抜いたシュートがGK菅野孝憲の指先をかすめてゴールに吸い込まれていった。
両者は3月のヤマザキナビスコカップ開幕戦で対戦したばかり。その時は柏が各1対1の局面で浦和の選手を潰し、その結果2−1で競り勝つことができた。今回の浦和からは、より中盤で柏のマークをはぐらかそうとする動きが見え、柏木の「下がればプレスが来ない」という言葉も、それを象徴しているようにも思える。特に柏木は頻繁に低いポジショニングを取り、ハン グギョンの強烈なボール奪取から逃れ起点になることができていた。
そこでネルシーニョ監督は、そのマッチアップを避ける状況を逆手に取り、ハン グギョンのボール奪取から茨田陽生のパスと攻撃センスに切り替える。柏木がプレスを避けるならば、逆もまた真理。マッチアップする柏のボランチもプレスを受けづらいというわけだ。実際に茨田は、ハン グギョンから「ボールを持った時のプレスは甘い」と聞いていたという。
後半は狙い通り、茨田がパスの回転数を上げつつ、ボールに絡んで攻撃にアクセントを加えた。48分には縦パスを入れてリターンを受けてから自らの仕掛けでいきなり好機を演出。この決定機は西川に阻まれたが、60分には橋本和のクロスから茨田が右足インサイドの鮮やかなハーフボレーを突き刺して同点に追い付いた。
リードして以降は浦和がやや受け身になり、前へ出ていけない状況が続いていたのだが、この柏の同点ゴールは浦和のアグレッシブな姿勢を蘇らせる。ミラーゲーム特有の各局面でのマーキング、それを細かいパスで剥がしながらわずかなズレを突き、ジワジワと敵陣に攻め入っていく浦和。そのマーキングを受け渡しながら侵入を阻止していく柏も、しばらくすると押し返し始め、前半の比較的静かなリズムから動きのあるアップテンポの展開へ様変わりし、どちらに点が入ってもおかしくない拮抗した勝負が繰り広げられていった。
柏は、サイドチェンジと田中順也とのワンツーでスペースへ抜け出した橋本が、梅崎司に引き倒され、PKを獲得する。72分、田中が西川の逆を突いてPKを成功させて逆転すると、今度はそのわずか3分後に浦和が右CKからニアに入った阿部勇樹が絶妙のヘッドを決めて2−2に追い付く。
終盤、鈴木啓太、青木拓矢の投入で柏木、興梠慎三をそれぞれ1列上げて前線の特徴を変え、さらに右のワイドに入った関根貴大がドリブルで仕掛け、そこに森脇良太が絡む。そして左サイドからは宇賀神友弥と原口と、浦和は縦と横を幅広く使って柏を押し込み、揺さぶりながら守備陣形の破綻を狙った。
ここは怪我人が多い柏と、浦和の選手層の差が顕著に表れた形になり、そのまま浦和が押し切る雰囲気を漂わせた。ところが「勝ちたいという気持ちが強すぎた分、中に行ってしまった」(柏木)と、勝利を欲するあまり中へ中へと入ったことが裏目に出てしまう。ドリブルで中央へ切れ込んだ原口から出た縦パスを近藤直也が中央で弾き返し、前へ出た青木と入れ替わった茨田が怒涛のカウンターへ転じる。「疲れが来ていたので足がもつれてしまった」(茨田)とスピードダウンしてチャンスを逸してしまったかに見えたが、キム チャンスのクロスのこぼれ球を、得意の強烈な左ではなく「右足で巻いて打った」という田中のコントロールシュートが右ポストに当たって、そのままゴールイン。柏が勝ち越しに成功し、このゴールの直後に試合終了の笛が鳴るという、劇的な幕切れとなった。
試合後の会見では、両監督が開口一番「両チームにとっていいゲーム」と話したことが、90分間の激闘と質の高い攻防を物語っていた。どちらが勝ってもおかしくない内容であり、その攻防の中で互いに作り出したチャンスのうち、柏が浦和よりも1つチャンスをモノにした、そういう試合だった。
両チームの選手たちが死力を尽くし、戦術的な規律を持って戦った結果ではあるが、この好勝負が生まれた要因として、サポーターの存在を欠かすことはできないだろう。選手入場時のコレオグラフィなど、応援の仕方に創意工夫を凝らしながら大声援で選手たちを後押しした柏サポーターと、大挙した浦和サポーターの迫力ある応援が見事に絡み合い、すでに試合開始前からスタジアムにはテンションの高い空気が満ち溢れていた。
選手のパフォーマンス、スタジアムの雰囲気、ゴールデンウィークでスタジアムに足を運んだ大勢のファンに、改めてサッカーの魅力を伝えられたのではないだろうか。
以上
2014.04.27 Reported by 鈴木潤
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