GK3人のうち2人がケガで離脱する事態を受けて、すでに現役を退いて7年が経つ加藤竜二GKコーチを急遽選手登録するというスクランブル体制で山形に乗り込んだ前節。最後に1点を失ったものの、古巣への恩返し弾となる園田拓也の今季2点目、そしてスペースへの抜け出しと高い位置でのディフェンスという持ち味を発揮した齊藤和樹の今季3点目と、早い時間で奪った2点のリードが奏功し、熊本は約1年ぶりの3連勝を飾ってホームに帰ってきた。
GKに関してはJ1の仙台から、中央大で澤田崇と同学年にあたる22歳のシュミット ダニエルが期限付き移籍(昨シーズン、橋本拳人や現愛媛の堀米勇輝が加入したのと同じ制度を活用)で加入。畑実、永井建成の2人が戻ってくるまでを前提とした限られた期間ではあるが、熊本の状況を理解して一緒に戦う決断をしてくれたシュミットとベガルタ仙台に対しては、チームとして結果を出すことで感謝の思いを伝えたい。
かくして、現場における喫緊の問題については、強化スタッフの迅速な動きのおかげでひとまず解決したと言えそうだ。しかし今節から始まる連戦、その幕開けとなる重要な一戦を控えたタイミングで、クラブが抱える課題についての発表がなされた。公式サイトでもリリースが出ている通り、来シーズンを戦うのに必要なクラブライセンスを取得する上で果たさなければならない財務基準の1つ、債務超過の解消に向けて増資を行うこと、同時に、今後の安定したクラブ運営やチーム周りの環境整備を見越した募金活動を始めるというものだ。
現状、ここまで開催した今季のホームゲーム4試合における観客動員は平均7,817名とJ2で4番目に多い数字を出している。これは新体制となったチームへの期待や、地道なホームタウン活動を含めた普及・集客努力あってのものだと言えるが、この募金が「ロアッソ熊本存続支援募金」という刺激の強い名称になったことでサポーターの間でも懸念が広がり、土曜日の試合に先立ち、状況や意図を説明する狙いでアスリートクラブ熊本の池谷友良社長も出席してサポーターズミーティングが開催されることになった(ちなみに、今年発足した関東地区の公式応援団でも同日、ミーティングを行ってクラブへの質問や意見等を取りまとめるという)。それぞれに目標額を定めた増資と募金に関して、すぐに状況が好転するわけではないにしても、クラブとしてサポーターに情報を開示し、ともに苦境を乗り越えようとする姿勢だ。
さて、そうした状況で迎えるのが、目下6戦負けなし、プレーオフ圏はおろか自動昇格圏内の2位で首位・湘南を追走する長崎。Jリーグ参戦2シーズン目ながら実に堂々たる戦いぶりを見せているのは、経験豊富な高木琢也監督の指導に加えて、昨シーズン6位でプレーオフまで進んだことで得られた自信や、新加入選手がうまくフィットしてチーム内の競争が好循環を生んでいることなども要因か。さらには、結果を出し続けることで生じる上昇スパイラルもある。5節の東京V戦では後半だけ、7節福岡戦では前半だけで5得点を奪って勝負を決め、また前節は愛媛にリードを許しながら、交代出場の石神直哉のFK、同じく交代出場(そして今季初出場)の山田晃平の守備とアシストから東浩史と、終了間際のわずか3分間で試合をひっくり返した。おそらく選手の間でも「どんな展開になっても負ける気がしない」という感覚があるだろう。
昨シーズンはとにかく走るチーム、という印象が強かったが、今年はそのベースはそのままに、3-4-2-1の布陣を生かした戦い方がさらに進化、サッカー自体のクオリティも一段アップしている。特に中盤に加わった黒木聖仁と三原雅俊、このドイスボランチのバランスと配球が効果的で、前節は欠場したがエースの佐藤洸一がここまで5得点、シャドーの奥埜博亮と東がそれぞれ3得点と、攻撃に一層厚みが出た。神崎大輔と野田紘史のワイドMFが前を追い越していく場面が増えているのも単に前への推進力があるからだけではなく、しっかりと起点を作ってボールを動かすことができているからだ。
小野剛監督はそうした長崎について「攻守ともに勢いがある」と表現するが、一方で「その勢いの元になっている要素が必ずある」と言い、「そこをしっかり摘むことができるか」だと話した。24日のトレーニングは非公開で行い、「いつも通りで、特別変わったことはしていない」(小野監督)とのことだが、ここまで得点に結んでいるセットプレーの新しいパターンも含めて、この一戦のテーマとなる部分については少なからず落とし込まれているはず。ただあくまでチームとしてやるべきことはこれまでの試合と同じで、直近の3試合でもペースをつかむことにつながったプレッシングや切り替えを、変わらず継続できるかどうかが大きなポイントになる。
「うちも切り替えや前の選手の守備への戻りはできているし、長崎とは近い部分がある。そういう部分のシンプルな勝負で負けないことで、主導権を取りたい」と矢野大輔。前節の山形、前々節讃岐はリードした状況、さらに遡れば4節大分と、終盤に全体が押し込まれて失点しているが、できるだけラインを高くして――というよりも、前線との距離をコンパクトに保って――スペースを消すことで相手の起点を潰したい。「低い所から無理にポゼッションしようとはしていないし、持っている時にひっかけられてカウンターを受けないよう」(矢野)、使えるスペースを素早く見つけてボールを動かしていくことも必要で、その上で「うちがいい時はちょうどそこを使えている」(原田拓)というエリアと重なるワイドMFの背後、3バックの両脇をうまく使えるかが鍵になる。とは言え、その狙いは当然、長崎にもインプットされているわけで、そうなれば、常に変化する状況のなかでどれだけ主体的に、かつそれぞれの局面に応じた適切な判断ができるかというのが、この試合における最大の焦点になる。その点、「その時に何が大切なのかを理解して、自然体で、楽しみながらできるようになってきましたね」と、小野監督も選手達の成長に手応えを感じているのだが、果たして昨年の初対戦時のように気負い過ぎず、いい緊張感をもってプレーできるかにも注目したい。
クラブの状況は厳しいが、だからこそ現場としては、いい流れを持続していきたいところ。藤本主税は次のように話す。
「立場が違えば責任の持ちようは違うし、将来J1でやれる体力を養うために会社が頑張ってくれてると感じてます。だから僕たちはピッチでね、お客さんが増えるような、結果と内容の伴った試合をすること。それぞれの責任を継続して全うしていくっていうか、それが、会社と現場がひとつになっていくことにつながると思います」
熊本にとっては序盤のヤマと言っていい、バトル・オブ・九州の第3戦。スパンの短い連戦で勝点を積み上げて波に乗るべく、持ちうる力の全てを出し切りたい。
以上
2014.04.25 Reported by 井芹貴志
J’s GOALニュース
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