4万761人の観衆が集まった試合は、互いに守備の意識を高く持って臨んでいたため、ヒリヒリとした展開で流れた。その堅い守備を崩そうと、C大阪は南野拓実をはじめ、開始から積極的にゴールを狙った。それにF東京も追随し、チャンスを逃すまいとミドルシュートを放つ。だが、ボルテージは上がっていくものの、前半は観客の期待するゴールが生まれることなく試合を折り返した。
そして、熱気が充満したスタジアムに、そのときは訪れた。F東京は66分、左サイドを太田宏介が抜け出し、そのまま敵陣を進んだ。「インステップで思い切りよく入れれば、何かが起こるだろう」と、中央にグラウンダーのクロスを送った。それに、平山相太が反応し、左足で合わせた。その瞬間、味スタは沸点を超えた。C大阪GKキム・ジンヒョンがその場に釘付けとなったシュートはゴールネットを揺らす。平山は右手を高々と上げ、ゴール裏へと駆け寄ると、歓声を煽るように両手を上下させる。それに、応えるようにスタンドからは「ヒラヤマーヒラヤマー」の大合唱が沸き起こった。
「前半から自分の動き出しが悪く、中でうまく合わせられなかった。動きの質次第で点になる。今日は、あのシーンだけは良かったと思う」
そう振り返った平山は、太田がサイドでフリーになるのを目視すると、マークについていたゴイコ・カチャルの視界から消えるように背後へ回り込み、そこからニアサイドに走り込んだ。その動きで決まったゴールだった。2分後には途中出場の武藤嘉紀が左サイドを突破して中に折り返す。再びゴール前で待ち構える平山は、相手DFの間から顔を出してシュートを放った。これはゴール左に外れたが、試合のペースは東京が掌握した。
さらに、77分にはダメ押し点が生まれる。武藤が左サイドで足下にボールを収めると、囲まれながらも2人を交わし、縦にボールを進める。パスを受け取った三田啓貴が、スルーパスを通すと、上がってきた高橋秀人がヒールで落とす。そこに走り込んだ武藤が、ワンタッチで追いすがるDFを振り切り、GKの股の間を通してリーグ戦プロ初ゴールを決めた。
平山、武藤の公式戦2戦連続弾でF東京がC大阪を破り、昨季も4万人を集めた試合で敗れたリベンジを果たした。平山は試合後、「社長からも観客が入った試合では勝てないジンクスがあると言われていた。この試合は戦うことが大切だと思っていた。それが勝利に繋がった」と勝ち鬨(どき)を上げた。
試合を分けたのは、まさに“それ”だった。敵将のランコ・ポポヴィッチ監督が「疲労からなのか、体のキレを失っていた」と敗因を語っているとおり、プレーの繋ぎ目の動きが差となった。
F東京はボールを失っても、そこから素早く守備へと移行し、何度もボールを奪い返すことに成功している。また、奪ってからゴールへと迫る速度も開始から落ちることがなかった。得点を奪った前線や、体を張って守った守備陣も称えるべきだろうが、東慶悟と、米本拓司の献身性と、繋ぎ役としての質の高いプレーぶりには感動すら覚えた。だが、一方でC大阪はそのトランジションで後れを取っていた。特に、守備に切り替わる際のネガティブトランジションが遅く、この試合で奪われた2失点ともにそこに起因している。
勝利を追究する今季のF東京は、ここにきて開幕から取り組んできたその成果が目に見えて表れ始めている。証人は4万人もいる。それまで持ち合わせていなかった質の高い繋ぎ目のプレーを身に着け、上位を狙えるだけの力をつけたと言ってもいいだろう。新宿駅から30数分で着く味スタでは、強いF東京がまたのお越しを待っている。
以上
2014.04.20 Reported by 馬場康平
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