山形には石崎信弘監督と二階堂悠コーチ、熊本には小野剛監督。昨季、同じ中国のクラブ・杭州緑城で汗を流したスタッフ同士がそれぞれのチームに分かれ、J2を舞台に対戦する。今年と1日違いの4月21日に同じカード、同じNDスタで行われた昨年の対戦では季節外れの雪に見舞われたが、今年は見頃となった桜が雪をかぶる心配はない。キックオフは17時。セットプレーを大きな得点源とする両チームの対戦は、相手の心理に小さくない影響を常時互いに及ぼしながら推移しそうだ。

山形がここまでセットプレーで挙げた得点は3。さらに第3節、萬代宏樹が直接フリーキックのこぼれ球に詰めた2点目と、コーナーキックの流れから舩津徹也の折り返しをディエゴが決めた3点目も含めると全9得点中5得点がセットプレー絡み。そしてそのすべてでキッカーを務めているのが宮阪政樹だ。宮阪は前々節・愛媛戦で直接フリーキックで今季初得点を挙げると、コーナーキックから當間建文のヘディングをアシストして2-0の勝利に貢献。さらに前節は30メートル以上の長い直接フリーキックを沈め、ミドルシュートからの2点目も決めて波に乗っている。キッカーではレフティの石川竜也やディエゴも擁し、J2のレベルを超えた質の高いキックは大きな武器となっている。

一方の熊本も、4-1で勝利した前節・讃岐戦では2得点がリスタートから。特に「らしさ」が表れていたのは開始わずか3分に挙げた藏川洋平のゴール。原田拓のアウトスイングのコーナーキックに合わせてゴール前の全員がニアになだれ込むなか、カウンター対応の藏川がノーマークでスルスルとペナルティー付近まで入り込み右足アウトで合わせたものだ。58分の2点目は距離のあるフリーキック。右サイドの養父雄仁が大きく左サイドに振ると、片山奨典からのアーリークロスがゴール前に送られた。その間に長いフリーランニングを敢行した仲間隼斗が2対2の数的同数だったゴール前に走り込んでヘディングシュートを決めている。こちらも今季通算で全9得点中3得点がセットプレーからとなった。

山形と熊本はシーズン前の2月に練習試合を行っているが、石崎監督は「コーナーキックはショートコーナーしかやって来なかった」と当時の熊本の印象を振り返り、今シーズンの熊本のセットプレーの傾向を「いろんなパターンがあるんだよねえ」と感嘆している。コーナーキックだけでなく、フリーキックでも横に持ち出してコースを変えたり、囮の選手が相手を釣るための仕草を徹底するなど、ひと工夫もふた工夫も手が加えられている。前節の先制点直前の場面でも、フリーキックのボールをセットしたのはファウルを受けた園田拓也。しかし、そのまま相手を押しのけながらボールから離れると、近くにいた養父が置き直さずにすかさず前方へ蹴り出し、すでに左サイドを縦に走り出していた片山へパスを送ったことでコーナーキック獲得につなげている。相手の態勢が整う前にクイックリスタートするケースも多く、プレーが途切れたあとも、少しでも有利な状況を生み出そうとさまざまな駆け引きが展開されている。

それだけに、相手のセットプレーにどう対応するかといった具体的な準備とともに、相手にセットプレーの機会を可能な限り与えないゲーム運びも必要になってくる。それは、自分たちが多くのセットプレーの機会を得るゲーム運びと言い換えてもいい。

山形はここ数試合、高い位置から連動したプレッシングを効かせて前方へのフィードを許さず、敵陣に押し込んで早い時間帯にフリーキックを得て、自陣に引いてブロックをつくる守備でも共通理解が進んでいる。ただし、前節の前半は奪ったあとのボールをラフにスペースへ蹴り出し、そこで収まらずに自陣でプレーする時間が増えたことで45分間のシュート数は2本にとどまった。敵陣でのプレーとシュートチャンスをさらに増やすために、最終ラインをより高く維持することと高い位置での起点をつくることが今節でのテーマとなる。

熊本は主に長いボールを使って広いスペースを起点としながらシンプルに攻撃する。全体がワンサイドに寄ればスペースのある逆サイドに振り、時間をつくる間に前線に人を送り込む。センターバックでは矢野大輔や園田からのフィードも多いが、最大の起点となっているのは左サイドバックの片山奨典。片山からのフィードやアーリークロスなどに齊藤和樹や仲間隼斗が飛び出してラインの突破や押し下げを図り、バイタルにスペースが空けば見逃さずに起点づくりが始まる。山形のプレッシャーをかわして前線に狙いを持ったボールを供給できるかどうかがカギになる。ゴールキーパーは永井建成に続き、開幕戦からゴールマウスを守ってきた畑実も負傷。唯一プレー可能な金井大樹が前節、控えのキーパー不在の状況でJリーグデビューを果たした。加藤竜二GKコーチの選手登録で急場をしのぐ格好となったが、連勝をさらに伸ばすには、思わぬ形でチャンスをつかんだ金井の活躍は欠かせない。

前節は互いに今季初の連勝をめざしたが、それに成功し12位に浮上した熊本は3連勝を狙い、後半アディショナルタイムに勝利を逃した15位・山形はホームに戻って仕切り直しを図る。ともに中位にとどまっているが、上位との勝点差は大きくない。目が離せない戦いになりそうだ。

以上

2014.04.19 Reported by 佐藤円