この試合を前にした4月14日に、仙台の渡邉晋監督も選手たちも「鹿島は試合巧者。隙を確実に突く力がある」と口を揃えた。今回の対戦に限らず、鹿島戦を前にした時は選手やコーチングスタッフからは同様のコメントが多く聞かれるのだが、今回はその頻度がいつも以上に高かった。試合後の武藤雄樹によれば、この一戦を前に、改めてその試合巧者ぶりをしっかりチーム内で認識していたという。
この日の鹿島は先発の半分近くが直近の公式戦であるJ1第7節新潟戦から入れ替わり、11人の平均年齢は25.36歳。曽ヶ端準や野沢拓也がポイントで場を引き締めた一方で、フィールドプレーヤーの中央線は昌子源、柴崎岳、土居聖真、赤崎秀平といった若い選手たちに託された。そして彼らもまた、試合巧者だった。
この試合はホームの仙台が、公式戦初勝利を挙げたJ1第7節横浜FM戦の余勢を駆って攻めに出る。横浜FM戦で2得点した赤嶺真吾にロングボールを集めそのこぼれ球を拾ったり、赤嶺をおとりにしてスピードのある武藤、太田吉彰、佐々木勇人を走らせたりというかたちからチャンスを作った。また、佐々木が再三左サイドでのボールカットから相手ゴール前まで持ちこんだように、高い位置からのカウンターも効いた。
鹿島の最終ラインのポジショニングが重なってしまうなど連係が取れていなかった時に、仙台は先制点を決めたいところだった。ボランチの梁勇基や富田晋伍がロングボールで相手の最終ラインを下げさせた後の「足下でつなぐ時の状況判断がチームとしてうまくいっていなかった」(梁)と反省していたように、横浜FM戦に比べるとボールを持った時の判断にもたつきがあって相手の隙を突けず。逆に自陣でのパスミスに起因する相手FKから、野沢の見事な先制ゴールを許した。
後半になると仙台は位置関係が修正され、左サイドでは佐々木が中に切れ込む動きと鈴木規郎の攻撃参加が生きるようになった。それにともないボランチからも高い位置で効果的なボールが配球されるようになり、60分に同点弾が生まれる。梁が左に送ったパスを受けた武藤が、中央に切れ込んで「最近思い切りが欠けていたので、今日は思いきって打った」というシュートを鮮やかに決めてみせた。
仙台はここで畳みかけたいところだったが、ここは鹿島が前半に続いて相手の攻勢における隙を見逃さなかった。83分に自陣から植田直通が大きくボールを出すと、これが攻勢になっていた仙台の最終ラインの裏を突くことにつながった。ボールを受けた赤崎は「確実に決めるために、少し運んでから打った」という判断のもと、鎌田次郎を振り切り、桜井繁の出てくるタイミングを逃さず、確実に決勝点を奪い取った。
その後の仙台は山本大貴と二見宏志の若手二人の投入に同点ゴール奪取を託すが、鹿島を崩せずに終了。悪くはない内容だっただけに、「本当に悔しい」(渡邉監督)敗戦だった。
試合後のトニーニョセレーゾ監督は、会見の中で再三に渡り、20歳前後の若い選手がチームに多いこと、そして彼らの集中力を持続させるために自らのコーチングが必要であったことを強調した。そしてその一方で、「こうした若い選手たちが、年末にはチームを引っ張る存在になるのです」と胸を張った。世代交代が進められる中でも、試合巧者のカラーは受け継がれていることが、あらためて証明された試合だった。
一方、4月9日に就任したばかりの渡邉監督のもとでチームの立て直しをはかっている仙台は、まだチームの形を思い出している状態といえる。今後に結果を出すためには、このような敗戦を糧にして、勝負強さも身につけなければならない。
以上
2014.04.17 Reported by 板垣晴朗
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