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【J2日記】松本:必ずどこかで会える(14.04.16)

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京都・バドゥ監督

臼井弘貴 松本U−18コーチ

バルディエール・バドゥ・ビエイラの名前を聞いて、思わずにやりとしてしまう松本サポーターもいるはずだ。

今週末、松本はアルウィンで京都を迎え撃つ。一昨季、昨季と2季連続で3位となった強豪クラブ。新加入の大黒将志など攻守に人材は充実しており、厳しい一戦となることは間違いない。
その京都が今季から新たな指揮官として招へいしたのが先述のバドゥ監督だ。これまで主にイラン代表や中東のクラブを率い、昨季まではヨルダンのクラブで指揮を執っていたが、ドイツ体育大学ケルンでの同窓に当たる祖母井秀隆GMとの縁もあって新天地に京都を選んだという。
このバドゥ監督だが、2006年途中〜09年の3年半の間、AC長野パルセイロの監督を務めていた。当然、松本とも幾度も対戦経験がある。そのため昨年末に就任の一報が流れた際には、松本サポーターの間では「本当に京都に来るのか」と話題になった。そして、それは現実となったのである。バドゥ、敵将として再びアルウィンに見参――。

その京都戦を前に、バドゥ監督をよく知る人物から話を聞いた。現在、松本でU−18コーチを務める臼井弘貴さんだ。
1980年4月6日生まれ、松商学園高校を卒業後、日本大学に進学。関東大学リーグ2部所属だった当時の日大で台頭し、4年後期時にはリーグ2位となる10得点を挙げる活躍。ベストイレブンにも選出されたアタッカーだった。ちなみにそのベストイレブンだが、中村憲剛選手(川崎F)をはじめとして、今なお現役の栗澤僚一選手(柏)・阿部吉朗選手(磐田)、東京Vなどでプレーした戸川健太選手(鳥取)ら顔ぶれは多士済々だ。
「僕の1つ上の79年組はいわゆる黄金世代。小野伸二選手(ウェスタン・シドニー)や高原直泰選手(相模原)などが高校からプロに進み、いきなり活躍したこともあって、80年生まれの選手は大学に進学するケースが多かったんです」

日大での活躍が認められ、あるクラブから選手としてのオファーがあった。しかし、あえて指導者への道を選択した。「当時、日大で指導されていた植木繁晴さん(現・上武大学サッカー部監督)と進路を相談して、『指導者として食っていった方がいい』と」。卒業後もそのまま日大に残り、2年コーチを務めた後に帰郷。長野エルザSC(当時)で育成組織(アカデミー)のコーチ職にあった。バドゥ監督との関係はそこから始まる。

きっかけは“言葉”だった。「当時のチームにはノグチピント・エリキソン選手(柏・福岡などでプレー)がいて、彼とはポルトガル語で会話をしていましたが、バドゥ監督は普段はもっぱら英語を使っていました。あの人は7か国語くらい話せるんです」。当初は違う人物が通訳を務めていたがサッカーにそれほど詳しくなかった。『クロスを上げろ!』を交差点(Cross)と訳し、『ラインを高く!(コンパクトにしよう)』もそのまま線と直訳してしまった。そのため、「サッカーに詳しい人材を通訳に」というバドゥ監督からのリクエストがあり、白羽の矢が立ったのが臼井さんだった。もともと「これからの時代は英語が話せないといけない」と感じていて、個人的に英語の勉強を重ねてきたからだ。しかし、「通訳ができるほどのレベルではなかったので、それから猛勉強です(苦笑)。昼はコーチ兼通訳を務め、夜は英会話学校に通いました」。この努力は実を結び、指揮官からの信頼を勝ち得た。こうして2009年に再びアカデミーのコーチに戻るまでの2年半、バドゥ監督の傍らにあった。

バドゥ監督の指導スタイルは、選手と向き合うことだったという。「技術や戦術は自分で学び取っていくものという考えから、トレーニングのメニュー自体はオーソドックスなものでした。緻密ではなかったけど、自分のカーオーディオから大音量で音楽を流してリラックスさせてトレーニングさせたり、誕生日にはプレゼントを贈ったりと選手への愛情は深かったですね」。また「毎日サッカーを食べなさい」とも日頃から口にしていた。つまり、ヨーロッパのサッカーなどを観ることでサプライズやイマジネーションなどを“咀嚼して吸収しろ”ということだろう。
白井コーチは、新たな縁があり2012年から松本のアカデミーで指導しているが、バドゥ監督の学ぶ姿勢や人間性を「勉強になったし、今も生きています。自分も選手と最後まで向き合っていこうと思います」と心に刻んでいる。

口癖は「グッドラック(幸運を)」。誰にでも――それがライバルチームのサポーターであったとしても――幸運を祈る温厚な人だった。「北信越リーグ時代の“信州ダービー”、マッチミーティングの直前でどこかに行ってしまった。急いで探したら、松本のサポーターと一緒に煙草を吸っていた(苦笑)」。それもまたバドゥ監督のパーソナリティーを表すエピソードだろう。
家族ぐるみでの付き合いがあったバドゥ監督との関係は今なお続いている。日本を離れてからは中東に活躍の場を戻したために会う機会こそ失われたが、メールでの連絡は密に取っていた。昨年末に京都監督就任の噂を耳にした時にもメールで問うと、「イエスと返ってきました。実は3日前にも『誕生日おめでとう』とメールが来たんです(笑)」(取材日は4月9日)。

そして、この日を迎える。幾年月を経て積もる話もあるだろうが、京都戦当日はU−18の公式戦がある関係でアルウィンに行けるかはまだわからないという。しかし、それもプロフェッショナルの宿命と心得ている。「この仕事を続けている限りは、必ずいつかどこかで会えますから」――。それはまさしく、ボールを通じて思いを重ね合ってきた人たちだけに与えられた特権なのだろう。

以上

2014.04.16 Reported by 多岐太宿
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