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【J1:第7節 広島 vs F東京】レポート:入念に準備された広島対策を打破したセットプレーの脅威(14.04.13)

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戦術大国・イタリアからやってきた若き指揮官が「戦術家」であることは、考えてみれば自明である。
マッシモ フィッカデンティ監督の選択は「いつもどおり」ではなかった。まず前線はターゲットとなる平山相太を置き、そのパートナーに武藤嘉紀、トップ下に河野広貴という布陣。彼らは守備時には広島の最終ラインに対してプレスをかける一方で、ステイする時は2トップが横並びになって最初の「壁」を作り、中盤は河野と三田啓貴、米本拓司が監視して数的優位を作った上で、最終ラインは5人。高橋秀人が最終ラインの中央に入って5バックを形成し、ラインの幅を広くしてサイドに蓋をした。

この形のキーマンとなった高橋の動きを軸に、カルチョの国の若き名将は細かな戦術を事前に準備していた。ラインの上げ下げは繊細かつ頻繁。前線のプレッシングにしても、行くべきところ・ステイするところの意思統一は明確。広島の縦パスからの佐藤寿人のフリックも、カバーリングに長けた高橋が最終ラインにいることで機能不全に陥らせた。誰か一人でもさぼれば、この戦術は破綻するものだが、そういう崩れ方はほとんどなかった。

ただ、F東京の対策に対して、広島側にそれほどの慌てた感じは見受けられなかった。たとえば3分、深い位置からのポゼッションから石原直樹が右サイドに振り、相手を広げた上で高萩洋次郎がボールを持ち出し、早いタイミングでクロスを入れる。佐藤とのタイミングがほんの少しずれてはいたが、J1通算得点数でキングカズ(三浦知良)と並ぶゴールを予感させたシーンだった。
ほかにも水本裕貴が上がって石原にスルーパスを出した場面。塩谷司がドリブルで一気に持ち上がった時。千葉和彦がミキッチに展開した勢いでペナルティーエリアに侵入し、石原のクロスに詰めようとしたビッグチャンス。後ろから広島が数的優位を作ろうとした時の対応は、さすがに難しい。

そういう場面を創り出すためには、広島がボールを保持して主導権を握ることが大前提だ。ところが、そのボール保持が少しでも甘くなると、F東京のカウンターの切っ先は鋭い。9分、佐藤の落としを奪われた速攻から放たれた平山のループがバーを直撃したシーンなどは典型だ。
さらに前半30分過ぎ以降は、F東京の縦に速い攻撃に広島の対応が後手を踏み始めた。
「高橋選手や森重真人選手の持ち出しに対し、誰がプレスに行くのか、そこがあいまいになってしまった」
千葉と林卓人が、異口同音に苦戦の要因を語る。高橋や森重真人が深い位置から展開したり、ボールを前に運びながら攻撃に厚みをもたらしたことによって「広島の守備がはまらなくなった」(林)。
38分、高橋の縦パスから米本が前に出したボールを平山がスルーし、河野がペナルティーボックス内でフリーになった。森保一監督が「やられた」と覚悟を決めたシーンである。
だが、林は冷静だった。「相手は左利き。左に持ち出したことで、シュートへの角度も狭くなった」と瞬間に分析。万全のポジションを取った守護神のビッグセーブ。フワリと浮いたボールに合わせた平山のシュートも水本がゴールライン上で跳ね返し、広島は絶体絶命のピンチを乗り越えた。

後半、広島は高橋への対応を修正した。一方で、F東京も広島も共に運動量が前半と比べて少なくなったことで、試合はこう着状態に陥った。
F東京の守備は、広島の出方に細かな対応が必要であるが故に「考える」部分に負担がかかり、それが60分以降の減速に直結。広島側は代表合宿に呼ばれた選手たちの身体が重く、いつものような躍動感がなくなった。前半のアグレッシブでスリリングな内容から、後半は我慢比べの様相となった。

こういう試合を動かすのがセットプレー。それがサッカーの特性なのだが、この試合では太田宏介というキッカーを持っているF東京ではなく、広島が優位に立っていた。前半から水本や青山、後半も佐藤や水本が決定機を迎え、青赤軍団をヒヤリとさせた。
「練習は嘘をつかない」 
高萩は、キッカーを任されるようになった2010年以降、繰り返し居残りでプレースキックの練習を続けていた。その成果が今年、結果で現れるようになる。ACLでもFKで野津田岳人のゴールの起点となり、徳島戦でもショートコーナーから石原のヘッドを引き出した。
「洋次郎のボールの精度はいい。あとは、中で合わせる選手の問題」(千葉)。80分、高萩が蹴る5本目のCKは、「嗅覚を発揮した」という千葉のニアへの飛び込みにピタリ。エディオンスタジアム広島を熱狂の渦にたたき込んだ公式戦11点目のセットプレーゴールは、F東京の対策を力づくでたたきつぶし、史上初のカープ・サンフレッチェ同時首位への祝砲となった。

フィッカデンティ監督の広島対策は、攻守両面でおもしろかった。だが、そこで慌てず騒がず、落ち着き払って勝点を奪う底力。対戦相手が対策を絞り出せば出すほど、泰然自若とした広島の柔軟さが際立つ。F東京にしても、「やるべきことは機能した」という思いはあるだろうし、確かに広島は苦戦した。だが、それでも勝てる柔らかな強さの証明が、7試合で積み重ねた勝点16なのである。
 
以上

2014.04.13 Reported by 中野和也
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