「立ち上がりに失点して追いかける状況での展開になりましたが、選手が気持ちを切らさず我々がやろうとしていることを試合開始から試合終了まで全うしてくれた結果、逆転勝利につなげられたと思います」
広島の森保一監督のこの言葉が、今回の試合の内実を物語っている。名古屋が早い時間に先制したにも関わらず、終わってみれば2−5の大敗を喫した理由。それはあえて身も蓋もない言い方をすれば、チームの完成度と、経験の差だったといえるからだ。「やろうとしていることを全う」すれば勝利がついてくる連覇王者に、真っ向から立ち向かうには、今の名古屋はまだ未熟だった。
前節で川崎Fに完敗とも言える敗戦を喫した名古屋は、週半ばのヤマザキナビスコカップでの若手の活躍を受け、ここまでほぼ固定していたメンバーに手を入れてきていた。磯村亮太とダニルソンを起用してきたボランチには、磯村の相棒に田口泰士を起用。奇しくも試合前に小川佳純が言っていたように、ポゼッションのための人選だったと指揮官は明かしている。さらに枝村匠馬を使い続けてきた右サイドハーフには、水曜日のヤマザキナビスコカップ・新潟戦で1得点1アシストを決めた下部組織出身の新人・矢田旭を起用。右サイドバックを務める刀根亮輔があまり攻撃に持ち味のある選手ではないため、このポジションでは枝村よりも縦に推進力のある矢田を選んだという意図は見て取れた。控えには高卒新人の小屋松知哉がリーグ戦で初のベンチ入りするなど、これまでにも増してフレッシュな面々で臨んだ一戦となった。対する広島のメンバーは盤石の11人。追加招集の石原直樹を含め、青山敏弘、水本裕貴、高萩洋次郎、そして塩谷司と、リーグ最多の日本代表候補5人が名を連ねるスタメンは名実ともに王者の風格が漂う。野津田岳人ら若手を中心とした控えメンバーも進境著しいチーム状況は充実の一言だ。
動いてきた名古屋と、動かなかった広島。対照的なメンバーが対峙した試合は、思惑通りにまず名古屋が先制パンチを見舞う。6分、相手のバックパスに乗じてプレスのラインを上げた名古屋はそのままGKまでのハイプレスを敢行。広島のGK林卓人がトラップした瞬間を狙ってケネディが猛ダッシュすると、カットしたボールはポストに当たってゴールマウスに飛び込んだ。今季はコンディションの良さが目立つ長身FWの“守備での貢献”で、名古屋は最高のスタートを切ったかに思われた。
だが、想像以上に広島の牙城は高かった。「時間はたくさんあったので、あそこでバタバタしてさらに失点というのが良くない。自分たちでしっかりボールを保持し続けることで相手は間延びする。そこでロングボールを入れていっちゃうと、逆に相手にチャンスを与えることになるし、ボールを奪われる回数が増えてくる」(高萩)と、冷静を失うことなく試合の主導権を回復していく。失点からわずか13分後に同点ゴールが生まれたのは、ある意味では当然だったのかもしれない。先制点を活かした展開に持ち込みたかった名古屋はミスを連発し、守備に負担のかかる形でのボールロストを頻発。その隙を突いた高萩のクロスを佐藤がきっちり流し込んだ。「やることをやっただけですね。あの形で得点を取られて、その後も卓人さんに戻した時に、また同じようなプレーをした。あれが広島だと思うし、そのブレないところがあるから、この強さがある」と青山は話したが、王者の盤石さを感じる同点劇だった。
そして後半は、さらに広島のワンサイドゲームとなった。その最大の原因が前述した名古屋のミスの多さだったのは残念なところだ。単純なパスミスや連係ミス、とにかくこの日の名古屋の選手たちの動きは噛み合わなかった。しかもチーム全体が攻撃に出ようとする瞬間にそれが起これば、自ずと数的不利のカウンターを受ける展開も増えるというもの。それでも何とか水際で食い止めていた名古屋だったが、56分の失点でついに防波堤が決壊した。口火を切ったのは塩谷の得点だ。インターセプトから右サイドに展開し、ミキッチからのリターンパスを受け取ると、まずはブロックに飛び込んできた2選手を切り返しでかわし、さらにDF2人のブロックとGKの手をすり抜ける鋭い左足シュートを叩き込んだ。塩谷はこれでリーグ6戦4得点。チームメイトの佐藤、そしてケネディと並んで堂々の得点ランク4位(実質2位)という規格外の決定力を見せつけている。
続く63分にはミキッチのサイド突破から石原が放ったミドルシュートがDFのハンドの判定を受け、これを佐藤が確実に決めて3点目。その2分後には今度は左サイドの柏好文の突破から石原が技ありのワンタッチゴールで4点目。名古屋も85分に、途中出場の松田力が得たPKをケネディが決めて1点を返したが、その直後にカウンターから野津田岳人のゴールを許し、万事休す。名古屋は新体制下で最多の5失点を喰らう大敗で、王者の強さを見せつけられた。
2−5の差を生んだのは何か。それは最初にも書いたように、チームの完成度の差に答えを求めるのが一番明快だろう。せっかくの先制点を有効に使えず、また単純なミスの連鎖を止められないのは経験の少ないチームの特徴だ。例えば広島も前半は左サイドを有効に使えずにいた。柏へのパス、フィードはどれも長すぎたり、高すぎたりしてタッチラインを割ることが多かったが、後半は意識を切り替えることで正確にパスをつなぐようになり、石原の得点を呼び込んだ。名古屋にも経験豊富な選手はいたが、攻撃の起点になる中盤とサイドは若い選手が務めており、悪循環をなかなか断ち切れなかった。リズムを変えるべく投入された小屋松が9分間のプレーで負傷退場してしまったことは不運としか言いようがないが、ピッチ内での問題解決能力が、名古屋にはまだ十分に備わっていなかったことの方が大きかった。西野朗監督もそれをわかっていたからこそ、強引なパワープレーなどは指示せず、「変えるポジションやシステムはたくさんあったが、このメンバーでどう修正するのか、どういうスピリットを持って戦うのかを見ようと思った」と、本来の戦い方の中での解決を求めたのだろう。強行策で得た局面打開の方法など、その場しのぎに過ぎない。ならばせめて、“実地訓練”を積むべきだ。
これでリーグ戦連敗となった名古屋は、中5日で今度は浦和をホームに迎える。周知のとおり、広島のサッカーの礎を作ったペトロヴィッチ監督率いるチームであり、戦い方も酷似しているチームだ。同節の仙台戦では鋭いカウンターで得点を重ねており、名古屋にとっては学習能力が試される一戦といっていい。田中マルクス闘莉王は「日々勉強だと思って、気持ちを切り替えるしかない」と言った。大敗の後の反発力は前体制時代からの名古屋の持ち味だ。5日後の同じピッチで彼らが見せるサッカーに、期待と願いが膨らむばかりだ。
以上
2014.04.07 Reported by 今井雄一朗
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