立ち上がりから松本がゲームの主導権を握っていた。「前半は非常にリズム的には良かった」と反町康治監督も振り返ったように、アウェイチームがアグレッシブさを発揮しながら時計の針を進めていた印象が強い。

「積極的にプレスにいっても、ロングボールでかわされてしまった」とは札幌の守備的ＭＦ宮澤裕樹。松本はマイボールになると、船山貴之、塩沢勝吾の２トップだけでなく中盤の選手も積極的に最前線へと張り出し、そこに向けて後方からダイナミックにボールをぶつけていく。宮澤は「フラストレーションが溜まる展開だった」とも続けた。

それでいて松本は、守備に回った際には３人のＤＦだけでなく田中隼磨、岩沼俊介という左右ウイングも加わって５バックを形成するどころか、中盤の底でワイパー役を担う岩間雄大もそこに吸収され、６人でボックス付近で壁を作る。ホームの札幌は自分達のスタイルであるポゼッションスタイルを貫くべく、足下でボールを動かしていくのだが、いかんせん松本の帰陣が早く、そこで作られる壁も分厚いため効果的なチャンスを作らせてもらえない。シンプルかつダイナミックな攻めを見せる松本と、テクニカルに仕掛けていく札幌という対象的な攻撃スタイルの戦いではあったが、前半についていえば明らかに松本のメリハリのあるダイナミックさが札幌を押し込んでいた。

だが、ここでひとつの出来事が起こる。前半終了間際、敵陣深くでのプレーで札幌の得点源である内村圭宏が右太腿を痛めて退くと、長身ＦＷ都倉賢が代わって前線に投入される。そしてこれが試合のターニングポイントとなる。

この選手交代について相手の反町監督はこう言及した。「内村はスペースランナー。都倉は単純に真ん中で受けて、はたく。まったく対照的な選手」としたうえで「（内村が退いたことで）カウンターのパワーは少し無くなったけど、中央で起点という意味では（都倉は）嫌な存在であったことは間違いない」。

そう、帰陣の早い手厚い守備ブロックを敷くことで、ＤＦラインの背後を狙う内村の特徴を封じ、ゲームの主導権をも握っていた松本。しかし、予期せぬアクシデントで札幌がメンバー交代をすると、試合の流れに若干の変化が生まれてきたのである。

「細かくパスをつなぎながら相手の背後を狙いたかったが、それが難しくなってきたので、前半の終わりごろからは『シンプルに縦に運んでいこう』とみんなで声を掛け合った」とも前出の宮澤は振り返る。前半はパス回しで攻撃を仕掛けながらも裏を突けず、ボールを失っては松本のシンプルかつダイナミックなカウンターの圧力に押されていた札幌だったが、シンプルに縦に蹴るプレーを増やし、同時にそのタイミングでフィジカルコンタクトに強さを持つ都倉が入ったことでボールが中央に集まり、攻撃に厚みがつき、松本のパワーを押し返すことができるようになってきたのである。

そうして縦への勢いを得た札幌は６０分、砂川誠が前線に送ったロビングの対応を松本守備陣が誤ると、都倉が体を入れてボールを奪い、そこから振り返って豪快にシュートを叩き込み、これが決勝点となった。

あらためてサッカーというのは先が読めないスポーツだと感じる。札幌にとって、得点源である絶対的エースの内村を負傷で失ったことはあまりにも痛かった。しかしながら、そのアクシデントを受けて急遽投入された都倉が活躍し、試合の流れを変えるにとどまらず、勝負をも決めてしまう。内村の負傷は札幌にとってはあまりにも痛かったが、一方でその出来事がこの試合においては勝負のアヤとなったわけである。内村の出来云々ではなく、奇しくも都倉のプレースタイルとストロングポイントがこの試合のシチュエーションに見事にマッチしたということだ。「人間万事塞翁が馬」ではないが、どんな出来事が試合の結末を左右するかはわからない。

一方、敗れた松本であるが、序盤は明らかにパワーで押し込んでいただけに、痛い敗戦と言えるのかもしれない。惜しむらくは、札幌が都倉を投入してパワーで押し返してきた時間帯に、そのままそれを受けてしまったことか。左右に幅広くパスを動かしてボールを握り、試合のリズムに変化をつけていれば、札幌の押し返しをうまく“いなす”ことができていたかもしれない。この辺りは今後の課題と言えるだろう。

あらためて試合の全体を振り返っていくと、テクニカルにパスをつなごうとする札幌を、アウェイの松本が勢いよく押し込み、その後は札幌が逆に押し返すという、表情豊かな見応えのある一戦だった。

以上

2014.04.06 Reported by 斉藤宏則