三歩進んで、二歩下がる。3勝2敗という数字は脇に置きつつ、名古屋のチーム状態としてしっくりくる表現ではないだろうか。大宮、柏、神戸と3連勝ののち、川崎Fに完敗。負傷者などの影響を差し引いても、チームとしての完成度、フレキシビリティーの差を見せつけられた敗戦からは、やはり名古屋はこれからのチームなのだということを痛感させられた。方向性は間違っていないが、圧倒的に練度と経験が足りない。それは試合中の対応力に反映され、強豪と呼ばれるチームに対するディスアドバンテージへとつながっていく。レベルが上がれば上がるほど、勝敗を分けるのはディテールの差になってくるからだ。そしてことディテールという点において現在のリーグで最も突き詰められたチームが、今節の相手・広島である。
名古屋の指揮官もその点を警戒する。個人としては広島に対して「良いイメージしかない」としながらも、次のように語る。
「ここ2年の彼らは成長している。今はどのチームも追いかけている状態で、チーム力はしっかり分析する必要がある。変幻自在だよね。ポゼッションもカウンターも併用できるし、守備の強さも感じる。ポジションも流動的で、DFの得点も広島では珍しくない。このチームに対応しようとすると、1つの対応のためにこちらは2つを変えなければいけなくなったりするから、こちらのプラスをマイナスが追い越していってしまう。だからあまり対応しすぎない上で、戦い方を考えていくべき。相手の良さを消そうとして、自分の良さを消していることもある」
今までの名古屋は相手に左右されない戦い方を強調してきたが、現在は違う。相手の分析と対応策はしっかり練ったうえで、自分たちのスタイルを貫くことを考える。広島に対しては各チーム様々な対策を練ってくるが、この名将が発展途上のチームとしてできることをどのように判断するか、当日のピッチ上が楽しみだ。
今節の名古屋といえば、懸案事項となっていたのがDFラインの構成だったが、それはひとまず解決の道が示された。特別指定選手としては異例の開幕スタメンに抜擢され、以降もリーグ5試合にフル出場していた大武峻は4月より福岡大学に戻る予定だったが、「より高いレベルでのプレーを」という本人の希望を大学側が汲み取り、ひとまず4月上旬は名古屋でのプレーを継続することに。牟田雄祐、田鍋陵太の2名が負傷中であり、早くも選手層の薄さを露呈しかかっていたチームにとって、リーグ3連勝にも貢献したセンターバックの帰還は何よりの朗報だ。これによりセンターは田中マルクス闘莉王と大武にコンビを組ませ、右サイドバックは刀根亮輔に任せる形で最終ラインは落ち着きそうだ。
広島については今さら説明するまでもないかもしれない。3-6-1と5-4-1の間を行き来する特殊なフォーメーションを操り、前線の佐藤寿人と石原直樹、高萩洋次郎あるいは野津田岳人らの攻撃力を活かしたソリッドなサッカーが最大の持ち味だ。後方からの鋭利な縦パスで攻撃のスイッチを入れる千葉和彦、青山敏弘らのゲームビジョンも確かで、両ワイドを務めるミキッチ、柏好文らの運動量も注意点の一つ。そして現在の要注意人物といえば、DFながらリーグ5試合ですでに3得点を挙げ、AFCチャンピオンズリーグでも2得点を挙げている塩谷司だ。リーグ屈指の強力なフィジカルを活かした守備もさることながら、今季はさらにゴール前に絡む動きが際立つ。またFKキッカーとしても非凡なところを見せており、パワーを活かした豪快な一撃から、スピードとコントロールを意識した技ありの一発まで、その天衣無縫なプレーぶりでついに日本代表候補にも選ばれた。攻撃時にはサイドバック・ハーフのように前線へ進出してくる彼への対応は、名古屋にとって重要課題の一つとなるだろう。
ドローだった昨季の瑞穂での対戦を振り返ると、広島はアウェイではことさらにリスクを冒さないイメージがどうしても浮かんでしまう。しかしその傾向が極端に強かった昨季に比べ、今季はもう少し前に出てきている印象ではある。それでも打ち合いを挑んでくるようなチームではないため、名古屋としてはある程度ボールを持てる中での局面打開を考える必要が出てくる。そこでヒントとなるのは、ボランチの人選だ。ここまでの名古屋のメンバー構成を見ると、リーグ戦では磯村亮太&ダニルソンが、ヤマザキナビスコカップでは望月嶺臣&田口泰士のコンビがセットで起用されている。前者は守備力と安定感を期待できるが、後者の方がテクニックと構成力は一枚上手。このセクションについては、小川佳純の言葉が興味深い。
「僕はイソ(磯村)とダニは守備的なコンビと思っています。そして泰士と嶺臣はポゼッションするのに向いている。だからチームはリーグとナビスコカップでは違うスタイルでやっている感じでもあります。ボランチの人選には西野監督の考えが出ると思いますね。広島は引いて守ってくるだろうし、西野監督の理想は支配して、チャンスを作り、得点すること。その理想と現実をどう使い分けるか」
小川の言う現実とは守備だけではない。ケネディに代表される高さの使い方もその一つだ。広島のDFラインはそれほど上背が高いわけではなく、185cmオーバーがゴロゴロいる名古屋にとってはそこがアドバンテージにもなる。シンプルなサイド攻撃はあまり見せない今季だが、そういった単純な攻撃でまずは主導権を握ることでも優位は得られる。先制点を奪えれば、相手も自陣に引きこもることはできなくなり、その結果スペースができれば自分たちの攻撃も活性化するのは明白。その意味では広島にとっても先制点は喉から手が出るほど欲しいものとなる。そこで広島が前に出てくるか、それとも自陣からじっと好機を見出す戦いを選択するのか。観客してはダイナミックな展開が見たいものだが、現実やいかに。
順位を争う上でもチーム作りの観点からしても連敗は避けたい名古屋だが、道のりは険しい。だが、行く道は見えている。あくまで攻撃を念頭に置くサッカー、攻撃のために守備をし、得点を狙うスタイルだ。
「一方的に攻められても、自分たちが攻める意識がある中での守備ならば良い。守ろうと思えば守れるかもしれない。しかし何のための守備なのか。守備はコレクティブにやらなければ、攻撃権を得られない。攻撃を考えた上で、守備の負担を軽減していくことを、全員で考えていきます」(西野監督)
結論、名古屋は前に出る。連覇王者が相手だろうと、前に出て勝ちに行く。
以上
2014.04.05 Reported by 今井雄一朗
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