強かった。いや、強すぎた。栃木にも敗因はあったが、それ以上に磐田の強さは異次元だった。これほどまでに手も足も出なかった試合は、記憶のライブラリーを探ってもすぐには出てこない。それほど、磐田に圧倒されてしまったのだ。3位・栃木が5位・磐田をホームで迎え撃った一戦は、0―2のスコア以上に差があり、「内容という意味では完敗だった」(阪倉裕二監督)。彼我の実力差をまざまざと見せつけられ、栃木は今季初黒星を喫し、ついに開幕からの無敗が途絶えた。
「前半は押し込まれて耐えるシーンが多かった」(廣瀬浩二)
序盤から磐田が一気呵成に栃木を攻め立てた。フェルジナンドを1ボランチに据え、その前に松井大輔と山田大記を配した、4―1―4―1がハマった。松井と山田に前田遼一、ポポ、山崎亮平が流動的に絡み、その動きに栃木は幻惑されてしまう。マークを全く掴みきれず、後手に回り続ける。何度もピンチを招いては、阪倉監督が「うちの生命線」と語る、体を張った守備で乗り切った。いつか磐田は攻め疲れるだろう。頭の片隅には、そんな思いがあったのかもしれない。しかし、磐田の攻撃が止むことはなかった。降り続いた雨のように。
36分、均衡が破れる。松井大輔がPKから先制点を挙げた。駒野友一の縦パスを松井がキープし、エレガントなヒールパスに山田が反応。一歩先に出たことで、マークについていた小野寺達也の焦りを誘った。栃木は今季初めて相手に先手を奪われた。それも、警戒していたはずの右サイドを起点にした攻撃から。
後半に入っても、攻撃的な姿勢を崩さなかった磐田がイニシアチブを握った。ただし、付け入る隙はあった。GK藤ヶ谷陽介の緩慢なミスキックは、詰めていた廣瀬の足元へ。またとないビックチャンスが向こうから転がって来た。ところが、廣瀬は「冷静に、落ち着いて脇の下に流し込む」はずだったが、ミスを帳消しにしようと伸ばしたGK藤ヶ谷の足に阻まれてしまう。
千載一遇の絶好機を逸したことで、形勢を逆転できないまま磐田のリズムで試合は進んで行った。アグレッシブさも、迫力もなかった栃木の攻撃とは対照的に、磐田は途中交代の金園英学がダイナミックなカウンターからCKを獲得。これを確実に活かし、72分に技ありの反転シュートで加点した。2点目を奪われた時点で、栃木の命運は尽きてしまった。
「後半の最初は相手ペースで、セカンドも拾えなかった。でも、そこをゼロに抑えたことで、相手にダメージを与えられた」
そう勝因を語ったのは駒野。前節の福岡戦(3―3)は、2点のリードを奪った後に気が緩み、劣勢に回ってドローに持ち込まれた。だが、今節は「勝っている状態では非常に上手くコントロールができた。行くところと、行かないところを上手くやれていた」とシャムスカ監督。手綱を緩めることなく、やや劣勢に回っても落ち着いた対応で凌ぎ切り、守備から2点目を呼び込んだ。前節の課題をクリアにし、全く栃木にサッカーをさせなかった磐田。新布陣の4―1―4―1が機能し、今季初の零封も飾り、少なくない収穫を得たと言える。
「3月(の5試合)はプラスでしかない」
何もできないまま敗戦を受け入れる形となった栃木だが、GK鈴木智幸が言うように、敗戦も発展途上のチームにとっては素晴らしい教材になる。磐田戦の問題点は、前後の意思疎通が図れなかったことにある。廣瀬が言う。
「後ろがボールを持った時に、シンプルに前に入れると思って準備して動いたけど、後ろは繋ごうとした。そこで受けに行っても、相手を背負っているし、相手としてはそこが潰し所になる。予想どおりのボールがくれば、相手に強さを出されてしまう」
開幕からの4試合、いいサッカーができたのは、攻守両面で同時性、連動性があったからだ。それが欠けては、強豪相手に金星を手繰れるはずがない。戦い方がシンクロしなかった原因を追究し、分析し、次節の讃岐戦(4/5@丸亀)で同じことを繰り返すことなく、下位に取りこぼす悪癖の原因となることは食い止めたい。負け方が負け方だけに開き直って臨めれば、それほど心配ないとは思うのだが。
以上
2014.03.31 Reported by 大塚秀毅
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