前半を終えた時点で、最終的にこの試合で2点も差が開くと予想できた人は少なかったに違いない。それほど前半は、首位攻防戦らしい締まったゲーム展開が続いていた。お互いに守備ラインを高く上げ、センターサークルを中心にコンパクトなゾーンの中で、20人のフィールドプレーヤーがひしめき合うハイレベルな攻防に、文字通り手に汗を握る。
その中でも卓越した技術でポゼッションを試みるほど、個の能力の高い選手が揃う両チームならではの戦いは、パスやトラップのミスが余計に浮き彫りになる。そして、お互いそこを見逃さない。ボールを奪った刹那、鋭利なカウンターを浴びせる。そんなスリリングな応酬は、見応えがあった。
均衡を破ったのは横浜FM。前節の甲府戦では前半はシュート、CKともに「0本」だったが、この日はその反省を生かし立ち上がりからアグレッシブに仕掛けて42分に4本目のCKを獲得。それを中村俊輔が蹴り、正確無比なボールが栗原勇蔵の迫力あるジャンプヘッドとマッチし、ゴールネットを突き刺す。
この日、中村は下がらずトップ下の位置を張り続け、サイドに流れてドリブルを仕掛けるシーンも何度もあった。左サイドバック・下平匠は、時には自らゴール前に侵入し受け手になるほど、積極果敢。1トップの伊藤翔も鹿島DF青木剛とのバトルに屈せず、17分には巧みなボールキープから惜しい右足シュートを放つなど「前へ」の姿勢を体現した。だが、それらがオーバーペースとなって、その反動が結果的に後半の失速を誘発してしまう…。
54分、柴崎岳→遠藤康→伊東幸敏→土居聖真とダイレクトで3本繋がれた速いパスワークに、横浜FMの中盤は付いていけず翻弄されて同点に。土居の軽やかな突破からのゴールは鮮やかだったが、この際にダヴィが開いて中澤佑二を引きつけ、土居への対応を遅らせる黒子になったのも見逃せない。
終盤には“柴崎劇場”が開演。まず80分に野沢拓也のボレー弾をアシスト。続く87分にはFWばりのフェイクを入れながらのランニングで、栗原と中澤の間をうまくすり抜け、カイオからのパスをネットへ流し込んだ。鹿島ゴール裏は大フィーバーとなり、トニーニョ セレーゾ監督も大興奮。メインスタンドの鹿島サポーターに向かって雄叫びを上げながら、力強く2度ガッツポーズを決めた。
だが、大量得点にも笑顔一つ見せなかったのが小笠原満男。「相手が崩れただけ。(相手の守備が)整っているところを崩したわけではない」とやや憮然と答える。「若さ」ばかりが強調される今季の鹿島だが、伝統継承のために引き締める小笠原の存在も、首位を走る要因ではなかろうか。
横浜FMにとっては「らしくない負け方」(中町公祐)だった。2失点目の場面ではボールウォッチャーとなり、セカンドボールを拾った柴崎に誰も詰め寄ることができなかった。3失点目もカイオのドリブルに対し、途中出場の奈良輪雄太が内側に絞ってマークに付くも周りの選手が連動せず、そのまま侵入を許し、柴崎へのパスをあっさり通された。足が止まったのは確かだが、集中力の欠如も気になるところ。前節の対甲府から狂い始めた歯車を元に戻すには、まずは本来のスタイル『堅守』の再築が不可欠だ。
以上
2014.03.30 Reported by 小林智明(インサイド)
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