客観的に戦力や経験値のトータルで考えれば、広島は徳島を上回る。それは担当記者のひいき目ではなく、J1を連覇したチームとJ1初昇格のチームとでは、差があって当然だ。まして、徳島はここまでのリーグ戦で4戦全敗得点0と結果を出せていないし、公式戦の戦績も3戦3勝(2008年J2)と相性もいい。だが、広島の落とし穴は、まさにそこにある。
たとえば昨年。優勝した広島は最下位の大分に対して1勝1分。アウェイでの戦いでは先制しても追いつかれ、あわや勝ち越しのチャンスまで与えてしまい、引き分けるのが精一杯。J1復帰初年度だった甲府に対しても、ホームでは逆転勝ちに成功したものの、アウェイではシュート6本に抑え込まれての完敗を喫している。
今回の徳島戦は、ホームのサポーターの後押しがあるだけ集中しやすい。だが、もし広島に「勝てる」などという安易な気持ちが巣くっているとするならば、それは敗戦への第一歩につながるだろう。
それに徳島には、サンフレッチェ広島というクラブを知り尽くしている人材が何人もいる。広島ユース出身の大崎淳矢は2年前まで広島でプレーし、特に2012年の前半は一時、シャドーのポジションを確保して初優勝にも貢献した。橋内優也は2009年途中まで広島に在籍し、ヤマザキナビスコカップの対大分戦ではプロ初得点もゲット。豊富な運動量とスピードでストッパーだけでなくアウトサイドでも存在感を発揮していた。さらに宮崎光平は2001年まで広島でプレー。3年間で3試合出場とチャンスはほとんどなかったが、移籍した福岡で台頭。山形時代の2011年には広島相手にゴールも決めるなど、結果も出している。
アカデミーにも行友亮二U−18監督や上野秀章GKコーチなど広島に在籍した経験を持つ指導者がいるが、なんといっても小林伸二監督の存在である。サンフレッチェの前身であるマツダではFWとして活躍。1995年には広島ユース初代監督としてチームをJユースカップ初優勝に導いた。森保一監督や横内昭展コーチの先輩であり、彼らの発想法も熟知。2008年のJ2で「1トップ2シャドー+可変フォーメーション」を発想し、9試合で8勝1分と快進撃を続けていた広島を止めたのも、小林監督率いる山形だった。
J屈指とも言える戦術家である小林監督は、当然、広島のやり方も熟知している。今節はこれまでの4バックをあらため、3−4−2−1を採用してミラーゲームに持ち込む可能性が高い。実際、徳島には千代反田充・福元洋平・橋内と経験値を持つセンターバックが揃っており、彼らを活かす意味でも3バック移行は無理がない。
発想としては、守備時には両ワイドも下がってスペースを消してブロックをつくって広島のコンビネーションを封殺する一方で、カウンターで大崎やクレイトン・ドミンゲス、高崎寛之やドウグラスらの攻撃力を最大限に生かす形を狙うはず。フォーメーションを移行するといっても、やり方は明確でシンプルだから、選手の間に戸惑いもないだろう。何より、「なんとしてもJ1初勝利を」という強い気持ちが、彼らのエネルギーとなるはずだ。
往復1万4000キロの移動を含む5連戦を終え、久しぶりに休息と戦術的な修正を施す時間を持てた広島ではあるが、状態はまだ万全ではない。故障あがりの高萩洋次郎や森崎和幸の状態はまだ発展途上、清水航平やファン・ソッコらの実力者の負傷も癒えて練習に戻ってきたことは確かだが、試合復帰までには至らない。3試合連続で先制点を許している守備。PKを除いては佐藤寿人の1点のみという1トップ2シャドー。それでも勝点7を積み重ねているのはさすがの勝負強さだが、本来の姿に近づけなければ勢いも出ない。
ただ、戦術の完全理解にはもう少しの実戦が必要とはいえ、柏好文の状態があがってきているのはポジティブな材料。スラロームのようなドリブルを武器とするワイドアタッカーとミキッチがそろい踏みすれば、両サイドで数的有利をつくることが可能だ。そこから決定的な仕事ができれば中央のスペースも空いて、広島が誇る1トップ2シャドーが使えるスペースも空くだろう。
指揮官をはじめとして、多くの人材が古巣・広島に特別な思いを抱いてぶつかってくる。そんな徳島の気迫を跳ね返す強さと集中が必要。戦術的な要素の強い戦いとなるだろうが、広島にとって何よりも重要なのは自分たちの中にある気持ちである。J1初勝利を奪うために、なりふりかまわず戦う相手には、一瞬の緩みも許されない。
以上
2014.03.28 Reported by 中野和也
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