今季初勝利となった前節のFC東京との多摩川クラシコの試合後「チームを信じて応援してきたフロンターレサポーターの皆さん、おめでとうございます。今夜の勝利はみなさんの勝利だったんじゃないかと思います」というつぶやきをSNSを通じて行ったところ、好意的な反応を数多く頂いた。その後、サポーターについての文章を公開したところ、これまた数多くの方に好意的に捉えてもらった。
ホームでの今季初勝利のレポートを、なぜこんな話で始めるのかというと、このチームはサポーターあってのクラブだと改めて思い知らされたからである。
名古屋を内容で圧倒し、結果的に1-0で勝利した試合後の監督会見での事。ある記者が監督会見の席上、風間八宏監督にこんな質問をした。
「普通は絶対に(パスを)付けないところ。相手はガンガンマークしているところなのに、そこに付ける(中略)。それを去年や一昨年から、やろうとはしていましたが、これはムリだろうと思っていたらできるようになりましたね」
あまりに直接的なこの質問から分かる通り、風間監督が川崎Fで志向してきたサッカーは、一般的な感覚や、一般的に常識と言われる考えの中に留まる限り、難しい。そしてこの質問者はそんな自らの感覚を包み隠さずに風間監督にぶつけるのである。
それに対し風間監督は「そうですね。だいぶ良くなってきたと思います」と答え、自説を続けた。非常に高度な技術論なのでわかりにくいが、要するにボールを受ける選手が相手と駆け引きし、相手の重心を左右にずらすことで縦へのボール移動を可能にするという話である。この風間理論を体得することで川崎Fの選手たちは相手がプレスをかけてくる中、平気に縦パスをつなぎ、そしてマイボールの時間を長くした。
そんなサッカーを実現してしまった川崎Fと対戦した西野朗監督は、監督会見の冒頭に「改めて、ポゼッションのスタイルのサッカーの優位さというか、後半はかなり保持されてしまいましたので…。まあ、失点はやむを得ないかなと。あれだけボールを動かされれば」と苦渋に満ちた表情で述べている。つまり、選手たちがプレッシャーをプレッシャーとして感じなくなった川崎Fのサッカーは勝てるかどうかは別にして、優位性を持つ事を、西野監督が証言したわけだ。
ところが、このサッカーを実現するのは時間がかかる。そんな時、等々力競技場の雰囲気を作ってきた川崎Fのコアサポーターのスタンスが意味を持つ事になる。川崎Fのコアサポーターは勝てばもちろん盛大な声援を送る一方、どんなに酷い負け方をしたとしても、ブーイングして騒ぐ事が無い。大失態を犯して敗れた3節の大宮戦後も、そのスタンスは貫かれ、今やその考えは広く一般サポーター(応援をリードすることの無いライト層)にも浸透し、その暖かさがスタジアムの良き特徴となっている。あの大宮戦後もコアサポーターは、悔しさをかみしめて選手たちを励まし続け、悔しさを隠さなかったサポーターのブーイングを和らげた。
そんなガマン強いサポーターがいたからこそ、目利きのサッカーライターをして「これはムリだろうと思っていた」と言われる風間サッカーは成立しつつある。そんな背景があったから、ぼくは多摩川クラシコの勝利をサポーターのものだと書いたのである。もし仮に試合に敗れた選手たちを批判的に捉えるだけのサポーターであったら、勝てないチームに対しスタジアムはブーイングを浴びせ、そうして醸成された世論に押され強化部は何らかのアクションを余儀なくされていたかもしれない。そういう意味で、勝てないチームに対しても、ただひたすらに声援を送ってきたサポーターが、今の風間サッカーを影で支えたと言っていい。それが、間接的にせよこの名古屋戦での勝利を呼び込んだのである。
西野監督が賛辞にも似た形容の言葉を川崎Fのサッカーに与えたこの試合は、立ち上がりから名古屋の激しいプレスが目につくものとなる。名古屋とすれば、川崎Fが保有するボールをプレスによって押し込み、バックパスをさせ、最終的にロングボールを蹴らせればOKだったはず。ところが中村憲剛が「そこで下げると相手の思うつぼなんですが、(大島)僚太が横に居てくれるので比較的前に逃げ出すことに成功していました」と振り返る試合展開となる。
川崎Fは中村と大島僚太が組んだボランチコンビを基軸とし、すべての選手がボールを保持する選手に対し顔を出してパスコースを作り、名古屋のプレスを無効化させた。なんとか川崎Fのボールホルダーを囲い込み、ボールを奪いたい名古屋はボールサイドに人数をかけるが、それが今度は逆サイドの広大なスペースを生むこととなる。そこでシンプルにサイドを変える川崎Fのパスワークに対し名古屋の選手は走らざるを得ない。プレスを掛けるためにも足を使った名古屋の選手たちは、大久保が「とりあえずジャブは打ててた」と話すとおり疲労を蓄積させる事となる。
ジャブを打たれていた側の名古屋の小川佳純は試合後「前半、プレスに行くけど自分たちが主導権を握って戦っていない分、後半体力が落ちる。こっちのほうが動いていたと思うし、じわじわとボディーブローじゃないですが、ああやってボールを動かされることで、体力を削られた。後半は守備に追われてボールを奪っても前に行けない。そういう展開だったと思います。それは相手は一枚上手でした」と脱帽せざるを得なかった。
体力のある前半から内容では名古屋を上回っていた川崎Fにとって、そういう試合を勝ち切れるかどうかは非常に重要な要素だった。そういう意味で、68分に決まった先制点は試合の流れを決定づけた。
Jリーグ加入後の通算1000ゴールとなったこの先制点は、この試合中、何度となく繰り返してきた流麗なパスワークで決まる。森谷賢太郎から小林悠に渡ったボールは、ペナルティエリア内の中村の元へ。ここで中村は大久保へのパスを選択し、このプレーに大久保は驚きを隠さなかった。
「憲剛さんが打つかなと思って。GKが弾いたところを押し込もうと、オレの中ではそう思っていたんですが、やっぱ憲剛さんですよね。あんなところを見てるから。オレがびっくりしました(笑)」
大久保も驚く鋭いパスは、カバーに入った牟田雄祐の足にわずかに触りながら大久保の元へ。このパスを体にぶつけた形でトラップした大久保は、こぼれ球をらしく蹴りこみ川崎Fが先制。等々力競技場のサポーターはチーム通算1000ゴールを選手たちとともに喜ぶ。
劣勢の展開で1点を先制された名古屋の西野監督はここから攻撃的な采配を矢継ぎ早に打つ。69分に枝村匠馬に代えて永井謙佑を投入するのに続き、80分には玉田圭司と負傷した牟田(76分の川崎Fの決定機でカバーに入り、痛めた)とを同時に代え、松田力と田口泰士の両選手を投入する。
高さのあるケネディを残しつつ、スピードのある選手を投入する力技で川崎Fを押し込もうと狙うが谷口彰悟が「そういう戦い方(速い選手を入れる)になるというのは最後想像していて、慌てず冷静にやりました。ディフェンスラインを含めてみんなが冷静に対応出来たかなと思います」と振り返るように、全く慌てることなく川崎Fはこの名古屋の終盤の攻撃を受け止めた。
追加点こそ奪えなかったが、内容で圧倒した川崎Fが1−0ではあるが名古屋を下す事となった。
試合後の監督会見終了後、退席する風間監督に対し拍手が起きる。通常、内容で上回り、勝利した指揮官に対しては拍手など起きることはない。つまりその拍手は「よくここまでのチームを作りましたね」という敬意が込められた拍手だったのだろうと推測する。そうした祝福を受けるにふさわしいサッカーを川崎Fは見せた。そして、このサッカーの構築を手助けしたのは、どんな時もチームに声援を送り続けたコアサポーターと、それに賛同する多くのサポーターが作った等々力競技場の雰囲気だということも改めて付記しておきたいと思う。
多摩川クラシコに続き、難敵名古屋を下した川崎Fが、エース大久保の3戦連続弾もあって上昇気流に乗りつつある。
一方の名古屋は、「最終ラインは闘莉王以外、非常に厳しいですね。今日から大武は大学に戻りますし、牟田のケガも少し酷いようですし。センターバックはこれでたぶん、来週以降厳しいと思います。両サイドも田鍋が離脱していますし、今、コメントしている状況じゃないですね」と西野監督が頭を抱える状況に。次節以降、守備をどう立て直すのかが注目される。
以上
2014.03.29 Reported by 江藤高志
J’s GOALニュース
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