85分、大分、右からのコーナーキック。木村祐志がニアを狙って右足で上げたボールは味方に合わず、熊本DF片山奨典がクリア。このルーズボールを拾ったのは大分の末吉隼也だ。末吉は中を確認し、プレッシャーを受けない状態でふわりとしたクロス、高木和道が頭で落とす。落下点にいた大分DF若狭大志の左足シュートは、ミートしない。そのこぼれに反応した後藤優介も左足でシュート、これもミートしない。ボールは熊本GK畑実の目の前に転がる。抑えた、ように見えた。だがさらに詰めたのは後藤と高木。2人の、あるいは―2,000人以上が訪れたサポーターを含む―大分の執念が、ボールをゴールマウスに押し込んだ。土壇場でスコアは1−1。88分、熊本の小野剛監督は直前まで用意していた3枚目の「守りの(交代)カード」を変更し、澤田崇に代えて巻誠一郎を投入、3分と表示されたアディショナルタイムに追加点を奪いに出る。だが90+1分の黒木晃平のミドルは右ポストを叩くなど実らず、通算7度目の対戦は5回目のドロー。それぞれ順位を下げたが、勝点1の意味は対照的だ。
熊本、大分とも開幕から3節まで同じだった先発を、はからずも2人ずつ(しかも前目の2人を)代えて臨んだ一戦。その狙いが効いたのは熊本だった。立ち上がり3分、齊藤和樹からのボールを受けた澤田が約40mをドリブルで運ぶ。少々力んだか、シュートは枠を捉えきれなかったものの、「相手の裏に出るスピードがポイントになる」と起用した小野監督の期待に応える形で、地元出身のルーキーが見せ場を作った。その後も11分、園田拓也からのフィードを仲間隼斗が胸で落として齊藤、17分には五領淳樹からのボールに抜け出した齊藤が右でため、落としからの五領のクロスに橋本拳人がボレー、さらに左へ流れて片山のクロスを齊藤が折り返して再び橋本と、背後を狙う形や左右に揺さぶる展開から決定機を作る。こうしてリズムのあった前半に得点できなかったことが後々響くわけだが、ここまで3試合と比べても、ゴール前に人数をかける形も含め多くの好機を作れていたのは確か。大分の田坂和昭監督が振り返っているように、前線でのプレッシングはもちろん、橋本と養父雄仁の両ボランチのタイトな潰しなど、とくに玉際で大分を凌駕していたことが、熊本が優位に運べた大きな要因だった。
逆に大分は、初先発となった伊佐耕平と風間宏矢にうまくボールをおさめることができない。熊本の早いチェックもあって、前半のいい形は、西弘則と田中輝希のワンツーでチャンスになりかけた33分、末吉からのクサビを受けて伊佐が反転からシュートに持ち込んだ34分の2回ほど。前半は5本のシュートがカウントされているが、決して得点の確率が高いものばかりではなかった。
後半に入っても流れは変わらず、49分には養父のスルーパスを受けた澤田が右足、50分にも澤田のドリブルから齊藤と、熊本が速い出足で大分ゴールに迫る。そうしてゲームが動いたのは54分。養父のインターセプトから齊藤、澤田とつなぎ、リターンを受けた齊藤が丁寧に落としたボールを仲間がシュート。澤田に当たってコースが変わるというラッキーなゴールではあったが、守備からの切り替えやボールを前につける積極性、追い越しやサポートなど、ここまでトレーニングで意識してきたことが表れた得点だった。残りは約35分。ゲーム展開は自ずと、リードされたことで前に出ざるを得なくなった大分に対し、熊本がカウンターで追加点を狙うという構図になっていく。ここで田坂監督が動いた。
「うちのボランチに対して相手のボランチが非常に高い位置からプレッシャーをかけてきたことで、センターバックとの間が空いてきた」と、61分、伊佐と風間に代えて木村と後藤を同時にピッチへ送り出す。これによって徐々に流れが大分へ傾いたのは、執拗なアプローチで熊本の選手達が消耗し、少しずつラインが下がっていたことも関係しただろう。熊本の小野監督は71分に五領から中山雄登、77分に仲間から黒木と両ワイドを交代するが、大分も最後は西を下げて高松大樹を入れ後藤との2トップにすると、80分以降は熊本にカウンターの場面を作らせないほど押し込み、冒頭の同点場面につなげたのである。
内容に関しては、選手達からも肯定的な声がほぼ聞かれなかった大分。それでも「結果を考えれば勝点1を取ったのは非常に大きい」と田坂監督も述べた通り、順位こそ下げたが価値ある引き分けで3戦負けなし。得点には絡めなかったが初先発の2人もそれぞれに持ち味を発揮し、後半から流れを引き戻したことも収穫で、最低限の結果を得たしぶとさ、粘り強さは長いシーズンを戦い抜く上で確かな武器となる。だからこそ、試合終了直後に起きたブーイングの意味を噛み締め、質も高めなくてはならない。
一方、熊本は小野監督が言うように「勝点2がこぼれた」ゲームだった。「全部が中途半端になってしまった」と園田が話した失点場面の対応はもちろん修正が必要だが、それ以上に重要なのは、リードして以降の試合の運び方だ。小野監督も、中盤を締めながらできるだけ自陣ゴールから遠い場所でボールを落ち着かせる効果を狙って3枚目のカードを意図していたようだが、ピッチ内でそうした対応ができないうちに追いつかれてしまったのは、経験の少なさ、チームとしての若さも影響していよう。追加点が取れなかったことも無関係ではないが、プレビューで少し触れた巻の言葉にもあるように、 “我慢しなくてはいけない”時に失点している現状を冷静に受け止め、チーム全体で改善していくべきだ。とは言え、昨年までのような浮き沈みなく、徐々に内容が良くなっていることも事実。1勝1分2敗の17位という数字にも決して下を向く必要はない。1つ1つ経験を積み重ね、常に“次”を見据えて歩みを進めたい。
以上
2014.03.23 Reported by 井芹貴志
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