「気持ち」とは、なんだろう。
よく競った試合の終盤に、解説者が「ここまでくれば、気持ちですよ」と言うが、その正体はわかっているのだろうか。
サッカーの場合、特に「モチベーション」という言い方もする。日本語で言えば「動機付け」ということで、やはりこれも「気持ち」の一つ。自分自身も記事を書く時に簡単に使ったりするが、その実体がわかっているのかというと、そこに不安はある。だがその得体の知れないものが人間の肉体を動かすことは、やはり間違いのない事実だ。
たとえば、J1第3節・広島対浦和戦。第2節のホーム開幕戦で劇的な勝利を飾った紫の王者は、対浦和ということでさらに気持ちが高ぶっていた。浦和は、ピッチ外の残念な出来事によって無観客試合が決まった直後ということで、選手たちとサポーターにとっては特別な戦いとなった。
決してスペクタクルな試合とはいえない。だが、球際で強く強く競り合い、激しく激しくぶつかりあっていた。「絶対に負けたくない」「いや、勝つんだ」という互いの思いの発露が熱さと強さに変換された戦いだった。シュート数は広島5対浦和10。しかし、その数字以上の何かを感じさせた。
広島対浦和戦は、ミハイロ・ペトロヴィッチが浦和監督に就任し、同時に槙野智章が加入した時から、ある種の因縁めいた戦いとなった。両チーム共に選手・サポーターを含めて「絶対に負けない」という気持ちが先行し、また最初の対決で広島が勝利したことで浦和側の執念の度合いがヒートアップ。技術の高いチーム同士の繊細さより、ゴツゴツとした空気が目立つ戦いとなっている。そしてこの特別さは、次の試合にも大きく影響していると言っていい。
【広島】
2012年第1節○1-0浦和→第2節●1-2清水
2012年ヤマザキナビスコカップ第7節●0-3浦和→リーグ第16節△2-2仙台
2012年第32節●0-2浦和→第33節○4-1C大阪
2013年第1節●1-2浦和→第2節○2-1新潟
2013年第19節●1-3浦和→第20節○2-1磐田
2014年第3節●0-2浦和→ACL第3節○2-1FCソウル
【浦和】
2012年第1節●0-1広島→第2節○1-0柏
2012年ヤマザキナビスコカップ第7節○3-0広島→リーグ第16節△1-1C大阪
2012年第32節○2-0広島→第33節●1-3鳥栖
2013年第1節○2-1広島→第2節○1-0名古屋
2013年第19節○3-1広島→第20節●0-2名古屋
2014年第3節○2-0広島→ヤマザキナビスコカップ第1節●1-2柏
強い気持ちの発露は激しさを生むが、その成果が出た後の戦いには反動が来るのか。決戦に敗れた悔しさが次へのエネルギーになるのか、それはわからない。だが、この流れを見ても、「気持ち」「想い」という実体のしれないものの強さが、次の試合も含めて大きな作用を施していることは、想像がつく。
今度のJリーグ、「気持ち」が大きく作用しそうな試合が、いくつかある。Jリーグ初の無観客試合となった浦和対清水。常に激しい戦いとなるF東京対川崎Fの多摩川クラシコ。ここをどう予想するか。ACLという精神的にも肉体的にも強い負荷がかかった試合の後となる4チームの対戦をどう考えるか。単純に「連勝中・連敗中」とか「怪我人や出場停止」などということだけで片付けられない要素をどう考えるか。
だからこそ、奥深い。奥深いからこそ、totoは面白いのである。
以上
2014.03.21 Reported by 中野和也(広島担当)