開始2分、阿部巧の左足から放たれたシュートが右ポストを叩く。同じく7分、石津大介のクロスに坂田大輔が飛び込んでヘディングシュート。ボールが左ポストをかすめる。福岡は、全員が鋭い出足と連動した動きでボールホルダーにプレッシャーをかけ、奪った瞬間に「守」から「攻」に素早く切り替えて愛媛ゴールに襲いかかった。試合前に、選手たちは「京都戦の内容を自分たちのベースにしたい」と話していたが、それを実戦の中で表現する福岡のプレーは迫力満点。昨シーズンから、試合を重ねながら、少しずつ、少しずつ成長してきた福岡は、京都戦の勝利をきっかけにして、一気にレベルを上げた。そんな気配が感じられる立ち上がりだった。
そして7分。福岡は自分たちの思い描く形で先制ゴールを奪う。愛媛のセンターバック林堂眞にボールが渡ると、すかさずプノセバッチが激しく体を寄せる。そのプノセバッチをサポートする石津が、ボールの処理に戸惑う林堂からボールを奪い取って前へ仕掛ける。そして、フィニッシュは城後寿。石津から送られたラストパスに右足を合わせてゴールネットを揺らした。相手の僅かな隙を見逃さず、高い位置からの激しいプレスと、それに連動する動きで奪った先制ゴール。ホイッスルが鳴ってからここまで、ほぼ完璧と言っていいプレーを見せる福岡の姿を見ながら、多くの人たちが「福岡強し」の印象を抱いたことだろう。
だが、ここから試合の流れが一変する。本来なら、一気呵成にゴールを狙いたい福岡だったが、何故か選手の動きが緩む。加えて、愛媛が立ち上がりの混乱から脱したこともあり、徐々に愛媛が福岡ゴール前へ迫るシーンが増えていく。最初のうちは、カウンターで応酬していた福岡だったが、相手を受けて戦うほどの力はまだない。気が付けば、15分が過ぎた頃には試合の支配権は愛媛に移っていた。そして22分、愛媛がカウンターを仕掛けて福岡ゴール前へ。最後はペナルティエリアの中まで上がってきていた村上佑介が右足を振り抜いて同点ゴールを奪った。
「1人、1人がメリハリのないプレーになってしまい、自分たちでリズムを悪くしてしまった。1点取った後も、そのままプレスをかけていくつもりだったが、チーム全体でプレスをかけられず、そこで1枚はがされ、後手後手になってずるずると引いてしまった」と話すのは堤俊輔。だが自ら放棄した試合の流れが戻ってくるはずはない。そして愛媛の思い通りに試合が進んで行く。
愛媛の狙いは、まずは自陣にブロックを作って福岡を誘い込み、そこからカウンターを仕掛けるというもの。福岡が縦に入ってくるところを、渡邊一仁、原川力が引っ掛けて、そこから流れるようにパスをつないで福岡ゴールを脅かした。
後半になっても、その図式は変わらない。自分たちの狙いとするサッカーを伸び伸びと展開するのはアウェイの愛媛。福岡はホームゲームでありながら、窮屈そうにプレーし、ミスを連発し、自ら相手の狙いにはまりに行くようなプレーを繰り返す。
その要因は明白だった。愛媛が自分たちのやることを整理し、全員がハードワークに徹してボールに働きかけていたのに対し、福岡は足を止めてしまったからだ。豊富な運動量をベースに、高い位置からアグレッシブにボールに働きかけるのは福岡の生命線。それを欠いては、自分たちのサッカーを表現できるわけもない。1対1の局面の戦いも、セカンドボールの争いも、すべて愛媛が制していた。
愛媛にとって悔やまれるのは、ゴール前まではいい形で運ぶことができても、最後の所を決めきれないという課題を解消できなかったこと。最初の15分を除けば、試合をコントロールし続けたが、追加点を奪うことはできなかった。結局、試合は1−1のドロー。だが、記者会見での両監督の表情、そしてミックスゾーンに表れた選手の表情が、この結果の両チームの価値を物語る。そこには勝者と敗者程の違いがあった。
やるべきことは分かっていながら、そしていい準備をしながら、それを自らの問題で試合で表現できないのは、昨シーズンから続く福岡の課題。その課題を福岡はどうやって克服するのか。次節の磐田戦でどのような姿を見せるのかが注目される。
以上
2014.03.17 Reported by 中倉一志
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