シュート数が広島5対浦和10である。決して「スペクタクル」とは言えない。だが、激しさに満ちた試合だった。
ペトロヴィッチ監督が広島と戦う時は、紫の生命線といえる前線3枚に対するマンマーク・システムを採用する。3バックが広島の1トップ2シャドーに張り付き、ボランチとの挟み込みでくさびを封じ込んで、広島のパスワークにスイッチを入れさせない戦術だ。
当然のことながら、ここで球際の勝負になる。広島は、マークに付かれていても、逃げはしないで戦いを挑む。ここで勝つか負けるか。前に向かってプレーするDFが有利なのは間違いないが、攻撃側は1回でも裏を取れば、それで勝利となる。
オーストラリアから帰国して中3日、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積する広島は、ペースをあげることは難しい。実際、浦和のポゼッション率は高かった。だが、前半の具体的なチャンスは浦和よりも広島が目立つ。6分、水本裕貴のパスを野津田岳人が1タッチで流して佐藤寿人が決定的シュート。枠を外れたが、広島の意気込みが伝わる攻撃だ。
24分、水本の美しいスルーパス。野津田が抜ける。割れた。一瞬の歓喜。だが、広島の若者の目の前には、昨年までエディオンスタジアム広島を庭としていた西川周作がいた。
「水本選手から直接、パスが出ると思った」
かつてのチームメイトの狙いを知り尽くした日本代表GKは、一気にペナルティエリアを飛び出し、野津田の切り返しも読み切ってクリア。決断スピードの早さと思い切りが生む「周作スペシャル」が、若者のゴールへの野望を奪った。
33分、またも野津田vs西川のシーン。山岸智のスルーパスから野津田が裏を取ったが、西川は思い切って飛び出して間合いを詰め、シュートを身体に当てる。強いフィジカルを持つ森脇良太にマークされながら、広島の19歳は堂々と立ち向かって、何度も裏を取った。しかし、そこを水際で止めた西川の決断。19歳のアタッカーに立ちはだかった大きな壁は、広島に歯がみさせ、浦和に安堵を与えた。
サッカーとは、洋々たる大河ではなく、若々しい激流である。一度せき止められてしまうと、流れは違う方向へと向いてしまうもの。42分、広島側の懸念は現実となる。
槙野智章のドリブルに対し、塩谷司と森崎和幸の2人がケア。だが槙野のスルーパスは、塩谷の股の間を抜く。そこに、見事としかいいようのない「消える動き」で、忍者のようにゴール前に出現した興梠慎三が決定的なシュートを放った。林卓人の見事なセーブでCKに逃れるも、そのセカンドボールを拾った浦和は、右から平川忠亮がクロス。
ここでも浦和のストライカーが凄みを見せつけた。マークについた青山敏弘を強引にふりほどき、ニアへ飛び込んで身体をひねりながらのヘッド。フワリと浮かんだボールは、広島サポーターの悲鳴と共に、ネットに沈んだ。試合後、青山が「自分の責任」と唇をかむ。だがこのシーンは、興梠の俊敏性と頭脳、強い肉体、そして絶対にねじ込むんだという気持ちを賞賛すべきだろう。
後半、広島はギアをあげてゴールに迫る。水本も塩谷も前線に上がり、カウンターの脅威を森崎和が鬼神のような守備でカバーする。途中出場の浅野拓磨と高萩洋次郎もリズムを変えた。しかし、浦和の執念の前に決定的なシーンまで持ち込めない。
86分、青山のスルーパスに飛び出した石原直樹。森脇が強烈に身体を寄せ、預け、押しつぶす。主審の判定はノーファウル。森脇、足が完全につってしまい、プレー続行が不可能になった。コンディションに問題を抱えていた広島の選手だけでなく、気持ちとパワーを全面に押し出した浦和の選手たちの消耗も激しい。死力を尽くし合った戦いの結末は、原口元気のすばらしいシュートが締めくくった。
これで広島は対浦和公式戦5連敗。だが、森崎和は「次の対戦へのヒントをつかんだ」と収穫を口にした。過去の対戦とは違う何かが、広島の頭脳には見えている。特に前半、野津田が見せたプレーは、1つの指針だ。
Jリーグでも最高クラスの実力を持つこの両チームの対戦を、できればフルコンディションで見たかった。広島はオーストラリア往復後の中3日で、多くの主力が故障あがり。浦和にしても、ピッチ外の出来事で精神的な準備が難しく、本来の彼らのクオリティを見せたとは言えない。
横断幕などの掲出が禁止された浦和サポーターは、声と手拍子で選手たちを鼓舞した。広島サポーターは疲れ果てた選手たちに声援でエネルギーを注入。試合後も、死力を尽くした戦士たちを拍手で迎えた。ピッチ外の出来事に影響されず、サポーターが最高の雰囲気を創ってくれただけに、いいコンディションを選手たちに与えてやりたい。
すばらしい試合だった。だが、もっとできる両チームである。
以上
2014.03.16 Reported by 中野和也
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