「たら」や「れば」といった言葉がサッカーの試合を振り返る際に全く意味を持たないことを承知で筆を進めるが、試合開始早々にネットを揺らした群馬の平繁龍一のゴールがもしオフサイドでなかったとし「たら」、この開幕戦はどちらが制していただろうか。群馬であったとしてもおかしくはなかったはずだ。少なくとも、早い時間で群馬が流れを掴んでいただろう。
互いのチームデータがほとんどなく、どうしても動きも硬くなってしまう開幕戦では、早い時間に先制されるというのは精神的にかなり堪える。あくまでも結果論の域を出ることはないが、そういった意味において平繁の幻のゴールはこのゲームの分岐点となった。なぜならば、そのすぐ後(12分)に長崎は最初のセットプレーで上げた先制点によって、緊張という名の鎖を引きちぎり自分たちの攻撃サッカーの口火を切ることができたからだ。
データのない相手との試合では、チームは試合の流れの中でいくつかのチャレンジを繰り返し、監督と選手はピッチ上で見つけた何かを手繰り寄せながら、やがてそれを確実に自分たちのものにしていくという作業を重ねるのがセオリーだ。だが、それらの地道な作業を簡単に飛び越えるのがセットプレー。群馬の秋葉忠宏監督は試合後に「(セットプレーは)最も警戒していた」と話していたが、マークの受け渡しの隙を突いた長崎の山口貴弘が、ニアで古部健太が擦らしたボールに飛び込み、そのボールが東浩史の胸に当たって方向が変わり先制点となった。キッカーは今季先発のチャンスを掴み取った前田悠佑だった。
ただし、長崎はキャンプ中に特別にセットプレーの練習を重ねてきたわけではない。昨季、セットプレーでの得点は数えるほどしかなく、今季の目標の1つとして高木琢也監督は「セットプレーでの得点増加」を上げていたが、まさかいきなり開幕から点が取れるとはおそらく思っていなかったのではないだろうか。群馬の小林竜樹は試合後に「最初のセットプレーで点が取れるあたりに長崎の勝負強さを感じた」と語っており、平繁の上げた幻のゴールとのコントラストが出たと言える。
ゲーム全体を振り返ってみよう。先制点を上げた長崎だが、ぜいたくを言えば前半の動きはそれほどアグレッシブではなかった。昨年J2にこれでもかと見せつけたような連動性を欠いていた。硬い雰囲気のままで前半が終わり、ようやく長崎らしさが出たのは群馬に疲れが見え出した65分過ぎあたりからだった。それまで群馬はしっかりとしたブロックを組んでいたが、中盤にぽっかりと穴が開き、それまで散々奥埜博亮を苦しめたマークが緩み始める。ここから長崎はダイレクトパスで群馬を翻弄。三原雅俊、奥埜、東とダイレクトパスが繋がり、DFラインの裏に飛び出した東がGK北一真に倒されPKを獲得。これは惜しくも北に止められたが、長崎の押せ押せムードに終わりはない。71分にはボランチの前田のスルーパスに野田紘史が飛び出し追加点を挙げた。
この試合、長崎は三原と前田の2ボランチがチャンスメーカーとして目立った。一方の群馬は瀬川和樹のクロス以外に攻め手を欠き平繁が前線で孤軍奮闘。苦し紛れにシュートを放つ以外に手立てがなかった。ただ、群馬は開幕前に関東地方に甚大な影響を及ぼした大雪の影響で1週間以上も練習できない時期があった上に、有薗真吾や金沢浄などDFにケガ人が相次ぎ、ほとんど練習していなかったという3バックで初戦に臨まざるを得なかったというハンデもあった。秋葉監督は「連敗しないこと。引きずらないこと」を最も大事にしたいと話しており、来週末のホーム開幕(3/9vs東京V@正田スタ)に向けて、気持ちを切り替えて臨む。
最後にゲーム内容からは少し逸れるが、ホームの長崎はクラブとして開幕戦の勝利を手放しで喜ぶわけにはいかない。開幕戦を2万人の観客で埋めようと「2014シーズン開幕戦20,000人集客プロジェクト」と銘打ったキャンペーンを実施したが、当日の会場者は昨年の平均入場者にも満たない5248人。ゴール裏はウルトラ長崎のリードでほぼ満杯となったが、スタジアム全体を見渡すと勝利で飾った開幕戦ながらも寂しさも感じた。
以上
2014.03.03 Reported by 植木修平
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