格好のいい内容ではなかったかもしれない。守る時間が非常に長かったし、攻めは相手DF裏のスペースを狙うシンプルな形。華麗なパスワークや高度なコンビネーションが随所に見られたかと聞かれれば、ノーと言わざるを得ないだろう。
しかし、This is Tokushima─。押し込まれても最後のところを許さない粘り強い守備で失点を防ぎ、数少ないチャンスをモノにする戦いこそが今季の徳島のサッカーだ。そして「今年の徳島らしさでもある『粘り強く戦う』ということが最後まで出来たので、1年を象徴するような試合だったのではないかなと思います」とキャプテン斉藤大介も試合後語っていたが、挑んだJ1昇格プレーオフ準決勝、徳島はその自分たちのスタイルを90分体現し続けたことが決勝進出という成果に結び付いたと言えよう。

事実、前半からチームはそうした攻守を徹底して行っていった。序盤からポゼッションの割合は千葉に譲る展開となったが、まず守備では千葉のボール回しに対し常に粘りをもって対応。全員がしっかりしたスライド、またボールホルダーに時間を与えない間合いの詰めも見せて、簡単にはアタッキングサードを破らせない組織網を敷いたのである。加えて、それでもペナルティエリア内へ侵入された時には個々が体を張った寄せで最後のところを必死にカバー。実際33分に右サイドから決定機を作られた際には、ゴール前まで戻っていた濱田武が懸命の寄せでコースを消し、僅かなズレだったとは言え枠内シュートを許さなかった。

また攻撃に目を向けると、冒頭で書いたようなシンプルな形であっても、前半はそれがよく効いていたと言っていいはず。立ち上がり早々の7分にはドウグラスの裏への抜け出しがさっそく千葉DF・山口智のイエローカードを誘ったし、津田知宏も左サイド奥への精力的なスプリントでボールを引き出すと、その津田は37分中央でそのような飛び出しを実践して貴重なPKを獲得。それをドウグラスが決めて徳島は待望の先制点奪取に成功したのだから。

さらに迎えた後半、特に守備面において徳島は自らのサッカーをいっそう強く出していく。
先制から僅か3分後のCKを止め切れずスコアをイーブンに戻されての折り返しとなったが、それでも選手たちは非常に高い集中と落ち着きを維持。前半以上にボールを支配され、より高い位置取りをしてきた千葉の右サイド・米倉恒貴に手を焼かされながらも、粘り強さをもう一段アップさせた堅い守りを披露した。55分にパスで中央を破られケンペスへ繋がれた時にはアレックスが、72分にクイックリスタートからDFライン裏を米倉に取られてGK松井謙弥までがかわされた時には橋内優也が、諦めない体の投げ出しでボールに食らいついてピンチを凌いだのである。

こうして徳島は、勝ち越しゴールこそ奪えなかったが、そのような守りの貫徹によって千葉にも2点目を記録させず。結果、年間順位上位のアドバンテージが活きることとなり、最終決戦の地・国立行きの切符を手に入れた。「我々がシーズン後半戦、守備を粘り強くやってきたことが今日の後半45分に出せるのか、点を取られるのかの勝負になったと思う。その中で最後まで動く、諦めないというのが今日出たと思う」という小林伸二監督の言葉も物語っているように、やはりこの一戦の成果はチームが自分たちのスタイルを出し切ったことで得られたものと言って間違いないだろう。

とは言え当然反省部分もあるのが現実だ。中でも繰り返しヒヤリとさせられ、そのうち1本が失点に繋がってしまったCKにおける守り方。精度の高いボールが入ってくること、GK松井謙弥の動きを巧みにブロックされることは一週間後の決勝でも十分予想されるだけに、徳島としては何としても改善を図っておかなくては。
それともうひとつ、攻撃の再整備も絶対に必要となろう。ドウグラスを負傷交代で失った後半、なかなか効果的な攻めを繰り出せなかったため、J1昇格には勝利が条件（京都は年間順位3位）となる立場を考えるとそこへのテコ入れは必ず求められる。

Jリーグ参戦9年目にして掴んだ最大のチャンス。それを何としても結実させるべく、チームには明日からまた最高の準備を進めてもらいたい。日本サッカーの聖地でも徳島のスタイルを余すことなく出し尽くせれば、きっと悲願を達成できるに違いない。

以上

2013.12.02 Reported by 松下英樹