何しろ逆転プレーオフ進出を賭けた大一番である。記者席で見ているだけの筆者ですらやや緊張気味だったが、試合開始直前の写真撮影に当たり前のように参加していた準マスコットの一平くん(愛媛を応援すべくアルウィンに来場)が、愛媛の川井光一運営担当に足払いのようなキックをお見舞いし、川井担当も全く表情を変えることなくひらりと避けた場面を見て、思わず爆笑してしまい緊張の糸がほぐれた。改めてこの場で一平くんと川井担当に感謝申し上げます。
さて試合の方は、開始直後こそ遠目からのシュートでブロックを崩そうと試みる愛媛が積極性を見せるが、松本はセットプレーから好機を連発。岩上祐三がロングスロー、コーナーキックなどで精度の高いボールをゴール前の長身選手に供給。15分にはフリーキックのこぼれ球を塩沢勝吾が胸で押し込んでゴールネットを揺らすが、オフサイドと判定。その6分後には岩上のフリーキックにファーサイドで合わせた飯尾和也がヘディングシュートを放つがこれはバー直撃。あと数センチに嫌われて、先制点が遠い。
ここまでは人数をかけて集中して守っていた愛媛だったが、意外な形で29分に均衡が破られる。ペナルティエリア内でボールを受けた船山貴之がそのまま突破を試みるも、加藤大に倒されてPKを得る。「今までのPKの中で一番緊張した」好機をしっかり生かし、松本が喉から手が出るほど欲しかった先制点を奪取した。
ハーフタイム。この段階で千葉は鳥取に1点リードされ、徳島・長崎・札幌はスコアが動いていない。仮にこのまま終われば、松本はごぼう抜きの5位浮上となる。他会場の結果も逐一知らされていた反町康治監督は「ロッカーアウトを2分遅くした」ことで他会場よりも試合終了時刻を遅らせるなど、およそ考え得うる限りのあらゆる手を尽くした。松本のプレーオフ進出のための意地、愛媛の負けられないというアスリートとしての意地が激しくぶつかり合った後半は、お互いに死力を尽くした45分間となった。スコアが動くことはなかったが、ワンプレーごとに歓声が沸き、痺れる場面の連続だった。
試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、アルウィンは淡い期待感に包まれた。しかし――千葉が後半アディショナルタイムに同点に追いつき、徳島は長崎に勝利。この結果、松本の7位が確定。手中に収めかけていたプレーオフ進出はするりと落ちていった。3チームが勝点66で並んだだけに、「あの試合で勝点1を取っていれば……」という悔恨は誰の胸にもあるかもしれない。しかし、それは『たられば』だ。引き分けが相応しい内容の試合を何試合か競り勝てており、この結果もまた一年間戦ってきた証ということだ。
アルウィン今季最後となる記者会見において、石丸清隆監督はアルウィンの雰囲気について「実際に体験して、完全アウェイで異様な雰囲気を作ると実感した」と語ったが、16885名の来場者が、ピッチ上の選手たちの活躍に視線を注ぎ、一挙手一投足に熱い声援を送る素晴らしい雰囲気を作り出した。まさに12番目の選手として機能していたことも松本の勝利の大きな要因だった。一方、反町監督は「足りない部分はありますし、まだまだ課題はたくさんある」とこれまでの激闘を振り返り、「“勝点1の重み”を知った。これを来季に生かしたい」と3年目の指揮をとることが正式に発表された来季に早くも思いを馳せていた。
こうして松本のJリーグ2年目は終了した。しかし、2013年の終わりは2014年の始まりを意味する。この日アルウィンで見られた熱を冷まさずに3年目の開幕を迎えることが出来れば、来季の松本も大いに期待できそうだ。
以上
2013.11.25 Reported by 多岐太宿
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