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【J2:第42節 神戸 vs 熊本】レポート:サッカーの神様は熊本の北嶋に“宿題”を残した。そして吉田の一発は、モヤモヤした神戸のJ1復帰を最高のシナリオへと変えた。(13.11.25)

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長きに渡ってJリーグを席巻してきた神戸・吉田孝行と熊本・北嶋秀朗のラストマッチ。結末は両チームの今シーズンを象徴するように対照的だった。それは3−0というスコア以上に明確な差となって表れたように思う。

熊本の池谷友良監督は記者会見でこう振り返った。「個のスキルアップとか、フィジカルもメンタルも含めてもう一段上げていかないと、このステージで勝っていくのは難しいなと。この1年を通して、そのことが一番よくわかるのが今日のゲームだったと思います」。

キックオフ時には神戸の森岡亮太に軽々と中央突破を許した。17分には青木良太が森岡にボールを奪われGKと1対1の場面も作られた。21分に神戸の河本裕之がヘディングで跳ね返したボールをポポに拾われて決定機にもなった。「色んなシーンを挙げていけばいっぱいあったと思います」と池谷監督が言うように、技術・スピード・パワー・メンタル・集中力などに差を感じる結果となった。

もちろん、その中でも熊本が光るプレーも何度かあった。例えば、56分過ぎに仲間隼斗が反転で相手を置き去りにし、ミドルシュートまで持ち込んだシーン。あるいは83分頃にロングボールからヘディングで競り勝ち、最後は北嶋のボレーで終わった一連のプレーなど。決まっていれば、違った結果になっていた可能性もあるが、勝負に“たられば”が無い以上、今の熊本にとって0−3というのが現実である。「全てにおいてレベルが、J2の降格争いをした(チーム)というのが現状だと思います」(池谷監督)

引退表明後、ゴールを入れてから退くと誓っていた北嶋も神戸に一矢報いることができず。「公式戦で点が取れなかったシーズンは今年が初めて。(中略)それが現実です。サッカーの神様は基本的に僕に意地悪なので(笑)。それを今まで乗り越えて向かってきたんですけど、今年は勝てなかった」と話した。池谷監督が「形は変わりますけれど、(北嶋には)色んな意味でやり残したことをもう一回充実して後輩たちに伝えていってほしい」と言うように、サッカーの神様は北嶋に“宿題”を残したのかもしれない。

色んな意味で悔しい結果となった熊本だが、逆に最終節でJ1に復帰する神戸と真剣勝負できたことで“貴重な物差し”を得たとも考えられる。この経験を来季に生かしてほしい。
一方で神戸は絵に描いたようなハッピーエンドとなった。前半こそビッグチャンスを2回ほど外し0−0で折り返したものの、後半は48分に河本がセットプレーから先制点を叩き込むと、64分には森岡が目の覚めるようなミドルシュートでネットを揺らした。そして67分に吉田孝行がピッチへ送り込まれる。「実は昨日から足の状態があまりよくなかった」という吉田だったが、いつものように懸命にボールを追い、何度もポジションを取り直してゴールを狙い続けた。その献身的なプレーに、サッカーの神様は微笑むことになる。

後半アディショナルタイム約2分。森岡が奪ったボールを松村亮が拾い、左サイドへ流れたポポへ懸命につなぐ。ペナルティエリア付近、フリーでパスを受けたポポ。もちろん、彼のシュートレンジだが、ポポはシュートを打たずに相手を引きつけてから吉田へラストパスを送った。吉田はこのシーンについて次のようなコメントを残している。「ポポは日本人の心を持った、献身的なプレーをする素晴らしい選手。(あのパスは)自分のことを慕ってくれていた証拠だと思うし、僕のヴィッセルでのゴールを振り返ると、本当にポポのアシストが多い。彼には本当に感謝しかないですね」。吉田が放った現役最後のシュートは、ゴールマウスに吸い込まれていった。悲鳴のような歓喜の声と、はち切れんばかりの拍手がスタジアムを包み込む。感極まって涙を見せるファンの姿もある。吉田の元へ駆け寄るチームメイト。ベンチへ向かって走り、監督や控え選手たちの胸へ飛び込む吉田。約1年前に広島に敗れて悲し涙に暮れた同じスタジアムで、今度は多くの笑顔で溢れた。今の神戸にとってはこれ以上ない最高の形で、2013年の幕が閉じられた。

試合後に行われた神戸の「2013ファイナルセレモニー」で安達亮監督は目頭を熱くしながらこう挨拶した。「(11月3日の)京都戦で引き分けて(自力での)J1自動昇格を逃し、(次節では他力で)昇格を決めて1時間もしないうちに札幌戦に挑んで敗れた。その試合後にサポーターから受けたブーイングは正直こたえました。でも、そういうのも吉田のゴールで吹っ飛びました。1年間、選手やスタッフが一生懸命やってJ1に復帰できました。昨年以上の拍手をお願いします」

苦しい1年だった。試合に勝っても、相手の指揮官からは「飛び道具の差」や「資金力が違う」と言われた時もある。このまま昇格してJ1で勝てるのかと悩みながら、ブレずに勝点を積み重ねるのは想像以上に苛酷だった。だが、決して個の力だけで勝ってきたのではない。個の力を引き出してきたのは、まぎれも無くチームワークだった。
最終節。神戸の選手たちは、吉田にゴールを取らせたい思いで懸命に彼をフォローした。吉田が出場した約26分間の神戸は、1年を通して個を生かすチームワークを育んできた神戸の集大成、あるいは象徴的なシーンだった。

試合前、吉田が最後のピッチに何を残すのか注意深く観ていた。戦う姿勢、勝負強さ、サッカーを楽しむ心など多くのものを彼は刻んだが、最も大きなものはやはり“感動”だった。最後まで熱くさせてくれてありがとう。そして誰もが手放しでJ1復帰を喜べるきっかけを作ってくれたことに感謝したい。

以上

2013.11.25 Reported by 白井邦彦
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