0-1で迎えた38分、三浦知良がJリーグ最年長ゴール(46歳8ヶ月8日)を更新するヘディングゴールで、横浜FCが同点に追いつく。いつもであれば、「カズスイッチ」がニッパツ三ツ沢球技場の雰囲気をがらっと変えて、横浜FCをさらに後押しする相乗効果が出るはずだった。しかし、この日の松本の選手、そして4,000人を超えるサポーターは、そのスイッチを入れさせない躍動感を見せ続けた。
今週の練習の際、「前半から果敢に仕掛ける」とシュナイダー潤之介が語っていた通り、阿部巧の裏を黒津勝が突く形も織り交ぜ、立ち上がりは横浜FCが松本を押し込む展開。繰り返しコーナーキックを得るが、これを松本が凌ぐ。そして、松本は得意のセットプレーでやすやすと先制点を挙げる。伏線は、14分の岩上祐三スローイン。岩上は、これまでロングスローで何度もゴールに結び付けており、それが警戒される中、ロングスローと見せかけて通常のスローインを行い、横浜FCの守備陣を攪乱する。そして1本コーナーキックを挟んだ15分、再び岩上がロングスローと見せかけて、近くにスローインを落とし、パスを戻して岩上が上げたクロスを横浜FCディフェンスが触り、ファーサイドに流れたところを塩沢勝吾が冷静に頭で押し込む。松本のストロングポイントを嫌らしいほど駆使した先制点だった。
先制してしまえば、松本は守備を最初に考えながら試合を運ぶ楽な体制となる。横浜FCがボールを保持し押し込むが、松本はパスコースにフタをしながら、期を見てプレッシャーを掛ける展開。その手詰まり感を解消したのは、キングカズだった。黒津のプレスバックからボールを奪うと、寺田紳一がボールをキープしながら松本の守備陣を4人引きつける中、左サイドオーバーラップする中島孝典にパス。その中島がフリーで上げたクロスをファーサイドで阿部に競り勝ちたたき込んだ。チームが目指すパスの連動性で挙げた素晴らしいゴール。これで、横浜FCを覆った暗雲な払拭されたはず、だった。しかし、42分に怪我で守備の大黒柱ペ・スンジンを交代させなければいけないアクシデントもあったが、いつもなら入るカズスイッチもこの日の松本の前の守備意識とプレスの前に不完全な状態。前半残り2分のアディショナルタイムにも横浜FCが不用意にボールを失うプレーが見られるなど、勢いをつかめないままハーフタイムを迎える。
後半は、冷静にプレーを進める松本の前に横浜FCが自滅していった。「(選手間の)距離感がやっていて一番気になった。後ろ(DFライン)から(ビルドアップが)始まったときの距離感で、相手が守りやすい位置に(自分達が)配置していたのかなと。相手は、あのままやっていたので、自分達からはまっていった形になった」と高地系治が振り返ったように、選手間の距離が離れ、パスコースが少なくなり窮屈なパスワークになる中、ボールを奪われカウンターを受ける展開が続く。そして、52分ロングパスを松本がクリアすると、そのクリアボールが、横浜FCのセンターバックとボランチの間に落ちる。そこを拾うと、あっという間に松本が数的優位を作りそのまま塩沢が2点目を決める。点を焦る場面でもないのにポジショニングのバランスを崩し、松本のもう1つのストロングポイントであるカウンターを易々と決められてしまった。そして69分、松本が岩上のFKからファーサイドで犬飼が簡単に競り勝ったボールを飯田真輝がたたき込んみ、だめ押しと思える3点目を挙げる。横浜FCは、自ら崩して見せた隙を修正することができず、松本の守備の網の前に時間を使うばかりで終了のホイッスルを聞くこととなった。
パスワークが身上の横浜FCと、セットプレーとカウンターに特長を持つ松本の構図を考えると、松本がリードする展開になれば松本の特長がより生きる展開になるのは自然の流れ。その中で、一度は三浦のゴールで振り出しに戻しながら、再び不利な立場に自らはまっていた。躍動感を出せたのは間違いなく松本の方。守るべきものは横浜FCよりも松本にあったはずだが、横浜FCのほうが怖がったプレー、松本の方が自信をもったプレーをしていたのが印象的だった。そして、やはりニッパツ三ツ沢球技場をジャックした松本のサポーターに言及しないといけない。カズスイッチを不完全に終わらせ、松本の躍動感の源泉だったことは間違いない。上でも通用するJ2で有数のサポーターであることも証明した。
これで、横浜FCの昇格の可能性は数字上完全消滅した。三浦は「プロとして全力を尽くす」というように、残りの3試合は1つでも上の順位に上がる戦いとなる。この日のスタジアムでのチーム力の差、クラブとしての力の差を少しでも埋めていくことが求められる。そして、松本は勝点60で、勝点だけでは6位と並んだ。残り3戦の厳しい戦いに向けて勇気づけられる勝利となった。
以上
2013.11.04 Reported by 松尾真一郎
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