試合を終えた選手たちが、メインスタンド前で胴上げを始めた。宙に舞っていたのは背番号19。ただし、秋葉勝ではない。クラブが仕掛けた企画「サプライズメッセージを贈ろう」で、試合前に公開プロポーズを成功させた男性サポーターだった。試合は3-0での勝利。日頃筋トレで鍛えた屈強な選手たちもやや踏ん張りが必要な胴上げとなったが、その表情はどれも笑顔。幸せな空間が広がっていた。昇格レースに目を向ければなおも厳しい現実が横たわっているが、勝って喜べることがどれほど幸せなことか。そんな原点がこの日のNDスタにはあった。
G大阪や東京Vを無失点で破り、最近7試合で二桁失点を喫していない愛媛の守備は、開始12分に早くも破られた。この試合でフォワードに入った山崎雅人の動き出しに合わせ、イ ジュヨンが右足アウトにかけて縦に運んだボールを山崎が左スペースでしっかりキープ。戻したところで伊東俊から意表を突くタイミングでスルーパスが送られ、山崎がここでも先に追いつくと、「スリッピーだったので、思いきって(GKの)足元を狙って打ちました」と秋元陽太の股を抜いて先制のゴールを奪った。「相手が前に出る力と裏を狙うというのはわかってたんですが、それを反応したところのセカンドボールへの対応でほとんど遅れていた。それを拾われて、深いところまで持っていかれた」と石丸清隆監督。さらに「1対1にボールが入ると若干相手の能力の差が出て、それを埋める力が若干足りなかった」と、このあと試合終了まで自陣でのプレーが落ち着かなかった。
一方の山形も、堅い愛媛の守備を破るために奥野僚右監督が選手たちに言葉をかけていた。「今日、特に強調した部分というのは、前方の相手のゴール前付近に行った時に、もっと遊び心をもってプレーしてほしいとお願いしました」。昨シーズンの後半に愛媛でのプレーを経験した伊東が、その遊び心をまずは体現した。
互いに近い距離を取る愛媛のポゼッションは山形のアプローチを巧みにかわし、前半の中盤頃には山形の守備の位置を下げさせる時間帯もあった。また、中盤の山形ボール周辺には相手以上に人数をかけて囲む場面もあった。40分過ぎ、山形に押し込まれた際にも連続してボールにアプローチをかけてヘッドアップする時間をつくらせず、中へボールを入れさせない統率された守備を見せた。しかし、ゴールは再び破られる。前半アディショナルタイムが設定された1分を回る頃、西河翔吾から右タッチラインに沿うパスが送られた。足元で受けた伊東は自陣寄りにボールを持ち出したあと、サイドに流れてきた中島裕希へ縦に送る。相手のディフェンダーを引きつけた中島が中央へ速いクロスを送ると、飛び込んできたのは宮阪政樹。「ちょうど裕希さん(中島)が顔を上げたタイミングで自分も入っていけましたし、ボールがこぼれて来いと思って走っていたので、ちょうどボールが来てよかった」と右足でしっかりミートしたシュートはその直後、ゴールネットに低く突き刺さっていた。「前半の2失点目というのがすごく痛かった」(石井謙伍)。愛媛にとって、8試合ぶりの複数失点が重くのしかかった。
後半開始から、1トップ・河原和寿に代えて190cmの渡辺亮太を投入。しかし、潰されることも多くサポートも十分ではないため、試合の流れを変えることはできなかった。むしろフォアチェックが緩んだ分、山形は組み立ての余裕を与えられ、前半以上にボール支配率を高めていった。そこでさらに輝きを増したのが宮阪。スムーズなパスアンドムーブとミスの少ないボールさばきで相手陣内をかき回し、ブロックの外からは状況に応じたバリエーション豊富なクロスを巧みに使い分けていた。愛媛は74分からコーナーキックを3度続ける場面もあったが、その直後から山形の攻撃がいよいよギアを上げていく。伊東と交代で登場した林陵平が77分、無理な体勢ながらループシュート。バーの跳ね返りに詰めた中島が放ったシュートは枠をそれたが、81分には堀之内聖のスルーパスからここでも林が鋭いシュートをバーに当て、直後にも中島のサイドチェンジを左サイドでフリーで受けた中村太亮が強烈なロングシュートをこれもバーに当てている。後半だけで16本を放ったシュートショーを締めくくったのは、山崎との交代で79分から出場していたロメロ フランク。左サイドでボールを受けた中島が相手の股を抜くスルーバスを送ると、ペナルティーエリア左に走り込み、角度のない位置から枠内にねじ込んだ。振り抜いたのは、前節の負傷で全治3週間と診断された左足。痛みが引いたことで前日のトレーニングから参加していたが、貴重なダメ押しゴールとなった。
「攻撃の部分でなかなか起点ができなかったし、押し上げる場面がなかなかつくれなくて、取ってもすぐ取られてしまったり、セカンドボールの反応も遅かったし、そこでセカンドボールを拾われて相手のペースになってしまった」と石井謙伍。石丸監督も試合後、「率直に言って、今日は完敗です」と語っている。山形は個の能力の差に加えて連動性でも上回り、リーグ戦では4試合ぶりの複数得点。3得点となると7試合ぶりだが、それ以上に山形にとって大きいことは、23試合ぶりに果たした無失点だ。ただしこの試合に関して、リスク管理の意識はあったものの、攻撃を放棄して無失点にしがみついた形跡は皆無。これまで続けてきたスタイルを貫き、攻め続けて達成したことに大きな意味がある。
残り4試合、6位との勝点6差、現在9位……現在置かれた位置はさまざまに表現され、そこに昇格可能性の有無を絡めて語ることもできるが、そうした情報は、ときにポテンシャルを妨げる。どのような状況にあっても、結局は目の前の1試合にフォーカスするしかなく、その積み重ねで今がある。また喜び味わうため、山形は次の試合へと向かう。
以上
2013.10.28 Reported by 佐藤円
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