不思議な巡り合わせである。昨季はこのカードの結果が、その後のチームの命運を大きく左右した。１−０でクロスゲームを制したホームの岐阜は、見事にＪ２残留に成功した。一方、雨の試合に適した戦い方を実行できなかった栃木は敗れ、６位以内に食い込むチャンスを逸し、結局一度もJ1昇格プレーオフ圏を巡る争いに絡むことはなかった。

時を経て再び相まみえる両者。今季の状況も、昨季と酷似している。岐阜は残留争いに巻き込まれ、負けが許されない。栃木はJ1昇格プレーオフ進出に向け、そのターゲットである６位・長崎戦を次節に控える。すなわち、絶対に落とせない一戦となる。リーグ戦残り５試合で迎える、因縁浅からぬこの対決。岐阜がまたしても栃木の野望を打ち砕くのか、それとも松本新体制では５戦負けなし（４勝１分）と絶好調の栃木が勢いそのままに勝ち切るのか。長良川で互いのプライドが激しく交差する。

前節の岐阜は横浜FCと対戦。２度も先行されながら同点に追い付き、勝点１を持ち帰って来た。前々節０−３で長崎に大敗したショックを微塵も見せず、中２日での試合にも関わらず疲れを感じさせない試合運びができた。試合内容からずれば勝点３が欲しかったが、少なくない収穫を得たはずだ。
「本当にいいチームだと思う。勝てていないことが不思議なくらい。最後の最後に踏ん張り切れないだけで、得点も取れている」
そう岐阜を評したのは菅和範。古巣に対するお世辞や気遣いは一切ない。「順位は下から２番目だけど、いいサッカーをする。内容は悪くないゲームが多い。難しい試合になる」と、同じく岐阜に在籍していた高木和正も菅の言葉に同調する。

実際、前節も決定機の数では横浜FCに劣らず、数的不利になってからの約２０分間を全員で守り抜いてもいる。行徳浩二監督から辛島啓珠監督に交代してからの岐阜は守備が整備され、危機的状況も多分に影響しているのだろうが一体感も感じ取れる。横浜FC戦後、「しっかりした守備から入り、先に失点してしまわないようにしたい」と、残り５試合に向けた意気込みを語った辛島監督。その言葉通り粘り強い守備をベースに、ここ５試合で１５ゴールを叩き出している栃木攻撃陣を抑えられるかが、まずは大きなポイントになるだろう。ＧＫ高木貴弘とセンターバックの新井辰也が試合終盤に見せた気迫を、栃木戦では序盤からピッチで披露したい。

前回の対戦を菊岡拓朗とクリスティアーノのゴールでものにした栃木は、最後の最後に得失点差で泣かないために今節も複数得点をマークして勝ちたいところだ。そのためには、目下得点ランキング２位の１５ゴールを挙げているサビアの力が必要なのだが、今節は累積警告により出場停止。かなりの痛手ではあるが、「今は誰が出ても栃木のサッカーができる」（菅）強みを活かしたい。

直近の試合ではサビアとクリスティアーノの決定力が際立っているが、それを陰で支えているのが近藤祐介と廣瀬浩二の両サイドハーフ。２人の攻守両面での献身的な働きがあるからこそ、ブラジル人コンビにスポットライトが当たっているのだ。岐阜は右の染矢一樹と左の美尾敦がキーマン。特に右の染矢のサイドアタックは強力で、ここを封じ込めることが勝利に直結することは言を俟たない。いかに近藤と廣瀬がサイドでイニシアチブを握り、染矢と美尾の守備機会を増やすことができるか。そして、高い位置で奪ったボールから鋭利なカウンターに繋げられるか。この２つが大きなウェイトを占めることになるはずだ。栃木本来の攻守一体となったサッカーを体現し、今節も勝機をたぐり寄せたい。
「岐阜の次は、長崎との直接対決がある。ここで勝たないと、今まで勝ってきた意味がない」
そう熱っぽく語る高木はサポーターの思いを背負い、岐阜戦でも持てるものを全て出し切るつもりでいる。

置かれている状況こそ異なるが、尻に火が付いているのは岐阜も栃木も一緒だ。降格したくないという強い思いと、昇格したいという熱い気持ちが激突すれば必然的に好ゲームになる確率は高まり、主審がタイムアップを告げるまで白熱した攻防が繰り広げられるはずだ。

返り討ちか、リベンジか。共に勝点３のみが必要な決戦から片時も目が離せない。

以上

2013.10.26 Reported by 大塚秀毅