「お互いにチームの状態がすごくよくなってきている。だからこそ、いいピッチコンディションで試合をしたかったですね」。北九州の守護神・武田博行はこの日の空模様を憎んだ。
水戸は7試合勝利から見放されているものの、神戸、徳島、仙台といった強豪相手に互角以上の戦いを演じ、公式戦4試合連続引き分けと調子は上向きつつあり、北九州はリーグ戦5試合で3勝1分1敗とシーズン終盤に向けてチームの成熟度が増していた。培ってきたサッカーに自信を持つチーム同士の対戦となるだけに、戦前、「面白い試合になる」と柱谷哲二監督が予想していたように、好ゲームが期待された。

しかし、この日の天候がその期待を奪った。試合当日、朝から水戸には激しい雨が降り続き、試合中もやむことはなく、公式記録に「不良」「水たまり」と記されたように、ピッチのいたるところに水たまりができ、「サッカーになる環境ではなかった」（柱谷哲二監督）。ボールは前に進まず、思うようにプレーできない。ウォーミングアップ時から両チームの選手ともに戸惑いを見せていた。
だが、そんな天候でも試合を行うのがサッカーというスポーツである。その日の天候、ピッチコンディションによって狙いとするサッカーができなくなったとしても、その環境に合わせたプレーをするのが勝利の条件となる。それがサッカーの難しさであり、面白さでもある。この試合において、その条件を持ち合わせていたのは北九州であった。
「北九州の方が雨の中の戦い方が整理されていた」と柱谷哲二監督が認めるように、主導権を握ったのは強い雨が降り続くピッチ状況に合わせたサッカーを繰り広げた北九州。ボールを奪うなり、シンプルにDF裏のスペースに蹴り込み、守備時には厳しくプレスをかけて水戸にロングボールを蹴らせず、押し込んだ。そして積極的にゴール前にボールを運ぼうという姿勢も北九州の方が強かった。それが実ったのが12分。左サイドから多田高行がセンタリング。水戸DFが対応をミスしたところ、池元友樹が豪快に左足を振り抜いてゴールに突き刺した。その後も北九州ペースが続き、後半開始早々の51分には水戸DFのクリアミスを拾った池元からのクロスを渡大生が流し込み、追加点を挙げる。ピッチ状況をうまく生かしながらサッカーを繰り広げる北九州に水戸は翻弄される時間が続いた。

だが、その流れを覆したのは、水戸の勝利への執念だった。リーグ戦7試合勝利がなく、ホームでも4試合勝利できていない。それだけに「今日は必ず勝ちたかった」（本間幸司）という思いがプレーに表れた。2点のビハインドになっても下を向かずに水戸は前に進もうという気持ちを見せた。前線で鈴木隆行と三島康平が体を張って起点となり、後半開始から投入された船谷圭祐が2トップのサポートをしながら北九州陣内に押し込んだ。水たまりだらけのピッチでは、きれいに相手の守備を崩すことは難しい。それだけに水戸はセットプレーが勝負のカギを握ると見ていた。前線にボールを送り、攻め込んで得たセットプレーでチャンスを作り出す狙いでプレーを続けた。
そして74分に船谷の蹴った右CKを冨田大介が頭で合わせて1点差にすると、89分には水戸が猛攻を仕掛け、ゴール前で北九州DFのハンドを誘い、PKを獲得。鈴木隆行が冷静に沈めて同点に追いつく。
勝利への執念を燃やす水戸の勢いは衰えることはなかった。終了間際、右サイドからのクロスをゴール前で三島がヘディングで落とすと、走り込んだ鈴木隆がフリーでシュートを放つ。逆転ゴールかという期待がスタジアム中に膨らんだ。しかし、ボールはゴール上に逸れていき、万事休す。直後に主審の笛が鳴り響き、試合は2対2の痛み分けに終わった。

両チームともに培ってきたサッカーを発揮することはできなかったが、この難しい状況下でも勝利を手にしようと両チームの選手ともに最後までひたむきに戦い抜いた。決して見た目的には「いい試合」ではなかった。しかし、見る者の心を震わせるだけの「魂」を選手たちは見せてくれた。激しい雨に打たれながら、最後までファイトを続けた両チームの選手たちに心の底から拍手を贈りたい。

以上

2013.10.21 Reported by 佐藤拓也