「まるでテニスのスコアのようだ」とゴトビ監督が評した6-4の打ち合い。前節までは清水が1試合平均1.32点、鳥栖が1.46点というチーム同士の対戦としては、かなり予想外の結果だったが、その背景にはさまざまな興味深いポイントがあった。
ラドンチッチと本田拓也が出場停止の清水は、1トップに伊藤翔を起用して、村田和哉が加入後初先発で右の2列目に入り、大前元紀をトップ下に置いた4-2-3-1の形。最近は、村松大輔の1ボランチで戦うことが多かったが、鳥栖のロングボールに対してセカンドボールを拾うという面を重視したのか、村松と杉山浩太の2ボランチで臨んだ。
対する鳥栖は、GK林彰洋が清水との契約により出場できなかったため、特別指定選手の藤嶋栄介がゴールマウスを守り、ボランチもキャプテン藤田直之の足の状態が良くなかったため、ここも特別指定選手の福田晃斗が急きょ入って、2人の大学生が先発。システムはいつもの4-2-3-1で、清水とがっぷり四つに組み合う形となった。
そうして試合に入った開始2分、中盤で高く上がったボールを鳥栖のエース豊田陽平が頭で左の裏に流し、そこに金民友が走り込んでゴール右隅に決め、鳥栖がいきなり先制点を奪った。清水としては、豊田へのハイボールとそのセカンドボールというのはもっとも警戒していた要素だったが、豊田との競り合いも金のマークも非常に甘く、最悪の形で失点しまったことで守備陣のリズムが大きく狂った。
だが、6分に福田のミスを見逃さずに伊藤がボールを奪い、左足ミドルシュートをゴール右隅に決めて同点。この3カ月ぶりのゴールで伊藤は完全に波に乗った。その後、15分のセットプレーで豊田へのマークが甘くなって2点目を奪われたが、22分には右CKから大前の素晴らしいキックを伊藤が頭で鮮やかに決めて、清水が再び同点に追いつく。
そして、33分には同じく大前の右CKから杉山がうまく合わせて、清水が早くも逆転。さらに42分には非常にスピードのあるカウンターから村田の折り返しを大前が押し込んで4-2。だが、波乱の前半はこのままでは終わらず、終了間際にGKからのロングボールを豊田が裏に流して早坂良太が豪快に蹴りこんで4-3。前半だけで計7ゴールが飛び交う乱打戦となった。
清水としては、3失点とも豊田を抑えきれずにやられた形で、個人的なミスも目立った。鳥栖のほうは、課題であるセットプレーからの2失点と、ミスとカウンターからの失点。鳥栖の側から見ると、豊田へのロングボールが非常に有効だった分、長いボールが多くなりすぎてしまった面がある。「ロングボールだと(相手に)取られたときに(中盤との)距離が遠いから、最初のプレッシャーがかかりにくくなる」(菊地直哉)という理由で鳥栖らしいコンパクトな守備ができなくなってしまう。すると清水の逆襲を受けやすくなり、行ったり来たりの展開が多くなって、前線とDFラインの距離がますます拡がってしまった。
そうなると生きてくるのは、清水のスピード豊かな攻撃陣。それによって得点シーン意外にも多くのチャンスが生まれ、セットプレーにもつながっていた。これが鳥栖の戦い方でもっとも問題になった部分で、ロングボール一辺倒になると自分たちにもマイナスになることをよく表わしていた。
ただ清水のほうも、前の4人が非常に攻撃的で、後ろの6人との距離が空き、こちらも自分たちらしい戦いはできていなかった。つまり、両チームとも攻守一体ではなく、守備陣と攻撃陣に別れて戦っているような状態。そうなると、清水は両サイドバックを本来中盤の選手が務めていることがマイナス要因になってしまう。前半は、そんな両チームの状況が派手な打ち合いにつながっていた。
後半に入ると、鳥栖は福田に代えて藤田を強行出場させ、縦に蹴るだけでなく、つなぐべきところはしっかりつなぎながら全体の距離感を修正することからスタート。それが機能して、立ち上がりから鳥栖が主導権を握った。そして、後半8分には菊地の鋭いクサビと早坂の見事なスルーパスで金が裏に飛び出して、この日2点目を決め、4-4の振り出しに戻した。
その後も鳥栖がペースを握って決定機も作り、後半21分には清水の左サイドバック河井陽介が2枚目のイエローカードを受けて退場。これで鳥栖が非常に有利になったが、だからといって勝てるとは限らないのがサッカーのおもしろいところ。
後半34分にヨン ア ピンの左ロングスローがワンバウンドしてゴール前に入っていったところを平岡康裕が頭で押し込んで、10人の清水が勝ち越し点を奪うことに成功。さらに、43分にはロングボール一発で伊藤が裏に抜け出し、冷静にチップキックでGKの上を抜いて6点目をゲット。伊藤自身にとってはプロ初のハットトリックで、壮絶な乱打戦に決着をつけた。
鳥栖にとってもったいなかったのは、数的優位になった状況で勝利を目指して攻めに出ることは良かったが、その際のリスクマネージメントが十分にできていなかったこと。リスタートから3点取られたことも非常に痛かった。
もちろん、清水のほうにも修正すべき部分は多かったし、サッカー自体のクオリティという意味では疑問も残る。だが、やはりこれだけ得点シーンが多いと、非常にエキサイティングで盛り上がるゲームになったことは間違いない。お互いの守備陣にとっては最悪のゲームだろうが、年に1、2回ならこんなゲームがあっても良いかもしれない。少なくとも清水サポーターにとっては非常に楽しめるゲームだっただろう。
以上
2013.10.20 Reported by 前島芳雄
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