試合終了後、清水サポーターも含めたスタンド全体から「ツエーゲン金沢！」の大コールが湧き起こり、金沢の選手たちが清水サポーターにあいさつに向かう。天皇杯でよく見られる光景ではあるが、金沢の戦いぶりは、単純に「よく頑張った」という以上に、質の高さで清水サポーターをうならせた。

金沢は立ち上がりから守りに入ることなく、行けるタイミングでは前線からプレッシャーをかけに行って、行けない時は素早く守備のブロックを整えて守るという戦い方。JFLでは経験できないラドンチッチの高さ・強さに対しては、できるだけ2人で競りに行って、その他の選手がセカンドボールに素早く反応するという形で対応。その中での全体の意思統一や全員の早い動き出しという部分で非常に良い入り方を見せた。
それに対して清水のほうは、動きの面で少し遅れをとり、プレスも甘くなってボール支配率で圧倒することができない。そのため金沢の選手たちは徐々に自信をつかんで持ち前のテンポの良いパス回しを見せ始める。とくに前線3人の連携や中盤のサポートが良く、前半30分あたりまでは金沢のほうが最終ラインを突破する場面を多く作った。
そんな中で迎えた20分の金沢の右CK。佐藤和弘がマイナス気味にグラウンダーのボールを入れ、ニアで1人スルーして、その後ろから入った阿渡真也が1タッチシュート。GKの前に立った選手がうまく目隠しをして左脇を抜き、金沢が価値ある先制点を奪った。
さらに得点直後にも、金沢が綺麗なワンタッチパスを連続させた突破によってGKと1対1の場面を作り、ここはGK櫛引政敏の好守に阻まれたが、あわや2-0という場面を演出。ここまでは完全に金沢が主導権を握っていた。

その後、清水のほうは1点取られて目が覚めたというわけではないだろうが、徐々に圧力を増していく。ただ、金沢は押し込まれた中では5バック気味になってサイドのスペースを消し、中盤4枚と最終ライン5枚で守備のブロックを作って、なかなかつけいるスキを与えない。金沢の戦い方は、広島と浦和で結果を残しているペトロヴィッチ監督の影響が感じられるスタイルで、それは清水がつねづね手を焼いている戦術。金沢はそれを全員が規律高く遂行しているため、攻略するのはけっして容易ではなかった。
それでも金沢に疲れが出始めた前半の残り5分を切ったあたりから、清水がうまくDFラインの裏をとる場面を作り始める。そして47分、竹内涼のループパスで大前元紀が裏に飛び出し、GKの直前でボールを浮かして上を抜き、前半のうちに同点に追いつくことに成功した。その後もわずかな残り時間で清水が続けざまにチャンスを作り、この時間帯は清水がJ1の力を見せつけた。

だが後半に入ると、再び金沢が体勢を整え直して、前半と同様の拮抗した展開に持ち込む。そこから大きく流れが変わったのは、後半16分に本田拓也と高木俊幸と清水が主力2人を同時投入したところからだった。本田が最近の試合とは異なるアンカー（1ボランチ）の位置に入り、そこでボールを落ち着かせながら広い角度にボールを散らせたことで金沢がなかなかボールを奪えなくなったことがまず大きなポイント。さらに本田からのミドルパスが両ウイングに通って、高木俊幸や大前がドリブルでサイドを押し込み、18分と19分に続けざまにビッグチャンスを作るなど、清水が攻め込む時間がさらに増えていった。
これで前半から飛ばしていた金沢の体力がますます奪われていく。終盤は明らかに動きが落ちた選手や足がつった選手が見られ始め、押し込まれる時間が続く中で何とか気持ちで踏ん張っていた。
しかし、アディショナルタイム目前の後半45分、本田のロングボールを裏に走って受けた高木俊が、DFを1人外して右足ミドルシュート。これが左ポストぎりぎりに決まって、ついに清水が均衡を破った。
だが、これでギブアップしなかったことが金沢の素晴らしいところ。4分と表示されたアディショナルタイムで果敢に反撃に出て、失点の1分後に右からのパスを清原翔平が1タッチで裏に落とし、佐藤和弘が裏に飛び出して冷静にゴール右に流し込んで再び試合を振り出しに戻した。前半から質の高いラストパスを連発していた清原のアシストで、その前に両脚をつっていた佐藤がゴール。土壇場で見事に自分たちの底力を発揮した。
さらに49分にも、清原がわずかに左に外れるミドルシュートを放ち、勝ち切る可能性も見せた。しかし、本当に最後の最後、ヨン ア ピンのロングキックをラドンチッチが頭で裏に流し、うまく抜け出した高木俊がまたも左ポストぎりぎりに決めて、清水が再逆転。その直後にタイムアップの笛が吹かれて、清水がなんとか4回戦に駒を進めた。

清水としては、次のリーグ戦を考えると延長戦に入らずに試合を決められたことと、高木俊が結果を出したことは収穫だったが、観ている者に強い印象を残したのは、やはり金沢のほう。最後はパワープレーに対応しきれなかったが、自分たちの戦い方を変えずに堂々とJ1チームと渡り合ったことは、今後に向けて大きな自信になるはずだ。

以上

2013.10.15 Reported by 前島芳雄